第二百五十話
肉があふれた……。
何を言ってるかわからねえと思うが、嫁ちゃんの名前で注文したら前線まで商社がやってきた。
で、注文した数倍の量……いや違うな。
フェスティボークラスの肉を持ってきた。
俺と嫁ちゃんとで動画を撮影する。
CMで使うんだって。
なんかケビンを撮ってる。
それを見てほくそ笑む嫁ちゃん……。
邪悪すぎる。
話を逸らそう。
俺は商社のおっちゃん社員に声をかける。
おっちゃんというより爺ちゃんに片足突っ込んだ年齢だと思う。
スーツはうんといいやつ。
ブランド詳しくないけど生地がすごい。
すごいのしかわからない。
たぶんかなり偉い人、重役かもしれない。
「こんな危険なとこまでよく来れましたね」
「あはは……弊社は皇帝陛下と大公閣下の勝利を確信してますので。最大限バックアップさせてもらう所存にございます」
汗をふきながらおっちゃんはそう言った。
そもそもここらへんって危ないから封鎖されてるはずなんだけど……。
そりゃ嫁ちゃんの名前を出せば通してくれるけど、危ないから封鎖されてるわけで……。
最上級シゴデキビジネスマンの本気を見た気がする。
「それに皇帝陛下のお姿はほとんど出回っておりませんので。ええ、もう、あのような普段のお姿をカメラに収めることができて……宣伝効果ははかりしれません」
嫁ちゃんは人気者らしい。
「もちろん大公閣下もです」
俺もか。
「ご一門の伯爵様方もです。特にケビン様の人気は凄まじく……」
ケビンが俺を暗殺しようとした一件はまるっとなかったことになっている。
ゾークネットワークの洗脳なので俺も追求する気はない。
甘すぎるだろうけど友だちだし、ドローンオペレーター&斥候として優秀だし、追求なんかしたら人望失うしといいことがない。
痛かった分の代償はゾークに支払ってもらおうと思う。
ゾークマザーちゃんわからせてやる!!!
で、肉の山を倉庫に運んだ次の日にバーベキュー。
ワンオーワンとタチアナ、それになぜかレンに肉を焼く。
メリッサたちは自分で焼く、嫁ちゃんは……。
「婿殿。これが欲しいのじゃ」
はいはい、焼きますわ。
今日は俺がお肉屋さんと。
バーベキューが始まった。
ついでに焼き鳥作るか。
俺が食いたい。
満福からもらった串(ちゃんとお金は払ったからね)で前日に串打ちしたものを出す。
タレ作って倉庫からかっぱらったペンキ用のハケ(未使用)でぬる。
チマチマ焼いて自分に一本確保して……最初に焼いたものはみんなに食べられた。
カワゴン……カナシイ……。
「婿殿! ドンドン焼いてくれー!」
「旦那様! 美味しいです!!!」
「少佐殿! 美味しいであります!」
「あざっす」
「へーい」
焼いてるといつの間にかメリッサも来た。
なおこの場にはおっさん連中はいない。
ガキのノリにつき合うのは嫌なんだって。
カトリ師範とか居酒屋に行ってしまった。
ピゲットだけ護衛でいる。
ピゲットの分を焼いてっと。
「タチアナ、ワンオーワン、ピゲットのおっちゃんとこに持っていって」
「了解であります! タチアナ行くであります!」
「おう」
おつかいを頼んでさらに焼く。
俺も食べるんだからね!!!
するとクレアさん、いやクレア様がエプロンつけてきてくれた。
「手伝う」
「おお、神はいた……」
それを見て肉に心奪われてたレンもエプロンつけてきた。
正気に戻ったのね。
「旦那様! 私も手伝います」
二人が俺の分を焼いてくれる。
CM用の撮影が終わったケビンも合流。
ようやく肉を食べられる。
ううう……カワゴンウレシイ。
ワンオーワンが車椅子を押してアオイさんを連れてきた。
アオイさんは「邪魔になりますから」と断ったけどワンオーワンが連れ出したようだ。
偉い!
で、食事が終わった連中も焼く側に入って、俺たちが食事。
なんて楽しい一日だわーと思ったのよ。
でもさ、後片付けしてたら嫁ちゃんと軍の本部に呼び出された。
リモート会議用の部屋に行って画面を投影。
帝都の本部ではヤクザ顔のいつもの面々がすでにいた。
「お休みのところたいへん申し訳なく……」
「よいよい、さっさと用件を言うのじゃ」
画面がするとスライドに切り替わる。
「ゾークの前線基地の一つを発見いたしました。すでに斥候を派遣しました」
「なぜ我らにさせぬ? あまりに危険じゃ」
「一箇所に戦果が集中するわけにいきません。軍の性質上しかたのないことです」
要するに圧力がかかったのね。
功を焦った誰かの。
公爵会はもういないけど嫁ちゃんは独裁者じゃないからね。
どうしても思い通りにならないことはある。
「作戦案はマザーAIの審査も通過いたしましたので……」
ってことは妖精さんも知ってるってことか。
なに企んでるんだろ?
「なにも企んでませんよ。書類が形式上整ってましたので」
妖精さんが来た。
「でもさー危険でしょ」
「ええ、でも世の中にはそれがわからない人が多いんですよ」
「ではその映像を……」
映像はいきなり地上部隊が投入されたものだった。
なにやってんの!!!
俺たちだって危ないからドローンを先行させるのに!
「ロシモフ侯爵の騎士団だそうです」
侯爵の私兵というか騎士団というか地方軍というか、そういう人たちである。
つまり軍じゃないから止められなかったのね。
そもそも軍の末端の練度不足は問題になっている。
領主の騎士団はそれをさらに酷くしたようなものだ。
偵察一つマニュアルどおりにこなせないのだ。
幸いなのは人型戦闘機で降り立ったことだろう。
それも10体だ。
ロシモフ侯爵はさぞ裕福なのだろう。
彼らはおそらく上空からの映像を頼りにゾークに建てた基地を探す。
そしてゾークの基地と思われる建物を発見した。
明らかに人間の感覚では悪趣味と思われる建物だった。
そこに不用意に近づいていく。
「あ?」
誰かの声が入った。
次の瞬間、カメラの画像が暗転した。
「騎士団は?」
「全滅です」
手がかりなし。
場所だけわかった状態だ。
……俺は立つ。
一度ちゃんと言っておかなければならない。
「だからさ! 俺のいないところは犠牲者出るって言ってんだろ!」
「婿殿、これはしかたのないことじゃ。我らでは避ける手段がない」
それはわかってんだけどさ。
無駄な犠牲者出すのやめてよー。
俺が近くにいないだけでアマダも死にかけたんだしさ。
それも今回は無駄死にじゃない!
ドローンでやってれば彼ら死ななかったでしょ!
「婿殿、妾がロシモフは叱っておく。再発を防ぐ。これは妾の仕事じゃ」
「……承知」
「皆の衆、ロシモフは軍の行動手順に従わなかったことを議事録に明記せよ。他の諸侯にも軍のマニュアルに従うことを徹底させるのじゃ!」
「は!」
「軍はマニュアルを徹底して偵察せよ! 攻略が無理なら大気圏外からミサイルで焼き払う。以上じゃ!」
「皇帝陛下の御心のままに」
こうして作戦は開始された。




