第二十二話
さらに次の日。
ようやく退院になった。
ゾークは攻めてこない。
親父と長兄は未だに行方不明だ。
親父はクローンによる蘇生ができない年齢だ。
50歳以上のクローン技術での蘇生は国家反逆罪級の犯罪の証人を除き禁止されている。
年金をもらうためにクローンで蘇生するなどの行為を防止するためだ。
なので死んでたらアウトである。
その場合は長兄に押しつけようと思う。
嫁ちゃん……俺を侯爵にしようとか……考えてないよね?
やだこんなヤンキーとジジババしかいない限界集落!
ここの統治とか無理でしょ!!!
あるのは資源だけじゃん!!!
困った俺は実家の領主の館を徘徊する。
俺の部屋もうねえでやんの! ギャハーッ!!!
えっちなデータでいっぱいの思い出の品は処分されている。
うん、男子に漁られる前に処分されててよかった。
男子を家に上げたら絶対やるからな。エロ物件の家宅捜索。
自宅はホテル風のビルだ。
最上階は俺たちの家。
そこから中階層までは宿泊者用になっている。
さらに下は会議室だったり、体育館だったり。
行政サービス用にぼったくり価格で貸している。
俺は前から「領民から搾り取っても自分で自分の財布殴ってるだけだからやめろ」と言っているのだが、アホどもは耳を貸さない。
もう知らん。
で、みんなが宿泊してる上層階に向かう。
生徒と近衛隊のおっさんたちは卓球場に機材を持ちこんで仕事してた。
「おう、婿殿。退院したか」
髭モジャのおっさんに声をかけられる。
「なんとか生き残りました」
「卓越した軍人は命を狙われるものだ。とうとう英雄の一人としてゾークに狙われるまでに名を馳せたと思った方がいいな」
「ジェスターが一人歩きして中身スッカスカですけどね」
「それでいい。婿殿はでんと構えてろ。それだけで敵は勝手に恐れる。あとは死にさえしなきゃ我々の勝ちだ」
「がんばって生きるッス」
こんな感じで激励されたと思えば。
「馬鹿野郎! エロファイルの一つもねえだと!!! 俺は貴様を見損なったぞ!!!」
バカな男子もいる。
「親が勝手に処分してたんですぅッ!!!」
このように中身のない会話をしていると角刈りのおっさんがやってきた。
侯爵軍の騎士だ。
「坊ちゃま。お母上が見つかりました」
「え? おかん!?」
忘れてた。
おかんは親父の正妻だ。
俺たち兄弟は全員母親が違う。
俺の母親は俺を産むのとほぼ同時に流れ者の商人と駆け落ちした。
こんな田舎嫌だもんね。
権力者の愛人になれば幸せになれると思ったけど、田舎領主じゃ嫌だよね……。
親父が勤務してる帝都に住めると思ったら、領地で領主の仕事の補佐だもんね。
その結果、俺は置き去り。
幸せを求める旅人にガキなど不要なのである。
なので俺が母親と認識してるのはおかんである。
おかんは兄弟を平等に接した。
下の意味で。
実子の長男の育児まで子守用ドローンやメイドや執事に丸投げしやがったのである。
仕事忙しいからね。
気持ちはわかるが、接する時間が少なすぎれば情もわかない。
今まで母親を忘れていたのはそういうことである。
人が死にかけても病院に来なかった人だしなあ。
せめて俺の実の母親を追いかけてぶち殺すくらいの情があれば父親も世間に評価されたのではないかと思う。
世の中の大半は、圧倒的能力があるわけでもないのに薄情なヤツに大事な仕事なんて任せないぞ。
近衛隊に手を借りておかんがやってきた。
「レオ、元気でしたか?」
「撃たれて腸と腎臓が吹っ飛んだんでしばらくトイレ近いですけど元気です」
「……」
会話終了。
ちょっとセリフのチョイスを間違えたようだ。
HAHAHA!!!
「ちょっと二人で話しましょう。隣の会議室に来なさい」
「うっす」
隣の部屋に行くと母親が折りたたみ椅子に座る。
俺もその辺の椅子を広げて座る。
「どこまで知っているのですか」
「俺の異能のことですか?」
「一連のすべてです」
「なにも。自分がジェスターとかいう過剰評価のクソ異能に目覚めたくらいで」
「我が家の秘密は?」
「親父が帝都でカツラを注文したことくらいしか……」
間違えて俺のカレンダーと共有してしまった親父のカツラ屋の予約を見たときの恐怖よ。
すぐに遺伝子治療したね。
それでも発生するときは発生するけど。
悲しいことに未だ人類はハゲを克服してないのである。
「そうではありません。ジェスターのことです」
え?
もしかして遺伝的に強いやつ?
選ばれた血筋?
チート能力がようやく登場!?
「我が家の発祥は一騎士から登りつめたとありますが……実際はお笑い芸人に当時の皇帝陛下がおもしろ半分で領地を下げ渡したのがはじまりで……なんでも皇帝陛下の前で全裸芸をしたとか」
「いま一番聞きたくなかった情報ですね。それ」
ジェスターミリ関係ないじゃん。
由緒正しい遊び人の一族かよ!
選ばれた血族ですらねえじゃん!!!
「それで……ゾークに関しては?」
「あのような生物など知りませぬ!!!」
「ですよねー!!!」
なんだこの無駄な会話!
「つまり何が言いたいかと申すと……我が家には特別な血など流れておりません。無茶はせぬように。クローン技術にも限界はあります……それと結婚おめでとう存じます」
この程度でほだされるほど相手を知ってるわけじゃない。
サム兄が同じ事言ったなら感動しただろうけどさ。
悪態をつくわりに心が動いてるのが悔しい。
「ありがとうございます」
「立派になりましたね」
まだまだです。
弱っちいしね。
あの巨人、本編なら最初のボスだもんね。
本来なら経験値稼ぎのいいカモですぜ。
「侯爵にはあなたになってもらおうと考えてます」
「ふぁ? それはいくらなんでも」
プランでは嫁の領地に併合してもらおうと思ってたが……。
「皇女殿下の配偶者として恥ずかしくない地位にしなければなりません。ようやくうるさいのが二人行方不明なのです。いまのうち侯爵になってしまいなさい」
「それいいの!!!」
って嫁が現われた!!!
「義母上殿! 妾は大賛成じゃ! なあに、領民にもご家族にも無体はせぬ。ただこの地を拠点にするだけじゃ」
「殿下の仰せのままに」
俺が侯爵ぅ!
サム兄にでも押しつけるか……。




