第二百四十九話
ケビンに手を引っ張られ向かった先は地元の食堂。
あれから惑星シナガワは再建が進んでいる。
テラフォームを一からやり直し、前線基地としてありとあらゆる建物を建設しまくっている。
元の住民は労働者としてそのまま雇用。
金鉱山も全力で開発してる。
この辺は周辺の惑星まで含めて貧乏星域だ。
さらにゾークの侵攻で避難民になった人も大量にいる。
彼らが労働者になったり、労働者目当ての店を開いている。
その一軒が俺たちがよく行く食堂【満福】である。
あり合わせの材料で作った謎建築。
いわゆるバラック小屋で営業してる。
「おばちゃん! 満福セット二つ!」
「はいよ~。どうしたのケビンちゃん? そんなプリプリして~」
「聞いてよおばちゃん! みんなひどいんだよ! ボクにグラビアの仕事しろって言うんだよ!」
「あらあら~いやね~」
「だよねー! もう頭にくる!!!」
「あらあら~」
店主のおばちゃんは女性型ゾークだ。
元おっさんだが、元からお姉様として暮らしてたので困らなかったらしい。
働いてたショーパブがゾーク侵攻で物理的に崩壊したので食堂を開いたんだって!
難しすぎるわ!
なお、お胸はビッグサイズである。
「レオちゃんはいつものラーメンつける?」
「お願いしマッスル!」
ラーメンは正義だ。
「わかりマッスル!」
おばちゃんは元は筋肉の人だったらしいけど、今では雪国の食堂で働く未亡人感がある見た目だ。
「ご飯中途半端だったでしょ。ボクがおごるよ」
中途半端というかほとんど食べてない。
もったいないお化けが出そうである。
と言っても食べ残しも肥料として腐食化されるから無駄にはならないんだけど。
満福定食は麻婆豆腐に油淋鶏のセットだ。そこに俺はラーメンをつける。
一見するとカロリーオーバーに見えるが、このくらい食べないと次の日筋肉痛で死ぬ思いをする。
逆に言えば軍用ナノマシンの力ならば、死ぬほど体を虐めても栄養さえあれば復活できる。
つまり次の日には体力も神経も成長してるというわけである。
腱や骨を壊さないように全力で痛めつけるカトリ先生の腕があっての効果だろう。
危険すぎるからスポーツ選手でもやらないけどね!!!
なんでも精神が摩耗して危ないらしいよ。
じゃあなんで俺にやるんだよ!!! ボケがああああああああッ!!!
怒りを内で燃やしながら飯を食う。
それにしてもおばちゃん料理美味いな。
宇宙海兵隊はみんな料理できるけど店の味レベルにするのは難しい。
だからお外のご飯サイコーである。
うーん幸せ。
「うーん美味しい」
ケビンも幸せそうだ。
本来、俺たち士官学校生が望んでたのはこれくらいの幸せなんだよな。
大公とか伯爵とか少佐とかわけわからんわ。
「レオさー、ほら、ボクのことえっちな目で見ないじゃん」
本音を言うとえっちな目で見たら負けだと思ってる。
士官学校生はもうあきらめてるが、俺は最後の一兵になっても戦う所存だ。
く! 俺は屈しない!!!
「だからさ、レオといるのが一番楽だなーって」
「ワンオーワンとタチアナは?」
「あの娘たちは妹みたいなもんだから」
ま、士官学校の連中といると疲れるってのはわかる。
女性になっていちばんわけがわからないのはケビンだからな。
でもよー、お前さ、仕草が完全に女の子なのよ。
歩くとき内股だし、股閉じてるし、その他細かいとこ全部。
指摘しないけど。
そもそもだ。
元から男女関係なく「女子か?」って思われてたらしいし。
深掘りしたら負けに違いない。
「ちーっす、あー! やっぱ隊長いた!」
メリッサが来た。
「あらーメリッサちゃん。相変わらず色っぽい顔ねえ」
そうなのだ。
メリッサの目力について適当な言葉がなかった。
だがおばちゃんの言葉が腑に落ちた。
なぜ男子たちがメリッサをあれほどまでブスと言い張ったのか。
そう、男子どももわけわからなくなっていたのだ。
だってメリッサって色っぽいのよ。
普通同級生女子には搭載されてるはずのかわいい成分ゼロなの。
そのかわりに妙な色っぽさがあるのよ。
そりゃ頭がバグって必死に否定するわ。
童貞どもが焦りおって!!!
「おばちゃん満福定食ラーメンセットで!」
「はいよ~」
そんなメリッサは大股広げて俺たちのいるテーブルについた。
こっちは仕草が野郎である。
だから男子がバグるんだって。
「なになに、ケビン、グラビアデビューするんだって?」
「しないよ! 絶対イヤ!!!」
「だってさ、メリッサもやめてあげなさい」
「えー、やろうよ!」
「ヤダ!!!」
「あらあら、だめよメリッサちゃん。無理強いしちゃ。はい満福定食ラーメンセットね」
「あざーっす!」
しばし無言。
だが俺は切り出すことにした。
「なあケビン。嫁ちゃんは友だちに自分にできないことの依頼が来て浮かれてるだけだからな。自分を取り戻すまで逃げてろ」
「そうだね……」
「メリッサ、部屋にかくまってやって」
「うんわかった。あとで焼肉おごってね」
「へーい」
ここでいう【焼肉おごってね】というのは【焼き肉屋に連れて行け】という意味ではない。
【良い肉買ってきて焼いてくれ】という意味である。
そして嫁ちゃんとレンにカツアゲされる。
さらにタチアナとワンオーワンも来て……気がついたら士官学校女子が集まってくる流れだ。
やって来た野郎どもも肉焼き係だ。
ヒャッハー!!! お肉は炭火焼きだー!!!
そんなわけでケビンのおごりでメシ完食。
基地に帰ると嫁ちゃんが待っていた。
「ケビンすまぬ! 浮かれてた!」
「な、大丈夫だったろ」
「うん、ボクもごめんね。でもどうしてもグラビアはイヤなんだ」
「ああ、すまん! 今度はよく考える!」
そう言って嫁ちゃんはケビンに抱きついた。
そのとき俺は見てしまった。
嫁ちゃんが笑っているのを。
その表情は【あともう一押しじゃ】という顔だった。
そして俺とメリッサはなにも見なかったことにした。
嫁ちゃんには肉を買ってもらおうと思う。
バーベキューのコンロも買おうっと。




