第二百二十三話
死にかけてから一ヵ月。
ゾークと俺の初遭遇から約8ヶ月が経った。
嫁ちゃんは新年の儀式をオンラインで行えるように準備してる。
喪が明けたので新年の儀式を盛大にやる必要があるのだ。
こっちにゲーミング坊主と神職がやって来た。
建築作業員も連れて寺と神社を全力の工事で作るそうだ。
すでにデザイン案のコンペは終わってて、金を使い放題な豪華絢爛仕様になっている。
サリエルが操ってた金が安全だったので、さっそく仏像を作ろうという話である。
ただの総純金みたいな成金趣味になんかしない。
人間国宝を現地に呼んで帝国民統合の象徴レベルのを作るんだって。
間に合うのかな?
って思ったら最初に建物を作って50年計画で改築していくんだって。
で、昨日、寺の鐘、梵鐘が来た。
この世界では珍しい梵鐘。
実家にもない。
それを魔改造したものらしい。
いくら錆びても朽ちずに存在し続ける合金だって。
金も入ってるらしいよ。
さらに外には壊れた戦艦の破片を素材にした大仏も建立するんだって。
これはもうすぐ完成するみたい。
ま、失業対策の公共事業ってことだろう。
周辺惑星の出稼ぎ労働者が集まってる。
かなり効果はあるだろう。たぶん。
信仰心のない俺なんかは「へぇ~、そうなんだぁ~」という感想しかない。
タチアナも信仰心ゼロのため「へぇ~、そうなんだぁ~」である。
逆にわりと厳しめの家庭で育った者、例えばクレアなんかは最低限の敬意を表してる。
「こういうのは気持ちだから」
なるほど。
壊れた墓なんかもGPSの座標から修復中だ。
さすがに遺灰を戻せないけどこれはしかたない。
寺は帝国の管理で偉いお坊さんが管理するらしい。
神社も同じ。
さらに人類側の大勝利であることの祈念碑に博物館に……。
長男を失ったシナガワ伯爵は悲しむ間もないくらい大忙しの毎日を送っている。
このくらい忙しい方が逆に精神衛生的にいいのかもしれない。
さて、俺たちは動けずに……というか兵が多すぎて動くまでに時間がかかる状態だ。
でもこの人数がいなかったら初期の復興はもうちょっと時間がかかっただろう。
現在、うちの会社というか妖精さんが開発したシミュレーターで兵の6割が重機の免許を取得。
フォークリフトに至ってはみんな使えるぞいっと。
領主兼士官が重機普通に使って仕事してるのに下ができないですませられるわけがない。
というか大公で少佐が普通に重機使うから兵士が取らないわけにいかなくなった。
もともと俺たちの部下は無能じゃないんだけど、士官学校生基準で仕事をするはめになった。
一般兵は取得できる資格を片っ端から。
工兵は衛生兵は上級資格取得へ。
俺たちも暇を見つけては勉強の日々だ。
俺ももう一度、【軍事戦略各論】読み直さないと。
パラパラめくる。
マーカーと書き込みだらけ。
だけど理解にはほど遠い。
だってこれ大学校のテキストだもん。
「どうしたのレオ?」
食堂の小屋でうなってるとクレアが来た。
「軍事戦略各論のテキスト読んでも全体がわからん。その結論が小さすぎてさ」
「各論だからね。総論読み込んだ?」
「暗記できるくらいはね」
そもそもだ。
なぜか前戦出てるのに大学校の授業がさも当然のように始まった。
【オメエら繰り上げ卒業したんだし。将来の軍首脳部なんだから大学部卒業しとけ】という親心である。死ぬ。リアルガチ死ぬ。
俺は当初の予定通り法学部に進学希望を出したが最速で却下。
ピゲット、いつメン、それにオンライン参加の軍の偉い人たちにさらにはレイモンドさんまでに説得と言う名の圧力と強要を受けて総合戦略学部に。
なぜだ!!!
俺は内勤希望なんだ!!!
だが結果はこれ。
諸行無常である。
なお俺たちは無試験で大学部に進学した。
さすがに無試験はダメなんじゃないって言ったんだけどさ。
大中少【将】閣下たちの推薦状&皇帝陛下の推薦状があるんだってさ!
もう逃れることはできない。
あとで嫁ちゃんとよく話し合わないと……。
え? テストやるまでもない? なんでよ嫁ちゃん!?
「新型機を乗りこなしてる最強部隊に試験が必要かよく考えるのじゃ!」
あ、はい、了解です。
つうか士官学校大学部は新年度始まってないどころか休校中である。
本来俺たちが受ける予定だった来年度どころか今年度の入学試験の予定すら立たないのに。
俺たちだけ特別扱いである。
なんか異様にやる気に満ちあふれた教授たちの講義を受けている。
というわけで俺たちは中途半端な飛び級で大学生になったわけである。同級生はいつメンだけ。意味わかんねえ。
講義を受けて驚いたのは、院生が「いいから黙って講義受けろ」と言って基本を叩き込んでくれた哲学や憲法が役に立ったということだ。
というか講義受けてなければ危なかった。
院生に統治の講義受けてなかったら最初の講義の時点で意味がわからないまま退場になっていた。
危なかったぜ……。
というわけで、上級士官の俺すら死にそうな顔で勉強してるのに下が真面目にやらないわけにはいかない。
それはトマスたちも同じだった。
さすがに学生じゃないのでトマスが帝国剣術の師範を連れて来た。
某格ゲーの隠しボスみたいな道着ボロボロのおっさんだ。背中に天の文字浮き出そう。
実戦形式で死ぬほど稽古してる。
俺たちも【体さえ動かせればなんでもいいや】と軽い気持ちで稽古に参加。
そして後悔。
初日こそ師範相手に薩摩殺法でいいところまで行ったのに、二日目からは対策されてボコボコに。
というか単に手加減してくれなくなったのか。
だって「なんぼ彼ら強くても士官学校の生徒でしょ? まさかそんなに……やるじゃん!(獣のような歓喜)」である。
一切の手加減がいらない相手扱いされてる。特に俺を含めた男子とメリッサ。
師範殿は暇になると「レ・オ・くーん! あっそびましょう!!!(歓喜)」と満面の笑顔でやってくる。
毎回数本木刀折るのでトマス部隊からどん引きされてる有様だ。怖いよ~!!!
「……これがレオ・カミシロの荒行か。化け物だぜ」
「俺たちに真似できるのか?」
「嘘だろ……女の子まで同じことをしてるぞ」
なんだか兵たちに勘違いが急速に広まってるようだ。
俺は適応しただけで望んでこうなったわけじゃねえからな!
はい従軍記者のお姉さん! スクープゲットって顔しない!!!




