第二百五十七話
拠点の一つを潰したことで帝国は一転攻勢に出た。
なぜか俺は待機を命じられてカトリ先生と遊ぶ毎日を送っている。
カトリ先生は午前中で解放してくれるから午後は暇なんだけどね。
トマスは汚名返上とばかりに勇猛果敢に戦ってるようだ。
今回は部下のメンツがまともなのと慎重な作戦のため連戦連勝。
次々と惑星を解放していってる。
トマス義兄さんってさ、公爵会や侍従や文官に頭押さえつけられてただけで普通に優秀なんだよね……。
部下がまともで経験豊富な下士官をちゃんと補充すればこの通り。
公爵会がアホの集まりということを証明してしまった形だ。
斥候をバカにする連中なんぞいらんわ。
滅ぼしてよかった!!!
なぜ前世で軍がクーデター起こすのかわかっちゃった……。
そしてもう一つ、独裁者がいる国って政府があるだけまだ民度高いのね……。
さて、そんな俺であるが……なんかみんなが気を使ってる。
そりゃね、介錯なんかしたから精神的にまいってると思われたようだ。
ところがだ。俺は心にダメージがない。
いや、あるんだろうけど、毎日カトリ先生と殺し合いレベルの組み手をしているせいか余計なことを考える余裕がない。
カトリ先生から言わせると「げへへへ! うだうだ考えられないようにしてやんよ!!!」という脳筋理論だろう。
バッチリ効果が現われてる自分が嫌である。
繊細さなど俺には存在しないのだよ!!!(絶望)
少し真面目に考えると、おそらく俺がゾーク側でニシナが帝国側だったとしても、俺たちはいつか殺し合う運命にあったのだと思う。
俺たちの戦いは歴史的に不可避なものだったわけである。
それなら楽しく戦えたのはかえって幸運だったのではないかと……。これはこじつけか。
うん、やめておこう。
誰か俺の代わりに考えといて。
さてそんな俺の戦艦の上級士官用の私室であるが、嫁ちゃんとの夫婦の部屋と化した。
もともと士官学校生なので教書と軍服くらいしか荷物のない俺の部屋には嫁ちゃんの私物が置かれている。
儀礼服なんかは女官さんが管理してるらしいけど、俺の部屋にあるのは完全に私物。
ジャージにスニーカーに靴下にラメがキラキラ光るサンダル……。
あと一応士官学校に籍を置いてたので作業着に軍服に……こんなところに置いて、アイロンかけとこうっと。
「婿殿ただいまー!!!」
あ、帰ってきた。
嫁ちゃん的にはここが我らの家という認識のようだ。
「おなかへったのじゃ~、食堂行こうぞ」
後宮生まれの軍育ちである嫁ちゃんは軍艦の食堂のごはんが実家の味みたいなものだ。
後宮の絢爛豪華な食事よりも軍艦の食堂の方が好きである。
「あとで購買でカップラ買うのじゃ」
カップラーメン……最近よく食べるな。
妊娠……はありえないとして、成長期だろうか?
うーん?
ちょっと心配になってきたぞ。
「嫁ちゃん、診療所行くぞ」
「なんじゃ?」
「消化器がおかしいかもしれない」
「なんじゃ、それくらい……」
「行くよ」
「お、おおう……」
食堂の前に診療所へ向かう。
食べすぎってのは伝えた。
で、俺から女官さんにも伝えておく。
まずは妖精さんに頼んで身体データをドクターに送っておく。
女官さんにもコピーを送る。
診療所に行くと女官さんが先に待っていた。
大急ぎできたんだろうけど汗一つかいてない。
プロだ……。
診療所は俺たちが優先。
悪いことしたな……。
と思ったら空いていた。
ちょうどいい時期でちょうどいい時間帯だったみたい。
俺は患者さんに頭を下げるが逆に恐縮されてしまった。
待合室の椅子に座って嫁ちゃんを待ってると女官さんに話しかけられる。
「大公閣下、皇帝陛下のご様子にお心あたりでも?」
「いやね、嫁ちゃんのジャージが少し小さくなったなと」
「ご、ご懐妊……」
「違いますって。幼生固定処理を解除したでしょ。だから急激な成長をしてるんじゃないかって」
「うおおおおおおおおおおッ!!!」
病室からバカでかい声がした。
間髪入れず嫁ちゃんが出てきた。
「む、婿殿! し、身長が! お、大きくなってたぞ!!!」
「よかったじゃん」
やっぱりね。
体が成長しはじめたのだ。
「む、胸もあるぞ! どうじゃ! 触るか!?」
「よ、嫁ちゃん! 落ち着いて!!!」
嫁ちゃんはぺったんこに強いコンプレックスを抱いていた。
それは夫である俺ですらも計り知れないほどのものである。
いつもよりもテンションが高い。
「婿殿! 子作りするぞ!」
「焦るな。まだ速え」
その後、ソワソワする嫁ちゃんを食堂に誘う。
女官さんとはそこで別れる。
方々に報告するんだろうな。
お疲れ!
この軍艦内では嫁ちゃんは安全だ。
そもそも狙うものもいないし、よく見ると護衛が常に嫁ちゃんを見守っている。
それに俺がいるしね。
食堂に着くとみんながお祝いしてくれた。
……待って、まだ誰にも教えてないんですけど!!!
「ふふふ、先に報告しときましたよ」
あ、妖精さんか。納得。
エディが音頭を取る。
「ヴェロニカちゃんの成長開始を祝って! みんな!」
「おめでとー!!!」
メリッサやクレア、ケビンやニーナさんもいた。
嫁ちゃんもよほどうれしかったのかテンションがおかしい。
ぴょこぴょこしてる。
酒なしの宴会だけどみんなも喜んでくれた。
こういう何もないときが一番楽しいよね。
うん、そうだ、そうだ!
頭悪そうなキラキラケーキが出てくる。
花火がパチパチしてる。
「みんな! 感謝するのじゃ!!!」
テンションがおかしくなった嫁ちゃんが涙を浮かべた。
あ、これあとで思い出して恥ずかしがるやつだ。
あとで枕抱えてゴロゴロする嫁ちゃんが目に浮かぶようだ……。
ワンオーワンやタチアナもうれしそうにケーキを食べていた。
うん気にしたら負けだな。
いいや、嫁ちゃんは喜んでるし。
今日の主役は嫁ちゃんなのだ。
「うぇーい! 嫁ちゃんおめでとー!!!」
俺も楽しもうっと。




