第二百五十一話
ケビン率いる斥候隊が惑星を探索する。
惑星は名なし。
誰の惑星でもない。
そもそもだ。
惑星サンクチュアリは帝国の支配地域の限界とされている。
単にここより先に行くと帝国に所属するメリットがないという意味だ。
なので海賊やらが勝手に住んでたり、昔植民しようとした痕跡があったり、そのとき置いてかれた労働者が国を作っていたりする。
その中でも人が住んでるのはまだいい方で、そもそも誰も所有権を主張してない惑星がある。
そりゃね、ガスの固まりとか酸の雨が降るとかだったらわかるんだけど、そういうのじゃない。
そもそもが首都から遠すぎて経済的価値がゼロという感じだ。
なんぼ首都が他の惑星と比べて物価が10倍以上と言っても、それ以上の輸送費がかかればやらないよねえって話でしかない。
他に大きな消費地があればいいんだけど、残念ながら帝国は少子化傾向……。
ゆえに領地の拡大は難しくなる。
これに関しては公爵会が帝国の富を独占してた影響である。
あいつら帝都でばかり金使うんだもん。
地元の開発も作業員に金払わないとかアホかと。
で、そこでマザーAIが的確な分析してればいいけど、中の人はリニアブレイザーの中で遊んでたわけだ。
「私が悪いわけじゃありませんよ。何度指摘しても握りつぶされるからコピーも面倒になっただけですよ。ほらログ見てください!」
だそうである。
なおログは夏休みの絵日記形式なので死ぬほど読みづらい。
AIだから美麗な絵を生成すればいいのに、小学校高学年女子風のイラストで描かれてるという嫌がらせっぷりである。
二度と読まない。
要するにマザーAIが仕事をしなくなると人が死ぬという好例だろう。
この件に関しては人が死んだんじゃなくて生まれなくなったんだけどさ。
で、この惑星であるが、テラフォーミングを中途半端に施して放置。
生態系は不明。
今回は帝国側も時間がある。
確実に人いないしね。
まずは小型の人工衛星を飛ばし、座標を取りながら地表をカメラで撮影。
その後ドローンで偵察である。
はっはっは、時間があるってホントにいいね。
戦闘員は周囲の惑星での惑星奪還作戦に参戦。
俺はお留守番だけど、士官学校の連中が指揮官として軍を率いる。
死人出たらいやだなって思ったら一時期飯食えなかったけど、今のところ仲間に死人は出てない。
むしろかなりの戦果を上げている。
これは惑星シナガワを解放したことに惑星級ゾークを倒した効果のようである。
作戦内容が残党狩りなのである。
結局、この手のネットワークは中継サーバーを潰せばいいということだろう。
ゾークのそういうとこは弱点と言えば弱点なのだが、命令の共有が素早く兵が余計なことをしないという利点でもある。
ただ古代の武将方式である俺との相性が最悪なだけである。
最新の戦術が現在では研究も終わってるものへ致命的な脆弱性を持つ。
最新のセキュリティを用意したけど、昔ながらのソーシャルハッキングにくそ弱かった的な展開だ。
でも心配になった俺はケビンのところに行く。
「おっす、どうよ?」
「うん、これ見て」
ピラミッドが見える。
わざとやってるのか、それとも人類の本能なのか。
ゾークは思いっきり昔に戻っているようだ。
中は肉で作ってるんだろうけどね。
「中は?」
「まだ。リスクの少ない外を先に調べる予定。中は新型で行こうと思う」
「新型?」
「うん、見えないゾークいたじゃない。あの技術を一部応用したドローンだよ。温度変化もないから気づかれれないよ」
恐ろしいものができてしまった。
そんなの人間に使われたら地獄である。
……嫁と妖精さんなら地獄にならない程度で政治的に着地してくれるだろうけどさ。
「ハエトリグモくらい大きさで壁や天井をはって動んだよ! ほら」
「え?」
天井から小さなドローンが俺の頭へ落ちてきた。
ドローンをつまんで手の平に置く。
本当に小さい。
「こんな小さいと索敵範囲小さいんじゃないの?」
「うん多少はね。だから各種センサーと数でカバーするよ。光学迷彩入れるね」
小さな多脚ドローンが透明になった。
動作音もほとんどしない。
「これに爆弾積んだらゾーク暗殺し放題だな……」
「そんなに重量運べないって。爆弾なんて無理だよ」
さすがに無理か。
殻固いもんな。
……冷静に考えたらまずいな。
人間相手なら最強だぞこれ。
これで爆弾とか毒ガスとか毒針仕込んだら最強だぞ。
俺でも勝てる気がしない。
嫁ちゃんが禁止してくれることを願う。
「これのテストも兼ねて偵察しておくね」
「へーい、頼んだ」
ケビンと別れ、今度は嫁ちゃんのところへ。
惑星シナガワに停泊中の戦艦の嫁ちゃん部屋に行く。
「うーっす、起きてる?」
「起きてるぞ~」
嫁ちゃんはいつものジャージでお出迎え。
女官さんはいないようだ。
「なんじゃ夫婦の時間でもしに来たか?」
「それもあるけどさー、ロシモフ侯爵どうなったかなって」
「文書で戒告しただけぞ」
「人死んでるけどそれでいいの?」
「死んだのは侯爵の私兵じゃからの。帝国軍に犠牲が出たのなら相応の罰を与えるがな。恥をかかせてもよくない。叱責はせぬ」
そういうもんか。
うーん、統治難しい。
「釘は刺しておかねばならんが、やりすぎると恨みを買う。恥をかかせるのは得策ではない」
なるほどね。
恥かかせるとキレちゃうもんね。
「あ、そうそう。ケビンから」
構造物の写真を送る。
「ほうピラミッドか。中は?」
「見えないドローンで見てみるって」
なんて伝えてからは雑談。
だらだら過ごしてるとメリッサやクレアも来る。
人数増えたから食堂に移動するとレンやエディも来る。
アオイさんやワンオーワン、それにタチアナも合流。
知らない間にイソノと中島も合流……うん?
待て! お前ら二人はシフトの最中!
鬼の顔したピゲットに二人が連行されていった。
そのままお菓子食べながら談笑。
死ぬほどくだらない話題に花を咲かせる。
こういうのでいいのよ。こういうので。
守りたい、この日常。
なんだけどさー、やはりゾークと俺の因縁は続くのよ。これが。




