第二百二十七話
実は例の家。
【行かなきゃだめだ!】って直感がビンビン訴えかけてる。
でも確実に誰か怪我するからな。
なんとかして行かない方法を考えないと。
頭を抱えてるとカトリ先生がやって来た。
「おう暇か?」
暇であるが嫌な予感がしたので逃げようと……襟をつかまれた。
「暇だな。行くぞ」
そのまま連れさらわれる。
ひどいわ!!!
「そこによ。地元の連中が仮設店舗出してるんだわ、つき合え」
仮設のプレハブ小屋でいくつもの店がやっていた。
「復興作業員相手に地元民が営業してんだわ」
焼き鳥屋のおっちゃんがカトリ先生を見て声をかけてきた。
「お、先生! どうです! 今日は寄ってきますか?」
「おう大将、二人頼むわ」
「へーい」
すでにカトリ先生は地元民の輪に入っているようだ。
なんという人間力!
コミュニケーション能力の化け物である!
「なんだ。びっくりしたか? 道場経営ってのはな、まずは地元民と仲良くなるところからはじめるんだよ」
「素直に脱帽です」
「カトリ先生、その子はお弟子さんで」
「おう、大将驚け! レオ・カミシロ少佐だ」
「へ~。あのレオ・カミシロ! いや英雄じゃねえですか」
俺は店主のおっちゃんに頭を下げる。
「あの……その……地元を更地にしてしまい申し訳なく……」
「へへへ。気にすんなって。しかたなかったんだろ? そりゃさ、うちも墓の場所もわかんなくなったけどよ。あんたらが体張ってくれたおかげで地元を取り戻せたってわけだ。あんたらがんばってるよ。ほら、つくね。食いな」
店主がつくねの串をくれた。
「あざっす」
「大将、適当に焼いてくれ。こいつまだ10代だからバカみたいに食うぞ」
「おうがってん承知!」
「あとビールと……お前も飲む」
「酒飲むとナノマシンの監視で通報されるんでウーロン茶で……」
「かーッ! 軍はやだね!!! 俺辞めてよかったわ!!!」
カトリ先生がゲラゲラ笑った。
するといきなり真面目な顔になる。
「でよ。弟子のレオくんよ。なに悩んでんの? おじさんに教えてみ」
「その……作戦のことで……」
「近くの惑星に変な建築物があるって話か。なあ大将なにか聞いてない?」
「噂は聞いたな。兵士が行きたくねえってぼやいてたぜ」
もはや機密もクソもない。
これも兵の人数が増えた弊害だろう。
「がははははは! そりゃ行きたくねえな! あのレオ・カミシロの伝説の一部になるぜ! ってよく考えねえで来たら未知の化け物と戦う地獄だもんな!」
「なので少佐としては安全圏から焼き払うのが一番安全かなと」
「だけどお前の勘はそう言ってねえってわけだ」
「今までゾークとの戦いでこういった遺物には過去に帝国が犯した罪の情報がありました。今回もなにかしらの情報がもたらされる可能性が高いです」
妖精さん……皇女ルナの情報。
共和国の情報。
麻呂と侍従長の話だってあった。
今回もなにかしらの手がかりがあるかもしれない。
そりゃね、絶滅戦争だから相手が責めてきてる理由なんて知らなくてもいいんだけどさ。
知ったところでサリエルみたいにまったく理解できない可能性はある。
「そうか……指揮官としては焼き払いたいけど、お前の勘は行きたいわけか。うん、じゃあよ。年寄りの昔話でもしようか」
「はぁ!?」
「いいから聞けって。俺はよ。パイロットの適性がなくて士官学校中退したんだわ」
「適性で……ありますか?」
よく考えるとおかしいな。
適性って言ったって、適性検査は前科なければ合格できる。
よほどなにか問題があったのだろうか?
「あー、まあ見ろ」
そう言うとカトリ先生がコンタクトレンズを外した。
黒目が銀色だった。
「昔の遺伝子改造兵の血を引いてるらしい。この目は特殊でな。普通の人間にゃ見えない光線も見えるんだわ。だけどな当時の人型戦闘機のセンサーと相性悪くてな。ノイズが入るんだ。今じゃ対処されてるらしいけどな。それで戦闘機のパイロットに不適になったわけだ」
「でも先生、手術があったのでは」
「ああ、それな。当時もこの目は治せた。だけどな、帝国剣術大会の選手としてはな。実はこの目はな。普通の人間と比べて5%有利なんだわ。お前だってわかるだろ。一流の中で5%有利になる意味が。……ま、要するに俺は戦闘機じゃなくて剣を取ったってわけだ」
「それは……好きな剣を取ったポジティブな選択ではないでしょうか?」
「それが違うんだな。俺は戦闘機乗りになりたかったんだ。だけど俺は人生において有利な方を取った。優勝に手が届く位置にいたからな。それに俺タイプの改造人間の目がパイロット適性で不適になったのは俺からでな。士官学校も学費の返還を求めなかったし、転校先の体育学校まで斡旋してくれたんだわ。不名誉な退学でもないっていうわけだ。要するに有利の方を選ぶ言い訳をみんなが用意してくれて、俺はそれに甘えてパイロットから逃げた。俺はそれをずっと後悔してる」
「後悔で、ありますか?」
「そう、客観的に正しい選択だとしても自分が満足できるわけじゃねえってことだ。例えパイロットを選んで優勝を捨てたとしてもな。俺はよ、ピゲットの同級でよ。あいつに会うたびに劣等感で押しつぶされそうになる。あのとき選択を間違えなきゃ皇帝陛下の近衛の隊長は俺だったんじゃねえかってな。あ、あいつに言うなよ。言ったらぶっ殺すぞ」
カトリ先生の言葉を聞いて店主のおっちゃんが涙ぐんだ。
「わかるぜ先生。人生ってのはままならねえなあ。なあ、若いの。あんたも後悔のねえように生きろって」
店主のおっちゃんが奥から日本酒を持ってくる。
「先生、飲め飲め。今日は俺のおごりだ」
「悪ぃな! レオ! お前も辛気くせえ顔してねえで食え!」
体育会系基準で食いまくる。
カトリ先生は自分の過去を話すのが恥ずかしかったのか、酒を飲んでからは無言だった。
おっと、みんなにお土産頼まなきゃ。
おっちゃんに注文する。
「おいおい、レオくんよ。この量じゃ二日分の売上だぜ」
「先払いするんで頼んます」
「わかったよ! 焼くまで時間かかるからあとで配達するよ! 今日は店じまいだ」
「あざっす!」
「おうお、リーダーしちゃって」
「先生にはお酒を用意してもらえますか。それで大人の兵も多いんで同じ物を何本か届けてもらえませんか? ちゃんと手数料払いますんで。その自分、未成年で酒の品種わからないもので」
「おう、いいよいいよ! 酒屋にも寄るよ! いやあ、いい上司さんやってるね。応援してるからね!!! 先生も見習いなさいね!」
「よくできた弟子だろ。また来るぜ。レオ帰るぞ~」
「はーい」
というわけで基地に帰る。
うん、覚悟は決まった。
行くしかねえな。
で、帰ってきたらワンオーワンに見つかった。
ワンオーワンは俺のにおいをかぐ。
「おいしそうなにおいであります」
「お土産後で来るからね」
「レンお姉ちゃんに報告するであります!」
ワンオーワンの通報でレンもやって来る。
「くんくん、このにおいは……焼き鳥!!!」
「注文したから! あとから来るから!」
「旦那様大好き!!!」
この平穏を壊したくねえな。
俺がんばっちゃおっと!




