第二十六話
惑星ミストラル近くにまで接近できた。
メッセージ送ってもガン無視というミストラル公爵家に物理的にお近づきになろうとするとこの辺で公爵軍に捕まる。
親父と一緒に何回か捕まったからリアルガチの情報だ。
ナノマシンでも治療できない重篤な怪我をしなかったのは親父もデクスター兄もギャグ世界の住民だったからだろう。
「ふっ、ふふふ! 今日、俺は過去の自分を超えて公爵家に接近したぞー!!!」
「妾の配偶者が大声で情けないことを言うな!!! 殴るぞ!!!」
「いやだってさー、あいつら猟犬型ドローン放ってきてさー。親父もデクスター兄も俺とサム兄置いてさっさと逃げちゃってさー、二人とも尻噛まれて泣きながら逃げたんだよな。バイクの運転はそのときにおぼえたんだよなあ……盗み方も。……嫁ちゃん、ちょっと惑星カミシロに戻って親父とデクスターの野郎殴ってくるわ」
「さっさと配置につくのじゃ!!!」
「へーい」
俺はジェスター専用機に乗り込む。
クレアはまだ搭乗してない。
デッキでドローンオペレーションをしてるはず。
クレアは第1種偵察ドローンオペレーターという上級資格持ちなのだ。
近衛隊ですらも上級資格持ちはいない。
本来なら縁の下の力持ちなのだ。
全搭乗員用にクレアの通信が入った。
「ドローンの画像解析結果を表示します。責任者クレア士官学校学生。送信します」
画像が送られてくる。
「惑星ミストラル。公爵軍は現在後退を余儀なくされてます。すでに惑星の半分はゾークに支配されたことを確認。市民IDチップの情報から人口の半分は食料になったと思われます」
「軍はどうじゃ?」
嫁が質問した。
「公爵軍は敗走を続けてます。帝国への報告書によると【レオ・カミシロの情報のため信用できず】と実弾兵器の使用を拒否しているようです」
うちの家どんだけ嫌われてるの!?
いくらなんでも嫌いすぎじゃない?
すり寄り方がちょっとウザかっただけじゃん。
「えーっと……、歴代カミシロ侯爵家によるストーカー行為の裁判や通報記録が証拠として添付されてます」
「……えっとさ、俺が責任取らなきゃならん案件?」
「……運が悪かったと思うのじゃ」
ガチで憐れむのやめて。
すると嫁がワイプで顔を表示した。
「こほん。レオの家のことはいったん置こう。レオは皆に約束したな? 皆の実家も取り戻すと。その第一歩の作戦じゃ。ミストラル公爵家を選んだ理由は力を持った貴族だからではない。単に近いからだ。そしてこの惑星は資源量も多い。ここを足掛かりにして次は帝都惑星を奪還する。最初は皆の家族を。妾の家族や皇帝陛下は最後でいい。皇帝陛下は真の男じゃ。自分でなんとかするじゃろう。まずは皆の家族を救うことをこのヴェロニカが約束しよう!!! 本当に最後でいいからな」
ヨメェ!!!
どさくさ紛れに大嫌いな父親を抹殺するつもりだな!!!
「こほん。クレア! 敵の数はどうじゃ?」
「惑星カミシロを襲ったゾークの4倍と推測されます」
「というわけだ諸君。わかるな? 戦いにならん。すでに市民の半分が死亡。絶望的じゃ……だが手はあるといったらどうする?」
「あるの!?」
「おう、あるぞ。ミストラル公爵記念博物館。そこに100年前のドローンが多数収蔵されておる。ドローンだけじゃない。旧型戦車に飛行機に武器もたくさんあるぞ。すべて実弾じゃ」
「なんでそんなものが……」
「ミストラル公爵は代々倹約家として知られておる。軍の装備すら捨てずに取っておくほどのな。ミストラル家の屋敷には財宝だけではなく書類から日記から旅行のお土産までありとあらゆるものを収集していると聞く」
「それ単にゴミ屋敷の主じゃ……」
「ある程度屋敷に物がたまったら、具体的には物が屋敷の天井に届いたら博物館を建ててそこに物を展示するそうじゃ」
「それ完全にゴミ屋敷ですよね?」
「ええい! 気にするな! 今回はそれでなんとかなりそうなんじゃ!!! いいな! 博物館を奪取しろ。旧型ドローンを起動すれば互角以上に戦えるはずじゃ!」
ゴミにヒントがあるなんて……。
みんなそう思っただろう。
「それで惑星にはどうやって侵入するんです?」
「レンにIDを発行してもらった」
「でもレンに発行権限があるんですか」
「それはその……データをちょいちょいしてだな」
「ハッキング!?」
ちょっと待って、識別IDを偽造できるだと?
それ腕のいいハッカーじゃ……。
「レンは実に優秀なエンジニアじゃ!」
「なあに識別IDは偽造したが、ちゃんと公爵家に援軍だと伝えて侵入するから安心せよ」
嫁は宇宙で一番信用できない発言をした。
「さ、婿殿。先陣を切るがよい」
「へーい」
やる気でない。
するとクレアがやって来る。
「ごめん。今配置につくね」
「ういーっす」
クレアが搭乗した。
バーニアを装着すると扉が開いた。
宇宙空間から侵入だ。
「大気圏侵入兵装オールOKです」
「発進!!!」
バーニアに火が付いた。
「婿殿。裏の作戦はわかっているな?」
「レンの家族の救出だな」
「そうじゃ。ただ家族に関しては公爵だけ救出すればいい。他はレンの敵じゃ」
「了解」
機体が発進した。
レンからの通信が入った。
「レオくん。今回の機体を説明させて。前回の反省をふまえて関節を強化したよ。接近戦が好きなようだから前回は槍にしたけど。槍は苦手なんだってね。背中にウォーハンマーを装着したよ。無反動アシストつきだよ」
あくまでゼロ距離でバチボコにぶん殴る展開が強制されるのか……。
というか無反動って。
ぶんなぐって衝撃が伝わる瞬間に別方面に爆発起こして威力を相殺するだけだ。
視界はよくなるが、うるさいのは変わらない。
「それと惑星カミシロで今まで手に入らなかった鉱石が手に入ったから銃器を一新したよ。散弾銃と軽機関銃を搭載したよ。それとお気に入りの対物ライフルも」
別にお気に入りじゃないもん。
ただしかたないから使っていただけである。
「それとエネルギー設計を抜本的に見直して攻撃用のラインを廃止したよ。このおかげで出力が上がってるけど無理しないでね」
やるなよ! 絶対やるなよ!!!
ですね。
レンの喜ぶ顔を想像しながら俺は宇宙へ飛び出した。




