第二百六十三話
みんなこういうときは人型戦闘機から降りたがるもの。
だけど誰も降りようとしなかった。
だってまだ虫いるかもしれないし。
「帰りてえ……」
メリッサが弱音を吐いた。
うんみんな思ってる。
でもこれ必要なことなのよ。
いや軍からしたら共和国民の命なんて二の次なのね。
だって帝国軍は帝国民と帝国を守るのが仕事だし。
でも俺たちは違う。
俺たちは軍人でもあるけど学生だ。
10代後半のガキである。
いいことしてる感がないとすぐにやる気をなくす面倒な生き物なのだ。
ここで【共和国民見捨てろ】なんて言ってみろ。
みんなすぐにやる気なくすぞ。
いやプロの軍人だって自分が正義の側じゃなければやる気起きねえだろ!
というわけで隊員のメンタルのための任務でもある。
だから俺は気合を入れる。
この程度で折れてられるかよ!!!
和平のフラグかもしれないしね。
マザーは殺さなきゃ終わらないだろうけど、その後の共和国民との和平もあるかもしれない。
交渉できればだけどね。
ただ虫の脅威は計算外だった。
みんな心が折れて……。
「あははははは! これもかわいい妹分のためだ! みんなやろうぜ!!!」
メリッサが笑う。
女子も男子も気合を入れた。
やはりメリッサは女子の中心人物だと思う。
ケビンが施設の中を調べてくれる。
例の蜘蛛のドローンを使う。
「蜘蛛のドローン最強すぎてな……あとでテロ起こりそう」
「大丈夫じゃないですかね? 今のところケビンちゃんしか使えませんし」
妖精さんが涼しい顔で言った。
「なして?」
「ある程度オートって言っても人間の処理できるタスク量じゃないですからね。おそらく女性型のゾークにしか使えないかと」
よかった……後の世の地獄は回避できた。
女性型ゾークの子孫の時代が来たら……ま、その頃には俺は死んでるな。
知りゃない。
蜘蛛のドローンをばら撒くとケビンが起動。
シャコシャコと移動していく。
うーん、虫に襲われた後だとビジュアルがキツい。
「マップ作成するね……ここ研究所みたい」
研究所……嫌な予感しかしない。
「な、なにを研究してたんだろうネ……」
俺は震えた。
なんの研究であれ人体実験以外考えられない。
「ケビンちゃん、人質はどこかな?」
クレアが助け船を出してくれた。
俺も含めたやばい想像をした連中がシャキッとする。
「なにか開かないドアが……あ!」
バチンと音がしてケビンとの通信が強制終了した。
ケビンも含めて戦艦との通信が繋がらない。
「アナログ回線で通話するね! レオ! すべての通信チャンネルダウン!」
クレアから連絡が来た。
「妖精さんは!? クソ! 繋がらない! 再起動……」
「しばらくかかると思う」
孤立したけど危機ではない。
通信が繋がらないのは戦艦も把握済みだろう。
妖精さんが大騒ぎしてくれてるはずだ。
時間かけて待ってれば増援が来るだろう。
……来るよね?
「それでどうする? レオ」
エディが聞いてきた。
「うーん、敵がいるのは確定だろうけどさ、敵の思惑に乗るのは面白くねえなと。ここで待つか先に進むか、敵が嫌がりそうな方を考え中。エディどう思う?」
信頼する副官殿である。
俺では考えつかないようなナイスアイデアが出るに違いない。
「だとしたら時間が問題か。レオ、俺たちをここに足止めすると得するのはゾークか?」
「反転攻勢かけるとかじゃなければね。その可能性を考えてタチアナ置いてきたし。俺らは時間かけてもいいし、電撃作戦でもいい。でも無理する必要はないってとこかな」
結局、相手の選択肢を狭めるのが戦略というものなのだろう。
陣取りゲームと相手のコントロールゲーム、これをちゃんと心に刻まないとね。
ゲーム感覚。これ大事。
「で、どうするよ?」
「待とうかな」
なんて口に出したのがまずかったのかもしれない。
休もうと思ってとりあえず置いた警報機から音がした。
まだ有刺鉄線設置してないのに!!!
「敵襲!」
結局、俺たちが動かないから向こうからやってきやがった。
やはりこういった心理戦は共和国の文明から失われているようだ。
絶望は知ってるんだろうけど、マザーがあいつらの意見をくみ上げることはないだろうしね。
敵は見知った寄生型のゾーク。
やたらグロいキノコみたいなのが頭にくっついている。
生き物にも寄生できたのか!
懐かしさすら感じる。
寄生先は例の緑色の毛が生えた虫。
よく観察するとカマキリかな?
やたらグロいけど。
アサルトライフルで撃つ。
というか閉鎖空間なのだ。
虫相手ならこちらの方が強い。
蜂の巣にするが……うわーお、潰れても動いてる。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
胴体の潰れた虫が襲いかかってくる。
きもッ!!!
きもすぎる!!!
そのまま飛んで俺に襲いかかってくる。
俺は寄生型の本体の方に蹴りを入れる。
潰れたかな?
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
うっわ! まだ死なないの!?
何度か踏み潰すがまだ動く。
「旦那様!」
俺が横によけると、レンがショットガンで撃ってくれた。
ようやく動かなくなった。
ほへー。
「レオ! 次が来るぞ!」
「撃て! オーバーキルするつもりで蜂の巣にしろ!!!」
もうやだこの虫!
寄生体になったらもっと気持ち悪くなってる!
これ歩兵で突撃してたら何人死んだかわからんぞ!
完全に嫌がらせじゃん! こんなの……あッ!
「どうしたレオ!?」
「俺たち奥に誘導されてる?」
「奥に何があるんだよ!?」
「わからんけど面白くない話だろ! そしたら……横に行くぞ!!!」
「横?」
「そっちだ!」
俺は右奥を目指す!
「レオ! 根拠は!?」
「勘!」
「みんな! レオの勘だ! 右奥に逃げろおおおおおおおおおおおッ!!!」
みんなはすぐに俺に着いてきた。
なぜか根拠あるときより信頼される勘。
おかしいな。
上級士官としてロジカルに考えようと努めてるのに。
でも信じてもらえるのは勘という。
シャッターがあった。
たぶん防火用。
「みんな! そこの中に入って!!!」
みんなが入ってきたのと同時にエディとシャッターを下ろす。
ふう……。
予定外の行動すると当たりが強いな。
絶対、正規ルートなんて行かねえぞ!!!




