第二百二十五話
ジョー・カトリ。
剣聖なんて世間では言われてるが、子どもの時から憧れてたパイロットの適性がなく軍を辞めた負け犬だ。
軍を辞めたが気位ばかり高い。
俺はいわゆる社会不適合者なのだろう。
そんな俺も唯一残った特技、剣の道場経営でなんとか糊口を凌いできた。
そんなとき士官学校の同期に呼び出された。
ピゲットの野郎だ。
あいつは皇族の近衛騎士をやってたはずだ。
だけど呼び出されたのは帝都のチェーン店の居酒屋だ。
わかってんじゃねえか。
高級店に呼び出したらぶん殴ってたところだ。
いや心が折れそうだ。
剣では俺の方が上だ。
だが俺には剣しかない。
生まれも平民だ。
ピゲットは頭もよく、貴族名家の次男。
近衛騎士として才覚を発揮し爵位も授与された。
世間の荒波をちゃんと受け止めて生きてきた男だ。
俺のような負け犬とは違う。
劣等感に押しつぶされそうになりながら会ってみた。
断ることなどできはしない。
それほどの劣等感だ。
だが会ってみたらピゲットは頭を下げてきた。
「頼む。弟子を育ててくれ」
「弟子って……レオ・カミシロか!?」
噂は聞いている。
帝国最強のパイロットにして皇帝陛下の婿。
腕一本で成り上がった英雄にして化け物。
話半分にしても……盛り過ぎだ。
なんだ、【幼年学校で特殊部隊を出し抜いた】なんて話は!
英雄を作り出さねばならないほど戦況は悪化してるのだろう。
帝国は滅亡するのかもしれない。
「なるほどメッキがはがれそうになったんだな。俺に性根を叩き直してほしいと」
「それだったらどれだけ良かったか……」
なんだか空気がおかしい。
「おいおい、らしくねえな。そのレオ・カミシロってのはどんなやつなんだ?」
「婿殿はもはや俺には評価を下すことすらできぬ……」
ヤンチャってことか。
なるほど。
うぶな皇帝陛下がチンピラにコロッと騙されたってのが真相か。
その尻拭いって話か。
悲しいな。
でも俺にはできない芸当だ。
ピゲットには他人の尻拭いができるだけの器量ってのがある。
俺にはない。
だからピゲットは常に悩み続ける。
人生ってのは悲しいものだ。
勝者が幸せとは限らない……というわけか。
だったらチンピラの更正の達人である俺がなんとかしてやろう。
なあにチンピラをぶちのめして丸坊主にして死ぬほど剣の道を叩き込むのは得意だ。
ああ、ピゲットのためだけじゃない。
これは俺がガキの頃になくした自尊心を取り戻すためでもある。
「わかった。俺にまかせろ」
詳しい話なんざ聞かない。
とりあえずチンピラを半殺しにして規律を叩き込めばいい。
うん、俺にまかせろ!
……と思ってた時期が俺にもありました。
会ってみたらわかった。
化け物じゃねえか!!!
むしろ相当過小評価されてるぞ!!!
なんだあの野郎!
本気の攻撃が当たらねえぞ!
「あの……先生……なぜ自分の尻ばかり叩くのでありますか?」
イラッ!
俺はレオの顔を木刀でグリグリする。
「当たらねえんだよ! お前さ! 殺気をこめた攻撃をすべて器用によけるだろうが! ツッコミ代わりの攻撃しか当たらねえんだよ!!! お前もだぞエディ!!!」
床で大の字になっているのはエディだ。
レオ・カミシロの副官であるが、こいつも化け物だ。
「エディ、お前の場合な! 攻撃がよけられねえんだよ! 前動作がねえわ、殺気もねえわでよ!!!」
「はあ……はあ……せ、先生はよけていらっしゃいましたが……」
「俺だってギリギリだっつーの! おいレオ! そのツラ! お前は殺気を消せば当たるんじゃねえかとか考えてるだろ! お前の場合は猛獣みたいな殺気を出し続けてるからな!!! 逆にいつ攻撃来るかわからんわ!!! 無駄な努力しようとするんじゃねえ! お前は小細工の前に基本の型の矯正しろ!!!」
「ふえええん!!!」
さらに言いたいのはもう一人。
床に突っ伏してるエッジだ。
最年少だが、こいつも化け物……いやまだ卵か。
「エッジはがんばってる。このままがんばりなさい」
「お、押忍……」
「先生! エッジだけずるい!!!」
「そうですよ! ずるいですよ!!!」
「ずるくねえよバカども!!! お前らは自分が異常な事を理解しやがれ!!! もうやだこんな化け物!!!」
まったく人の気も知らないでこの野郎どもは!
俺がレオ・カミシロに会った当日、ピゲットの野郎を問い詰めた。
聞いてたのと違えぞ馬鹿野郎と。
そしたら野郎、俺が考えてたよりも数段恐ろしい事実を突きつけやがった。
「婿殿はいわゆる異能者、超能力者なのだが……その能力は自分が味方だと思ってるものの能力を10%アップさせる能力だ」
「は? ……案外普通。いや待てよ……効果範囲は? 全体で10%なのか!?」
「一人あたり10%と言われていて、確認されてるだけで数万人規模で能力を上昇させる」
「おいおいおいおい、一人あたり10%を数万? 新兵が古参兵になるってことか!? それじゃ数万が数倍の兵に化けるのと同じじゃねえか!? 数が多くなればなるほど手に負えなくなる力かよ!」
なんだそのデタラメは!
いや待てよ……そんなレベルじゃねえぞ。
全員がタスクを10%速く終了させることができるとしたら……精神的余裕もできる。
戦死者も減るだろう。
実際の効果は10%どころじゃない。
なんだその化け物!?
「ああ、思ってる通りだ。成長率も上がるし、精神的にも安定する。総合的効果は一人当たり数倍の戦力上昇と試算されてる」
「待て待て待て待て、それはすでに王の器……」
「陛下もそれは認めていらっしゃる。【レオ・カミシロは皇帝の婿ではない。銀河帝国皇帝である妾がレオ・カミシロの嫁なのだ】と」
「おいおいおいおい……じゃあレオ・カミシロが死んだら……そういうことか! おいピゲット! 俺に頼んだのはそういうことなんだな!?」
「ああ、そういうことだ。すでに婿殿は何度も命を狙われている。ただの愚か者から無政府主義者。カルト宗教に至るまでな。敵は帝国の中にいる。俺が守るのも限界だ。守れ。レオ・カミシロが死なぬように。壊す覚悟で剣の技術を叩き込んでくれ。お前にしかできぬ。世界を……人類を守ってくれ」
なんてことだ……ガキのお守りだと思ってた仕事だが……責任重大だ。
あー! もー!!!
弾丸つかめる化け物をさらに強くってどうすればいいんだよ!!!
だから俺は……。
やつらの師匠になるのはあきらめた。
そう、俺は考えるのをやめた。
「レ~オく~ん、あっそっびまっしょ~!!!」
今日もブンブン木刀を振りながら高級士官の小屋に行く。
「ギャーッ!!! 先生!!! おいエディ、エッジ! 先生が来た! 逃げるぞ!!!」
窓から逃げるバカどもを捕まえる。
逃がさねえ。
これから潰れるまで全力スパーリングだ。
ぐははははは!
こうなったら俺もバカになるしかねえよな!!!




