第二百六十話
食堂でワンオーワンに意思の確認。
だけど般若みたいな顔したクレア、メリッサ、レン、ケビンに……あと女子ほとんど全員と戦艦クルーの女性たちが周りを囲んでた。
そして真向かいには仁王みたいな顔になっている男子と男性クルーが圧をかけてくる。
そして嫁ちゃんは無の表情でブチ切れてた。
ですよねー、みんなのワンオーワンですもんねー。
にしても漏れるの速くね?
みんなにわざとリークしようかなって嫁ちゃんに相談しようかなって思ったころにはすでに戦艦内で噂が広まっていた。
たぶん犯人は嫁ちゃんと妖精さん。
俺……逃げていいかな?
だけどワンオーワンは俺の腕にしがみついてる。
タチアナも腕をつかまれてる。
ここで逃げるわけにいかんな。
「みんな。落ち着け……頼むから……」
そう言うと女子が般若の顔で俺を見る。
心折れそう。
「だってあいつら! ワンちゃんをマザーにしろなんて言ったんだよ!!!」
いつも冷静なクレアが叫んだ。
そりゃ怒りますよね。
「隊長、あいつら長期生命維持装置に放り込んだまま置き去りにしたんだろ。だったらうちの子だよな? あいつらに使わせる理由なんてねえよな?」
メリッサが持ってたスチール缶を握りつぶした。
レンは黙って下を向いていた。
レンはこういうときに自分を抑えてしまうのだ。
「みんな! もう関係ねえよな! ゾークどもぶち殺すぞ!!!」
正直言うと俺たちは共和国民の幸せなんてどうでもいいわけなんだよね。
形上解放すれば大義名分が立つ。
あとがどうなろうと知ったことではない。
それが現実である。
するとここでアオイさんが食堂に入ってきた。
「資料ができました」
そう言って資料をファイルで配る。
「ゾークマザー化ですが、私の知る限りでは危険性はないと思われます……ただし今はわかりませんが」
ですよねー。
外宇宙の生命体と接触したあとはわかりませんよね。
「マザーになるとどうなるんです?」
レンが聞いた。
やはりレンも内心では心配だったようだ。
「支配の力を使おうとさえしなければ中継装置と変わりません」
「不穏だろ!!! なに支配の力って!?」
思わずツッコミを入れてしまった。
「その名の通りゾークを支配して思考能力を奪う力です。共和国は外宇宙に追放されましたので。外宇宙で生きていくためには迅速な意思決定が必須。異論は封殺するしかなかったのです。問題は……」
もうやだ。
そんなのワンオーワンにやらせたくない。
「普通の人間には耐えられません。数百万人、いや数億人を同時に動かすのと同じですから。精神への負荷が多大すぎるのです。そこでゾークマザーを作るために外宇宙生命体の技術と遺伝子を使って人工的な進化をすることになったのです。その結果、私は体を奪われてあの施設に封印。絶望たちは……おそらく奴隷扱い……いえ、消耗品扱いされていたのではないかと思われます」
絶望と戦うと嫌な気分になるのはそういうことか。
「できれば私が代わってあげたいところですが……体を再建したところ力も弱くなりました。神経など改造した部分も失われましたので。今の私ではゾークマザーたりえません」
すると嫁ちゃんが口を開いた。
キレたままで。
「共和国民はかわいそうじゃが、我らがワンオーワンを差し出す理由にはならぬ。論外じゃ。それにワンオーワンがマザーになったとしても状況は変わらぬ。共和国民と戦闘になれば殺すしかない。ワンオーワン、断れ」
ところがワンオーワンの返事は意外なものだった。
「自分やるであります!」
「はい?」
「少佐殿! 自分やるであります! もともと自分は外宇宙探索用の兵として国民の皆様の役に立つために生まれました! マザーになればその命令を達成できるであります!!!」
一番最初にキレたのがタチアナだった。
「そんなの放っておけよ!!! 人の役に立つとかどうでもいいだろ!!! 自分の幸せを探せよ!!!」
「タチアナ、自分の存在意義であります」
「それ言ったらアタシだってそうだろ! 家族を慰めるためだけに作られたクローンなんだからよ!!! でもよ! アタシは自分で自分の人生切り開くつもりでここにいるんだ!!! お前だってそうだろ!?」
「でもタチアナだって【軍のおっさんが決めたことだけど少佐ってカッコよくね? アタシラッキーじゃね?】って言ってたであります」
「お、お、お、お、おめええええええええッ!!! バラすなああああああああああッ!」
あ、ジェスターの能力が発動した。
すべてがギャグになるフィールド発生したわ。
女子たちも「まあ、レオくんだし。レオくん相手じゃしかたないよね」って納得してる。
俺はすでにそういう存在なのだろう。
なお男子は血の涙を流しながらヒソヒソ「レオの野郎、やはり殺すか?」などと話してる。
まだギャグですませられるレベルだろう。
っていうかお前ら婚約者いるだろが!!!
イソノまで婚約者決まったんだぞ!
……あとでカトリ先生と結託してスパーリングの名目でボコしてやろう。
「タチアナには迷惑かけるでありますが、自分を守って欲しいであります! タチアナは自分の相棒であります!!!」
その瞬間、タチアナの顔がぼふっと真っ赤になった。
「お、お、お、お、お前! そういう恥ずかしいこと……」
「自分はタチアナを信頼してるであります!!!」
タチアナはひねたガキである。
だからしてこういう直球のに極端に弱い。
顔真っ赤にして否定するが、みんな暖かい顔で見守ってる。
「しかたないのう。わかった。婿殿も守ってくれ」
「へーい」
「タチアナ。無理はするな。お前は婿殿とは違う。その……半分シリアス側の存在じゃ」
待て、俺はギャグ世界から生まれ出でた存在と言いたいのか?
「無理をすれば死ぬかもしれぬ。婿殿ならどんな状況からでも生存する気がするがの」
嫁ちゃんは女子の方に歩いて行く。
そしてアリッサの目の前に立った。
「今回はお主の超能力にも期待せねばならぬ。新婚なのにすまぬな」
そういやアリッサはエッジと籍を入れたらしい。
みんな公認のカップルだし別に問題ないしね。
「うん、まかせて!」
こうしてお笑い三銃士による作戦が開始されたのである。
……二人はお笑い特化じゃないのか。いいやお笑い三銃士で。




