第二百二十九話
アオイが俺を見つめていた。
本当だったらラッキースケベにドキドキしていただろう、
だが俺はすでに公爵会のおっさんが女性になったり侍従長が女になったりを見てしまった。
ああ、なんの感動もない。
ただひたすら疑心暗鬼だった。
サリエルくらい話にならなければさっさと逃げようっと。
「ジェスター。我が共和国と帝国の主義の違いはご存じでしょうか?」
「主義……上流階級に日系人がやたら多いとこ?」
一応、カミシロ家も日系だ。
あとから日系を名乗った疑惑は払拭できないけど。
例えばイソノはイソノ伯爵家の長男(家督はお姉さんの婿が継いだ)で親父さんは陸軍大佐だし、中島は中島侯爵家だ。
「その傾向もそうですが、一番の違いは進化主義か否かです」
「進化主義?」
「ええ、我が共和国は人類に人為的な進化を施し外宇宙を目指すことを主張していました。逆に帝国は人類の遺伝子の保護を主張し、自然な人間による統治を主張してました」
「大公だけど、俺、人為的に産み出された超能力者の子孫なんすけど」
「ええ、本来の帝国では許されないことです。共和国も帝国も時代を重ねるごとに袂を分かった原因を忘れました。特に共和国民は人間であったことすら忘れるほどに変質してしまった」
「なにがあったんよ?」
「外宇宙への植民……と言えば聞こえはいいでしょうが、我々は帝国の新兵器【平和の戦士】によって外宇宙に追いやられました。それで我々はエイリアンの遺跡を見つけました」
「待って、それホラー展開のフラグ!!!」
「まさにその通りです。遺跡で見つけたテクノロジーを元にさらなる進化を提案する首脳部に私は反対しました。そして追放され、この惑星に封印された。その後は彼らは進化を続けたというわけです」
今気づいたんだけど、サリエルと違ってアオイは会話のキャッチボールができてる。
サリエルさー、そういうとこやぞ!!!
俺、本当に怖かったんだぞ!!!
「……つまりアオイさんは人間ってこと?」
「これを人間と言えるなら」
パチンとアオイは指を鳴らした。
すると俺たちが家だと思っていたもの、今の俺には広い空間だったところが変化する。
金属の壁。
……これは刑務所……いや研究所。
俺がいた空間の中央には丸い密閉された水槽があった。
その中には脳が浮いていた。
「レオくん! 生きてる!? ようやく繋がったよ~!!!」
妖精さんがまくし立てた。
「ああ、悪い。ねえ妖精さん。あれどう思う?」
「……正直、気分悪いですね。私の本体もあんな感じですよ」
なるほど。
空間転移ではなく大規模な幻覚だったのか。
すると頭の中に声が響いた。
「ジェスター、お願いがあります。私の生命維持ユニットを破壊してください。私はもう生きるのに疲れました」
すると妖精さんが叫んだ。
「そう言うのだいッ嫌い!!! あんたさ! あきらめんな!!!」
妖精さんナイス!
「レオくん! 連れて帰るよ!!! いいよね! ヴェロニカちゃん!!!」
妖精さんが嫁ちゃんの端末に強制接続した。
「あ、うん、お、おう、婿殿無事か……じゃなくて話について行けぬ!!! 誰か説明せい!!!」
ですよねー。
俺だって困惑してるもん。
「おいレオ! 生きてるか!?」
エディたちもやって来た。
さーて説明しないとな。
あ、俺、今回平和に解決したわ。
すごくね!
ほめてほめて!
その後、アオイが「ここは流刑地なので敵はいない」と言ってくれて実際センサーになにも映らなかったので嫁ちゃんが上陸した。
アオイがいた空間を密閉して俺たち用の生命維持装置を設置した。
これで嫁ちゃんも戦闘服なしでアオイとお話しできる。
俺がんばった!!!
主に人型重機オペレーターとして!!!
嫁ちゃんと俺の嫁たち、それにエディとピゲットら近衛隊が見守る中で会談が始まった。
「アオイと言ったな。銀河帝国皇帝ヴェロニカじゃ」
「銀河共和国軍元総司令官、アオイ・フリードマンです」
素っ裸のアオイの映像、おそらく幻覚が出現した。
なぜか嫁ちゃんが俺の目を隠す。
クレアはそれを引き継いだ。
あの大きなお胸が見えないのですが。
「余計な事したら関節技ね」
クレアがささやいた。
俺のドM回路が「かんしぇつわじゃかけてー♪」と小躍りしたが、本気でシャレにならないので自粛。
「貴女には悪いが装置を我が船に収容させてもらう。我が姉、ルナが反対しているのでな」
「いえ、私と同じような存在がいて安心しました。結局、帝国も共和国も行き着く先は同じだったのですね……」
「袂を分けたいっても同じ人間じゃからの。似通ってくるのじゃろ」
「それで……その……なんじゃ、ジェスターのことじゃ」
「やはり……気づいていらっしゃったのですね。ええ、ジェスターに対抗する共和国の兵器は完成しています」
「え?」
嫁ちゃんが変な声を出した。
あらかわいい。
「え?」
クレアも変な声だった。
うんかわいい。
「えー!!!」
エディが野太い声を上げた。
かわいくない。やりなおし。
「あら……知らなかった……のかな?」
「え、妾はジェスターはみんな婿殿みたいなのか聞きたかっただけなのじゃが……」
「あ、ああ、えっとレオ殿みたい……とは?」
慌てすぎて話が横に逸れてる。
まあいいや見守ろう。
おもしろいから。
「その……な。なんでも冗談に変えてしまうのか……と。いやな、タチアナもアリッサもそのような能力ではないのだ」
「あ、なるほど。先ほどの話とも関連がありますので解説しましょう。ジェスターは強力な現実改変能力を持ってます。そのトリックスター性から道化師と呼ばれてます。ですがそれはコメディを指すものではなく、あくまでジェスターは第三者に希望をもたらすことで力を倍増させると考えられてます」
「希望……つまり婿殿が絶望を笑いに変えるのは……」
「本人の資質です」
つまり俺は芸人気質ってことぉッ!!!
俺が全部悪いの!!!
「で、ええっと、共和国側の改造人間【ディアボロ】ですが……絶望を力に変えます。死と破壊と殺戮をもたらすことによって力をつけます」
とんでもねえの来たな。
ゾークマザーなんかよりやべえじゃねえか。
「……そいつらが我が帝都を破壊し、貴族や官僚機構を腐敗させたのか?」
「おそらく」
「婿殿、倒すぞ。アオイ! 我が方につけ! 妾は共和国民だろうが差別などせん!」
「……わかりました。まずはゾークマザー、おそらく私のクローンに進化を施した個体を倒すことを提案します」
こうしてアオイが仲間になったのである。
……それにしても……俺の能力がふざけてるのは俺の個性なのか。
もうあきらめよう。(白目)




