第二百三十話
はじめてアオイを見たクルーたちはあまりの残酷な光景に目を背けていた。
そりゃね、古参は妖精さんの本体とか嫁ちゃんのこととか知ってるから「人類ってほんとどうしようもねな」って達観してるけどさー、新参にはキツいよね。
俺の目の届かない範囲は基本的に地獄絵図よ。
いや冗談ではなく。ガチで。
脳だけで生かされてるのが本当に、心の底から非道である。
優しいのは嫁ちゃんと士官学校の女子たちである。
率先して艦への移動作業に加わってる。
少しでも傷つけると死亡する可能性があるので細心の注意を払う。
男子たちもがんばってる。
なおリアルガチ全力を出してるのは男女関係なく大学院生や研究者だ。
水槽に脳が浮かんでる状態での生存。
技術的には可能なのだが倫理的にアウトである。
なので本物を見たことある人間は少ない。
本人たちは【新しい仲間のため!】と意気込んでるが、学術的好奇心の喜色が隠せてない。
ま、いいか。
ぶっちぎりで倫理観判定アウトな行為を次々やらかした麻呂は心の底からいい度胸してたんだなって思うわ。 あれで公爵会の言いなりの暗愚じゃなかったら皇位簒奪RTAが始まったはずだ。
そんなアオイの本体を艦に運んで部屋に置く。
容器が動かないように固定。
電源ユニットの配線をする。
無停電装置も設置。
アオイではあるが読み取り専用でゾークネットワークに繋がることができるらしい。
しかもゾークマザーに検知されないとのことだ。
勝ったな。
俺はほくそ笑んだ。
にしても……この部屋……やたらかわいいのだが?
レースのふりふりとピンクと白のモコモコとぬいぐるみだらけのかわいい部屋。
10代女子の理想の部屋感がすごい。
士官学校女子たちが本気を出した部屋である。
「ツッコミを入れた瞬間死ぬ。余計なこと言うな! いいな!」
俺を含めた男子たちがアイコンタクトした。
なおこの瞬間、ケビンは男子扱いではない。
だって女子の先頭に立って内装整えてたもん。
「じゃ、俺たちは行きますね」
【ありがとうございます♪】
俺たちは部屋を後にする。
あの声の感じだと、どうやらアオイも喜んでるらしい。
本人が喜んでるならいいのよ。
いや、ほら、女子でもかわいい部屋じゃなくて、何一つ物を置きたくないミニマリスト派も結構な勢力いるじゃない。
あとメリッサみたいな体育会部屋。
部屋にサンドバッグとダンベル置いてある。
遊びに行くとダンベルに足をぶつける事故が発生する。
アオイはかわいい部屋派であったようだ。
うん、よかった!
なお妖精さんのバーチャルルームはオタ部屋。
漫画ゲームアニメ勝利。
カミシロ本家のクレアの部屋は真面目な勉強部屋。
よく見ると専門書や学習書に混じってプロレスラーの色紙とかが置いてあるし、本棚に【プロレスラー年鑑】の紙版がある。
さらには部屋の壁に設置された神棚には帝都にある【プロレス神社】の札が置いてある。
「プロレス好きなの?」って聞いたら、
「聞かないで」
と答えが返ってきた。
なお給与から復興寄付をしたらしく神社と有名レスラーからの感謝状と色紙が来たみたいで飾ってあった。
たぶんプロレス好きなのだろう。
レンの部屋とケビンはかわいい部屋。
レンの部屋にはハイスペックな電子ピアノがある。
本棚にも楽譜がたくさんある。
この辺が公爵家のお嬢さまだと思う。
嫁ちゃんは、よくイメージされる女官さんつきのお嬢さま部屋である……なお私物は俺の部屋にある。
なおタチアナとワンオーワンには集団生活で片付けを叩き込んでる最中なので黙秘させてもらう。
お前らに個室はまだ早い!(そもそもこいつら暇なときは俺かケビンの部屋に居座ってる)
そして重要なことであるが、今まで目を背けてきたことに触れたいと思う。
そもそも物語の序盤、故郷を滅ぼされたエッジをヒロインの一人である須藤香織が発見しエッジが帝国軍に入隊する。
そしてチュートリアルミッションの惑星防衛作戦で軍は壊滅。
その後の選択はプレイヤーに任される。
そこから民間で商人になってもいい。
革命家になって帝国を滅ぼしてもいい。
皇帝を目指してもいい。
もちろん正史である軍の特殊部隊に入ってゾークマザーの暗殺に向かってもいい。
そう、原作では帝国軍は壊滅し帝国自体が滅亡する。
軍ではどうにもならないから人類最後の希望としてゾークマザーを暗殺するのだ。
魔王を倒しに行く勇者理論である。
だけど運命が改変された現在は言うと。
最強のジェスターである俺、それに実は有能人材だらけだった士官学校の連中を冒頭で抹殺することに失敗し、ゲームのルールをRPGからSLGに変更され、そのルール限定で異常に強い俺たちが押し返してる状態だ。
ゾークからしたら「なぜえぇッ!?」な状態だろう。
だってRPG世界であれば前衛で剣を振る支援職、しかも効果が微妙という意味不明な生き物なのに、ルールがSLGになったら存在するだけで万の兵を強化できる反則ユニットなわけである。
バリバリの理系なのになぜか事務職やってる人みたいなものか。
……殺戮の夜ちゃん、赤兎馬説。
そして原作との一番の相違点はゾーク側の俺が開発されていたことだろう。
おそらく原作だとRPGルールで雑魚扱いだ。
案外、経験値たくさん持ってるレアモンスター扱いで終盤のレベリングに……シャレにならねえ!
ジェスターなんてその程度の扱いッスよ。
おそらく火力の高いエッジにぶつければ楽に狩れる敵だろう。
相手がSLGルールを押しつけてくるなら、こっちはRPGルールを押しつけさせてもらう。
向こうがRPGならこっちはSLG。
こうやって軍師脳に徹すると勝てるのって三国志みたいで好き。
さて食堂でごはんを食べてるとアオイが幻覚でアバターを出現させると全裸問題が議題に上がる。
タンパク質強化の豆腐ハンバーグうみゃい。
「全裸はダメですか?」
アオイからテレパシーが飛んできた。
「10代の野郎どもが多いんでダメッスね」
「では服のデザインを提案してください」
ヒモ水着を想像した瞬間、クレアに後ろからドラゴンスリーパーをかけられた。
「オイタしちゃだめよ」
「はい。ままぁー」
結局、妖精さんがデータで送ってくれることになったらしい。
こうして毎日日替わりで衣装が替わる美女が誕生したわけである。
……クレアさん、そろそろ解放してください。ギブアップでごじゃる。




