第二百六十二話
またもや名前のついてない惑星だ。
無主であるし価値がない。
大気があるのはかつて中途半端にテラフォーミングして撤退した名残だろう。
とはいえ森は形成されていて木と草と虫は大量にいるようだ。
気温は高く熱帯の気候だ。
すごしやすそうな気がするが、おそらく病原菌が蔓延していると推測される。
いやだってこんな僻地で熱帯で誰も住んでないとかありえないじゃん。
なにかとてつもない問題があるぞ。
敵らしきものはおらず……ってこの時点で怖いわ!
そう……怖いのだ。
俺が何もいないのにビビリ散らかしてるのだ。
「生き物の反応はあるよ。体温からすると哺乳類かな」
ケビンがかなり真面目に斥候をしてくれた。
クレアも斥候に協力するがなにも出てこない。
ウサギ一匹見ない。
一応、人工物はあるがほとんどが朽ちていた。
その中でやたら巨大な軍事施設風のものがあるのを発見した。
あまりにも俺がビビリ散らかしてるので人型戦闘機で近くに降下する。
一面に湿原が広がり、川の近くはジャングルになっていた。
降下して一番最初に土を掘る。
うわー、水浸しだわ。
土は泥炭土だ。
有機物が分解されてない土壌だ。
農業するには難しいかな。
土壌改良するんでも帝都から遠すぎて投資の回収は難しいな。
「レオ、どう?」
「あーうん、収益性がなさそうな土地だわ」
水耕栽培もな。
結局自前で肥料を算出できなきゃコストがかさむ。
準男爵当たりに押しつけても近くの貴族の奴隷になるだけ……ならまだいい方か。
実際は差し出すものがなければ放って置かれて全滅するだけだ。
帝国の補助金も将来上向く可能性がなければ出ないだろう。
領主になるまではわからなかったけど、経済的合理性ってのはかなり大事なのだと思う。
領民を食わせていけるかって話だからね。
だから放棄した連中はシゴデキ。
コンコルド効果で資金投下し続けるのを理性で抑えたわけである。偉い。
同じ立場だったらマネできる気がしない。
「うーん諸行無常……うん?」
視界の隅をなにかが横切ったような……。
エディたちもやってきた。
イソノが「野球しようぜ!」ってノリで話しかけてくる。
「おう、どうしたレオ」
「なにかいる」
「なにかってザリガニか?」
そりゃザリガニいるんだろうけどさ。
なにか緑色のものが……。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
「あん?」
それは草だった。
草がイソノ機に上から覆い被さった。
良く見たら虫みたいな足が生えてる。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
それはガチの悲鳴だった。
俺でも少女みたいな悲鳴出すわ! こんなの!!!
「取って! 早く取ってええええええ!!!」
イソノがガチ泣き声で助けを求める。
我に返った俺は虫に蹴りを入れる。
結構軽い!
虫だからか。
「うわああああああん! もうお婿にいけないいいいいいいッ!!!」
体液でベトベトになったイソノがガチ泣きした。
俺でも泣くわそんなの!
虫は草に擬態したものだった。
おそらく肉食で動いてる俺たちを見つけて噛みついてきたのだろう。
イソノの機体は……大丈夫だ。
塗装がハゲただけだ。
前言撤回、コンコルド効果なんて吹き飛ぶくらいに危険だったのね。
でさ、これが一匹だけだったら笑い話だ。
珍しい生物がいたよで終わる。
だけど現実は厳しかった。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
あちこちからガチガチという威嚇の音と鳴き声が響いてきた。
囲まれてね?
「戦闘用意!!!」
俺が叫ぶとみんな焦りながら銃を構えた。
なんとなく予想してたけど、俺たちは囲まれてた。
湿原の草のかなりがこいつらだったのだ。
そりゃこんなでかい虫いれば惑星開拓無理だわ!
「こいつらゾークなのか!?」
エディがライフルを撃ちながら叫んだ。
「たぶん違う!」
俺も虫を撃っていく。
「旦那様! ショットガンにします!」
そう言ってレンが散弾銃で突撃する。
危険生物相手の戦いじゃレンが頼りになる。
だってそもそもビースト種は危険生物と戦うために作られた種だもの。
……部屋にGが出たらレンにまかせよう。
カニだって気持ち悪いのに緑色の草みたいな毛が生えた虫とか無理だろ!!!
レンが次々倒していく。
どうやら攻撃は効果あるようだ。
知性はなさそうだけど、凄まじい数の暴力である。
だがこちらに損害はない。
人型戦闘機のボディーを貫通するほど強い攻撃力があるわけじゃなさそうだ。
ただひたすら不快!
それに戦闘機から降りることができない。
生身だと怪我するかもしれない。
もうやだこんな惑星!
「レオ! 爆撃するよ!!!」
ケビンがそう言ってくれた。
ふえーん。
ナパームである。
ただね、酸素ゴテ盛りの惑星だからその威力は死を予感させるものだった。
ちゅどむ。
要するに俺たちの機体は表面が黒焦げになったわけである。
泣きそう。
それでも虫たちは俺たちに向かってくる。
まるで火の恐ろしさを知らないような……。知らないのか。
周囲の虫が焼き尽くされ……泥炭に火がつかなくてよかった。
虫たちの死体を越えて俺たちは人工物に必死に走る。
湿地帯でローラーダッシュ使えないからホント死ぬ気で走る。
「だ、第二波来るぞ!!!!」
「く、くるなあああああああああ!!!」
「ざけんなああああああああああああッ!!!」
まさに阿鼻叫喚である。
「ドア開けます!」
妖精さんがハッキングしてくれてドアが開き、俺たちは滑り込んだ。
「閉めて!!!」
「らじゃです!!!」
扉が閉まり、あの不快な虫から逃れることができた。
「エディ、末松さん連れてこなくてよかったわ」
「……同感」
ギャグ要員で連れてこようかと思ったが、今回は戦艦でタチアナとワンオーワンの護衛をさせている。
足が遅いから連れてきたら扉閉まるまでに間に合わなかったわ。
前線に来てるのはアリッサだけだ。
でも大丈夫。
今ので確信した。
ギャグ世界だわ。今のところ。
施設の中は工場みたいな施設だった。
うーん、帝国製かな?
本当に人がいるんだろうか?
「ドローンで調べるね」
ケビンのドローンが奥に行く。
なんだろうか。
精神的疲労が激しすぎる……。




