第二百五十四話
一番後ろで俺は遠慮がちに準備する。
いそいそと最後に発進。
大気圏突入して無音で着地。
あ、あたいはモブ。
目が描かれない立ち絵男子。
背景と同化するわ!
当たり前のことではあるが先制攻撃できるはずもない。
カニがやって来……。
「ぶち殺せえええええええええッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおッ!」
クレアのかけ声で人型戦闘機勢が突撃した。
あ、うん。
もうね殴るわ蹴るわ。
誰かの射ったグレネードランチャーが爆発した。
だが俺たちはその爆発など恐れてはいない。
中島機が爆風の中から飛び出る。
中島は俺に影響されたのか得物はスレッジハンマーだ。
空中でハンマーを振りかぶりカニにぶちかます。
「オラオラオラオラァッ!!! 俺は! まだ婚約者に! 直に会ったことないんじゃああああああああああああッ!!!」
中島の婚約者は警察のお偉いさんで侯爵家の娘さんである。
お父さんは帝都侵攻時に殉職。
お兄さんが侯爵家当主になったとのことだ。
娘さんは帝都の私立高校の2年生。
たいへんな進学校らしい。
遠征終了後、中島と入籍して学業を続ける予定だ。
大学進学は……正直どうなるんだろう?
帝都の大学はゾーク侵攻で学生のほとんどが登校できない状態が続いている。
講義だけリモートで行ってるらしいが、親が亡くなった地方惑星出身学生も多く出席率を維持できてない。
そりゃ士官大学校が特例で一年で修了なんだから、立て直すのに時間がかかるよね。
俺たちもこうやって戦争にかり出されてるため、中島は未だに本人に直に会ったことがないのだ。
そりゃ泣くわ。
見える……血の涙を流しながら戦う漢の姿が見える!
「イソノ!!!」
中島が叫ぶと相棒のイソノが薙刀をぶん回しながら突撃した。
「ぐはははははは! ぐはは! ぐはははははははー!!!」
あ、キレてる。
イソノは「好きなタイプはなんじゃ?」と嫁ちゃんに聞かれたときに、「(士官学校女子とは違って)大人しくて、(士官学校女子とは違って)清楚で、(士官学校女子とは違って)俺を嫌わない娘!!!」と答えて女子たちに物を投げつけられてた。
そういうとこだぞ!!!
なので世の中なめた精神を矯正するためにも厳しい家風で有名なハナザワ家の娘さんを紹介してもらった。
柔道空手剣道のチャンピオンを輩出する家柄でお父さんはボロボロの道着が似合うダンディ。
三人のお兄様方もすぐにボディビルダーになれそうなマッチョダンディだ。
イソノは休みのときに連れさらわ……向こうの家に連行され、娘に釣り合う漢かどうかを見分ける荒行をこなした。
……残念ながら我が隊の普段の稽古とたいして変わらん内容だったためか心を折るのに失敗。
クソ舐めたまま気に入られてしまった。
「カトリ先生怒らせたときよりはマシさ」
なぜか偉そうに言われてイラッとしたのは記憶に新しい。
相手の娘さんはすげえ美人である。
だけど今は会えない。涙で枕を濡らす日々である。
股間に重篤な怪我しないかな?
イソノって基本ただのアホなんだけど、身体能力異常に高いんだよな。
そのイソノの機体は武者姿である。
それが真っ正面から突っ込んで薙刀を振り回す。
戦場を引っかき回す能力はピカイチである。
「てめえら! カニどもは接近型! 四方からしか攻撃して来れない!」
イソノは少年漫画のようなセリフを放つ。
あ、それフラグ!
そう思った瞬間、普通のカニに混じってた遠距離型にプラズマ砲を射たれた。
でもそこはイソノ。
「ほいよ!!!」
近くにいたカニを薙刀で持ち上げ盾にする。
攻撃が止んだらそのまま遠距離型めがけてカニを投げつける。
中島はもっと野蛮だ。
遠距離型が見えた瞬間、ハンマーを思いっきり投げつけてぶっ潰す。
そのまま素手でカニと戦闘しながらハンマーを拾う。
一人一人が無双状態の男子に比べて女子は連携していた。
男子が引っかき回した前線から漏れたカニをアサルトライフルで片付けていく。
レンはスナイパーに徹する。
クレアは銃撃から逃れたカニを潰していく。
ヒザ蹴りに肘落し、ローリングソバット。
ボディスラムにオクラホマスタンピード。
ラリアットでカニを一撃で葬るのも見た。
喰らったカニちゃん……3回転くらいしてたぞ……。
クレアのは徹底的に手足を強化した機体である。
俺の機体でもできない動きで敵を倒していく。
あ、ブレーンバスターみたいに持ち上げてからパイルドライバー!?
スタイナー・スクリュー・ドライバーだ!
すげえ! そうかカニだからできるのか……。
俺も遊んでられない。
同じくどん引きして出遅れたエディとコンビになって剣で斬っていく。
最近になってようやくわかってきた。
危機察知能力との連携が。
後の先なんてのはまだ遙か先だろうけど、敵を崩すタイミングがわかったような気がする。
敵の【動こうかな】の【か】のタイミングで斬りつける。
動作が起こった瞬間に斬りつけられカニが転倒。
他のカニにも斬りつけ次々とバランスを崩す。
で、倒れたカニを踏みつけたカニが転倒。
将棋倒しが起こる。
「魔法かよ」
「いんや技術」
それでも敵は無理矢理戦おうとするが相手にしない。
距離をとって今度は別グループを攻撃。
こっちもトドメではなく転倒させていく。
だって足を止めた集団が入れば女子がトドメ刺してくれるもの。
省エネ、省エネっと。
そして後ろから猛烈な勢いで蟹を斬っていく姿が見えた。
前に立ったら斬る。
メリッサは一直線に蟹を殲滅していってた。
こっちは連携苦手ちゃん。
でもメリッサはそれでいい。
いいのいいの。
だって陣取りゲームだし。
こういうのは動かされた方が負けってやつよ。
メリッサが引っかき回してくれたら、それだけ相手が不利になる。
問題は、相手の物量が俺たちよりはるかに多いことなんだけどね。
そして時が来た。
「婿殿!!! 作戦位置まで後退せよ!」
へーい。
「みんな! 後退! 引き寄せるぞ!!!」
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