第二十四話
「侯爵閣下に礼!!!」
同級生がニヤニヤ笑いながら俺を出迎える。
俺の横にいるクレアも笑ってる。
「いじめだー!!!」
俺が抗議するとニヤニヤ笑いながら嫁が来る。
「婿殿! 惑星征服完遂したな! 褒めて遣わす!!!」
「字面が完全に悪人側だー!!!」
惑星征服とかもう犯罪者というか独裁者の勢いである。
そして元領主の親父と長兄である。
ゾークの侵攻によって領地への帰還命令が発令された。
なんであの二人が領地にいるのかと思ったらそういうわけだった。
それはいい。
どうせ俺が領主なのだ。
軍事の事がわかるのが俺だけなので邪魔だけはしないでもらおうと思ってたわけだ。
なのでこの惑星にいてもらって自由にしてもらってもいいかなと思ってたわけだ。
金を浪費するような施設すらない田舎なのだし。
ところが事情が変わった。
あいつら標準機を無免許で操縦してやがった。
「なんで出撃した?」と問い詰めたら、「領主だからだ!」。
答えになってない。
免許持ってないヤツが乗るな!!!
無駄に死ぬだけだ!!!
なお二人しかいなかったのは明らかに足手まといなので侯爵軍に置いて行かれたらしい。
しかも自己正当化しまくって反省しない。
話し合いにすらならん。
結果、家で軟禁処分にした。危険だからだ。
アホか!!!
それで、俺たちはジュースと酒を出してっと。
「お疲れ様ッス!!!」
祝勝会である。
学校の連中に、近衛隊のおっちゃんたちに……。
軍人じゃないのに住民を守ったサム兄も呼んだ。
侯爵軍はどの面下げて俺にすり寄ってくるか見るために呼ばない。
「侯爵軍な。最悪の場合根切りな」
嫁がサラッと怖いことを言った。
「レオは優しいから無視するだけだと思うけど。どこの惑星でも反逆罪は死罪だからね」
クレアまで怖いことを言う。
「うちだったら領主とその長男置いてくようなアホどもは一族郎党斬首でさらし首かな」
メリッサはより具体的だった。
怖い!!!
「侯爵家でこれか。帝国もおしまいかもな」
嫁がつぶやいた。
「そんときは一緒に逃げましょうか」
「妾が皇女じゃなくなってもつき合ってくれるのか?」
「夫ですので」
「クレア、メリッサ一緒に行くか?」
「御一緒します」
「適当な開拓星乗っ取って国作っちまうか~。一国一城の主。いいねえ~」
こんな感じで笑い話にしてるが、わりと暗い未来を思い描いてた。
だけどそれも次の日に斜め上の方向に転がる。
人生何があるかわからんのよ。
「レオー!!!」
「ヴェロニカ~!!!」
ケツアゴのマッチョがやたら濃い顔の女優を抱きしめる。
そしてキスシーン&背後で爆発。
情報端末は大惨事になっていた。
暑苦しいキスシーンが終わるとアナウンサーに画面が切り替わる。
「英雄レオ・カミシロが惑星カミシロを救いました! 憎きゾークを打ち倒し正義の断罪を下したのです!!!」
ケツアゴに切り替わる。
ぱっつんぱっつんのシャツで胸板を強調。
プロレスラーみたいなアピールを繰り返す。
テロップには「レオ・カミシロ」と書かれていた。
「……本人の方がいい男じゃな。なあクレア」
「この俳優と比べたら目つき悪いけど……本物の方が好きかな。どう思うメリッサ?」
「筋肉は俳優の方がエロいけど、顔はレオの方がいいな」
しきりに顔を褒められている。
ちょっと自信持っていいかな?
歯をキランとさせる。
「そういうとこじゃぞー」
「そういうとこだぞ~」
「そういうとこだぜー」
ひどい!!!
がんばって生きてるのに!!!
「ねえねえ嫁ちゃん。なんでこうなったの?」
「惑星を接収したことを国に報告したのだが、そのままプロパガンダに使いおったわ!!! カカカカカカ!!!」
「国家製作なのに俳優これぇッ!!!」
「あーそれな。人気アイドルのセルフィンに依頼する予定じゃったのだが行方不明になっての。しかたなくプロレスラーのデスマウンテン遠藤になったのじゃ」
「ミスマッチすぎる!!!」
「ちなみに45歳じゃ!」
「年齢すら合わせる気がない!!!」
するとクレアの眼鏡が曇る。
「えっと殿下……行方不明ってもしかして」
「ああ、ケビンと同じじゃ。どうやらな普段は男性なのじゃが、ゾークの意思と触れると女性になるようじゃ」
「ゾークの意思? なんだそれ?」
メリッサが混乱してる。
「何もわかっておらぬ。ケビンがそう主張してるだけなのじゃが……ゾークは蟻や蜂のように指令を出す中央ユニットがあるようじゃ」
そこに気づくのはやくね!?
ゲームだとわかるの終盤やぞ!!!
「あるときまではスパイは人間の中で育つ。で、指令……ゾークの意思とやらに触れると体が変化するようじゃ。強く速くな」
「なんで女になるの?」
メリッサは完全に目が点になってる。
まったく思考が追いついてないようだ。
「DNAの変化と体組織の作り替えのせいじゃ」
「……おかしいと思わなかったの? だって男が女になるんだよ!」
長年女扱いされてなかったせいか……メリッサは理解が追いつかないようだ。
「ただ単に無頓着なのじゃろ。やつらは我らのことなどバクテリア程度にしか考えておらん。個体の見分けすらつかんのではないか」
違う。
制作陣が「恥じらうTS女子すばらしいでゴザル!!!」って思ったせいだ。
あいつらの尿管に結石ができますように。
「ゾーク雑すぎんだろ」
「惑星開拓時代に帝国もそうとう無体なことをしたらしいぞ。獣人種への差別は未だに続いてるしのう」
「対等な存在とすら思ってやがらねえのか! クソ、ふざけやがって! レオあいつらぶっ倒そうぜ!!!」
「お、おー!」
「なんでやる気ねえんだよ!!!」
「いやさーケビンどうしようかなって。このまま帝都に送って実験動物扱いされるのもなーと」
裏切者といっても、そう作られていたわけで自分の意志でどうこうできるわけじゃなかった。
さすがに解剖されるのはかわいそうだ。
「婿殿ならそう言うと思ってな。あらかじめ所有権を主張したぞい。いまケビンは婿殿の所有物じゃ」
「人間扱いじゃないの!?」
「ゾークじゃからの。動物扱いじゃ。可憐な少女奴隷との生活。男子はそういうの好きじゃろ?」
「いやぜんぜん。野郎時代知ってるんで。それに洗脳どうすんのよ?」
「あーそれな。どうやらゾークのネットワークから切断されたようじゃぞ。ゾークも逆探知されるリスクを回避したようじゃの」
「はい?」
「洗脳も解けたようじゃの。婿殿なぐさめてやれよ~」
丸投げしやがった。
どうすんのよ……。




