第二百二十八話
調査当日になった。
実は問題が発生した。
出発前にケビンがドローンで家の中を探索しようとした。
もう何度目かな?
10回はやってる。
ロボットアーム付きの車両型の地上ドローンを例の家に近づける。
「家屋に接近したよ。ドアを開けて……シグナルロスト。やっぱりだめだ~」
いきなり映像が途切れた。
惑星の軌道上に設置した人工衛星とリンクしたGPSも反応しない。
ドローンが行方不明になったのである。
宇宙空間から監視しているカメラにもいきなり消えたように映像が記録されていた。
毎回これである。
で、これでドローンが破壊されり行方不明になったら宇宙空間からミサイルで焼き尽くすって話になるだろう。
だけど2時間もするとドローンは敷地の外に出された状態で発見されるのだ。
ドローンを回収するも異常なし。
しいて言えばバッテリー切れの状態になっているだけだろう。
バッテリーは小型の物でも24時間は持続するはずなのだが……。
不気味な現象ではあるが不思議と悪意はなさそうである。
それが逆に不気味なんだけどね!!!
で、嫁ちゃんも判断に迷った。
俺を行かせて、外でミイラになって発見……なんてのが一番恐ろしいわけでね。
有人探査も万が一のことがあれば士気が下がる。
なので折衷案として俺が現場に行き、俺が指揮しながら中で有人探査という計画になった。
アリと言えばアリなんだけどさ。
敵の姿もないので輸送船で例の惑星に降り立つ。
エディや俺、いつメンの人型戦闘機を配備。
地上部隊も万が一に備えて仮設の基地を建設し、有刺鉄線を張る。
有刺鉄線なんかって思うかもしれないが、カニに最も効果のある設置型兵器が有刺鉄線である。
地雷なんかだと殺しきれないが有刺鉄線は足止めできる。
足が引っかかって取るまでに時間が稼げるのである。
人間の悪意の勝利である。
そんなわけで基地を建設して人型戦闘機をすぐ近くに置いた状態でケビンがドローンで侵入を試みる。
今回は斥候が監視の目を光らせてる。
どのように消えるのかを高画質の映像で残す予定だ。
いやね、そもそもがそういう部署も連れてきてるんだけど、どうなるかわからないからね。
顔と名前が一致しない程度の仲間だけどカニの餌とか嫌じゃん。
ドローンが接近する。
家の敷地前がフェンスと有刺鉄線だらけというかなりシュールな絵面である。
それにツッコミも入れずにケビンのドローンが接近。
ドアにロボットアームが触れた瞬間……。
「消えた!」
いきなりドローンが消失した。
「予定通り二時間待機な」
俺がそう言って待機に入る。
基地は仮設ではあるが機密性が高い。
生命維持装置がないと生きられない大気だからだ。
俺たちが戦闘服着てればいいじゃんって話でもない。
やはり待機時間が発生する場合は戦闘服と宇宙用のヘルメットだとストレスがたまる。
だって顔もかけないわ、むれるわ、息苦しいわと悪いことしかない。
そもそもミッション終了まで何日かかかるかわからないもんね。
というわけで少数精鋭と専門家チームである。
アシスタントは院生である。
こき使ってくれ。
なお調査の結果、惑星の大気は有毒ではない。
単に薄いだけ。
上空からの調査では水の痕跡も見つかってない。
水がないとこんな感じだよね。
二時間待つ。
監視者はケビン入れて三人で見守る。
プラス俺も見る。
別におもしろい映像でもないのでだんだん眠くなる。
眠くなるのでコーヒーでカフェインを摂取しながらである。
すると家のドアが開いて中からドローンがゴロゴロと転がってきた。
「ケビン、中はどうなってる?」
「光って確認できないよ」
なんだろうか?
うーん……。
「ドローン拾ってきていい?」
「ちょっと、やめなよ!」
「いやさ、なんか直感がささやいてるんだよね。行けって」
「ヴェロニカちゃん! レオが行くって言ってるよ! 直感だって!」
あ、ノータイムで言いつけやがった。
「直感か……婿殿中に入るなよ!!!」
「へーい」
というわけで戦闘服にヘルメットで外に出る。
エディが護衛で来る。
なぜか俺をライフルで突きながらな!
「オラ! 少佐キリキリ歩け!」
「尻をツンツンするな!」
相変わらず尻が危機である。
家の前にケビンのドローンが落ちていた。
俺は拾……。
「おいレオ!!!」
あん?
その瞬間、俺は広い部屋にいた。
えー……いやワープかよ。
事前の予備動作も何にもなくぬるっとワープする技術は帝国にない。
こんなものをゾークが持ってたら帝国をはるかに超越する技術を持っていることになる。
いやー、それならもっと戦争が悲惨になるわ。
ねーわー。
かと言ってこれが幻覚のたぐいなら今ごろエディが俺をぶん殴って起こしてるはずだ。
さらに言えば帝国を超越する何者かが俺を殺すつもりだったら、殺気を感知できない方法で俺をサイコロステーキにでもした方がはやい。
これも違うな。
なんだろう?
意図がわからない。
俺は部屋の中央に歩く。
特に見せたいものがあるわけでもない。
なんだろうね。
って思った瞬間、裸の姉ちゃんが現われた。
だが俺は冷静だった。
そう、これまでの経験から女性型ゾークである可能性を排除できなかった。
正体は汚いおっさんかもしれない。
女性はソファに座っていた。
そして頭の中に直接話しかけてきた。
「攻撃しないでください。ジェスター、話し合いに来ました」
「誰?」
「私はかつてゾークマザーだったもの。銀河共和国軍元総司令官、アオイ・フリードマンです」
……なんか大物来たぞ!
平常心、平常心っと。
「銀河帝国少佐、レオ・カミシロだ。爵位は大公」
「帝国の最強超能力者……平和の戦士ですね?」
「正式名称はわからないけどね。ジェスターで通ってる」
「承知いたしました。ジェスター、共和国についてどれほどご存じですか?」
「帝国が追放したってとこまで」
アオイがほほ笑んだ。
「承知いたしました。そこからお話ししましょう……」
まー、対等ぶっちゃって。
俺にはアオイと【お話し】する以外の選択肢がねえのにな。
なんにせよ、まずは【お話し】を聞くしかねえな。
って納得しながらも俺は脱出の方法を考えていた。




