第二百五十九話
侵入?
妖精さんがいるのに?
「そんなこと可能なの?」
「そりゃできますよ。このシミュレーターは一般の商用ネットワーク使ってますから。そもそも私がネットワーク侵入し放題なのはマザーAIのオリジナルだからじゃなくて、プログラムじゃないからですし」
「どういうこと?」
「人間ですんで。手元も接続先もないんです。なんで既存の検知に引っかからないんですよ。やりすぎると不正な電流検知でハードウェアの方が落とされることはありますけどね」
「初対面でリニアブレイザーの中にいたのって……」
「ある日急にムカついたんで人類滅ぼそうかなってテヘッ♪ 盗んだリニアブレイザーで暴れようかなって入ったら倉庫にしまわれてしまいまして。で、せっかくなんで頭冷やそうと思って積ん読解消してて気づいたら数百年後に……」
人類は知らないうちに滅亡を回避していたらしい。
ありがとう! クリエーターのみなさん!!!
それはいったん置くとして、目の前の巨大な女性はなんだろうか?
「おっぱいでかいな……はッ! ゾーク!!!」
「もー! おっぱいに反応しないでよ!!!」
ケビンに怒られた。
とはいえ女性は全裸や半裸ではない。
戦艦に乗るときの嫁ちゃんみたいな服装だ。
軍服と巫女さんの中間というか。
それにしてもでかい。
おっぱいで圧死するという夢を叶えられそう……そんな願望はない。
「ジェスター。聞こえてますか?」
「へいへーい聞こえてますよ~」
「あ、レオ! 勝手に応答した!」
いや勘がね。
危険な感じしないのよ。
サリエルは最初からヤバい感じしてたけど。
「私は【絶望】の三番。アヤメと申します。階級は少尉ですが……もう軍は機能してませんので」
今まで会った絶望が階級名乗ってたけど意味なかったのか。
「それでなんの用?」
「情報の開示です。ご安心ください。私にはハッキング能力はありません。私は物理的に介入できる能力者です。この会話もマザーには盗聴されません」
「情報の開示?」
「ええ、まずは座標を送ります。そこに惑星サンクチュアリの隣の惑星に共和国の帝国侵攻軍が囚われてます」
「不明なデバイスから座標が送られてきましたよ! こんな手で……」
妖精さんは悔しがってる。
それよりも俺は気になったことがあった。
「ニシナの部下?」
ニシナも最初に遭遇したおっさんも人質が取られたと言ってた。
「私たち全員の部下でもあります」
なるほど。
共和国でゾーク化してない、もしくは旧型のゾークが集められてるのか。
「そもそもなんで君ら仲間同士で争ってるのよ」
「外宇宙生命体が原因のようですが……マザーの真意はわかりません。とにかく我らを粛正する方針のようです」
共和国の内情もひどいものである。
「で、俺になにをさせようってのよ?」
「部下を助けて欲しいと思ってますが……情報漏洩を防ぐためにもゾークネットワークから接続解除せねばならないと思っています」
「どうやって?」
「……新しいゾークマザーを誕生させます」
「へー……」
急に嫌な予感がしてきた。
「ちょっと待って」
「さすがジェスター。お考えのとおりです。あなたの隊にいる……」
「あ、アオイさんをマザーにしろってことぉ!?」
「少女をマザーにして欲しいのです」
うん?
アオイさんはさすがに少女って年齢じゃない。
本人も脳プカにされたの20代のころだって言ってたし。
では……いったい。
ケビンは……?
「え? ケビン?」
「いえ、もっと原種に近い存在です。あなたが保護した少女です」
「ワンオーワンだよ! レオ!!!」
「え、やだ。ワンオーワンは渡さん!!!」
かわいい妹分になにをする!
絶対に渡さない。
「こちらに引き渡す必要はありません。ただ持っている力を解放してくれさえすれば」
それだったら……って俺が決めてどうする!
嫁ちゃんたちにも聞く必要があるが、肝心のワンオーワンがどうしたいかが重要だ。
「……持ちかえって検討していい?」
「ええ。ご自由にどうぞ」
俺はひっそりとほくそ笑んだ。
これでアヤメが俺たちを騙そうとしていても問題ない。
なぜならエッジたちとタチアナに守らせればいいのだ。
俺が注意を引いてジェスター二人に原作主人公が守る。
完璧な布陣だ。
卑怯? 知らない子だなあ!!!
ま、それもワンオーワンの意思次第だけどね。
「それで、どうやって戻ればいい?」
「戻します。また後日……」
こっちからアクセスする方法はないってことか。
プログラムが終了する。
俺たちは軍艦のシミュレーションルームにいた。
ふむ、なるほど。
「レオ! 帰ってきた!?」
ケビンがやってきた。
なるほどねー。
「妖精さんいる?」
「いますよー! キーッ!!! 出し抜かれた!!! 悔しい!!!」
妖精さんは正常っと。
俺はナイフを抜く。
「な、なにやってるの!!!」
ケビンが慌てるが俺は正常だ。
手の平を斬る。
血が出た。
痛い。
「うん、現実だ」
俺が敵だったら現実と見せかけて幻覚の中で操って洗脳する。
でもそのカード切らないってことは敵じゃなさそう。
ナノマシンを飲んでおく。
「ほら、貸して!」
看護師資格を持ってるケビンが血を吸い取るポリマーを傷口に当てて止血。
血が止まったら傷用のボンドで傷口を塞いでくれた。
「いつものホチキスじゃないの?」
毎回深い傷はホチキスで応急手当してた気がする。
「だって! 一番動かすとこ斬っちゃうんだもん! これしかないの!」
「次は腕にするわ」
「や・ら・な・い・で!!! クレアちゃんに言いつけるよ!」
「あ、はい。反省してます」
血が止まったので嫁ちゃんに連絡。
「絶望から連絡があった。妖精さんが座標もらったから送っとく」
「来たぞ……待て、前と違う座標じゃぞ」
えー……どういうことかな?
嘘をつかれていたとか?
「どちらにせよ片方ずつしか解放できぬ。まずは近い方に行くぞ」
近い方はニシナが提示した方か。
「それと絶望はワンオーワンを新しいマザーにして支配から解放されようとしてる」
「は?」
それは最高に不機嫌な声だった。
嫁ちゃんにとってもかわいい妹分である。
さすがにキレるわ。
「ですよねー」
「わかった。次は妾もシミュレーターに同行しよう」
冷静な声。
だが俺は見てしまった。
嫁ちゃんの喜怒哀楽すべてが欠けた顔。
あー……ブチ切れていらっしゃる。
俺、知ーらねえっと。




