第二百十九話
みんな涙目で車両に載る。
士官学校の連中のこの素早さよ。
危機なれしてる。
「レンとメリッサも行って!」
俺がそう言うとレンとメリッサも人型戦闘機の置いてある倉庫に向かった。
俺は残ってサリエルと遊ぶと。
それに比べてトマスの軍や新入隊員、俺たちも含めた各領主の近衛騎士団は遅かった。
カニが地表に降り立った時点でモタモタ動き出す。
その頃にはピゲットも含めた俺たちは既に出撃していた。
ピゲットは嫁ちゃんを逃がして船の周りで待機。
ピゲットがいるから俺たちは無茶ができるのだ。
「レオくん遊ぼ」
目下のターゲットはサリエルだ。
俺は新兵器のグレネードランチャーを発射した。
なんで本体樹脂製なんだろ?
まあいいや。
それより問題なのは俺が生身なことだ。
みんな人型戦闘機の起動までしてるのに。
俺だけはグレネードランチャー頼りよ。
とにかくグレネードランチャーがサリエルと思われる不定形の物体の前に着弾した。
するとバチバチバチっと音がした。
あ、なんか嫌な予感。
ぶうううううううううんっと発射したカードリッジが轟音を上げた。
不定形のぶよぶよがカートリッジに引き寄せられていく。
それとなぜか俺の毛細血管が浮かび上がる。
ぶちぶちぶち。
血がにじむ。
なんじゃこりゃああああああああッ!!!
「レオくううううううううううううん」
ギュンギュンと不定形のぶよぶよはカートリッジにくっついて離れられなくなった。
こ、これは!!!
じ、磁石ぅ!?
まさかの超原始的な方法だった。
あーそういうことか!
磁石でくっつけるからか!
俺のナノマシンも外に出されたのか!
死ぬかもって磁力でナノマシンが固まって血管を塞いだらって意味か!
たしかにおっさんは血管が終わってる人多いからな。
心臓とか脳の血管が破れてゲームオーバーとかもあるのか……。
「あのですねー。このタイプのサイボーグがなんで今はいないかと言いますと、磁力に恐ろしく弱いって弱点があったんです」
「アルミとか銅みたいなのじゃダメだったん? それなら磁石でくっつかないじゃん」
「その系統のタイプもいるんですけど、どちらにせよ電子回路むき出しなんでEMPに弱く……」
ボンッと音がした。
「引き寄せてからEMPを発射します」
サリエルが動かなくなる。
ふうッ……。
「なんで電子回路をシールドしてる現在の人型でパイロットがいた方が総合的に強いんですよね。最悪マニュアルでも動きますし」
な、なんだ!
オ、オメエなんて怖くねえぞ!!!
「ですけどその弱点を克服してるはずなんですよね。例えば人体を使うとか……」
やめて……フラグやめて。
それあとで復活してくるやつじゃん。
だけどフラグ回収よりも先にカニの処理だ。
俺はなんとか自分の機体に乗る。
一番遅くに乗ったのにトマスたちより速く起動して出撃。
装備は剣だ。
倉庫前まで接近したカニを一刀両断。
カニカマにしていく……って言いたいけどこいつらの身って毒なんだよな!!!
そしたらカニがワラワラやって来る。
「ぶち殺したらぁッ!!!」
足を止めずに銃に持ちかえる。
アサルトライフルをぶっ放す。
最近、対戦シューターの動きを現実にフィードバックしてる感がある。
特に常に足を止めない辺りが。
俺は囲まれながらもその隙間を縫って動き回りつつ銃を撃つ。
エディの機体が見えた。
「エディ! 生きてるか!!!」
「死んでるわボケが!!!」
エディがカニを蹴飛ばして銃をぶっ放した。
そのタイミングで弾を撃ちつくしたのに気づき剣に持ちかえる。
エディも同じで剣に持ち替えた。
カニを剣で真っ二つにするとエディも俺の後ろにいたカニを切り捨てた。
「めんどくせえヤツがいるのにカニの大発生かよ!!! 死ね!!!」
エディはカニを切り捨てながら罵倒する。
「だよねー! さすがにこれは難易度高すぎだっつーの!!!」
カニを蹴飛ばし倒れたカニに剣を突き刺す。
今度は後ろ回し蹴りでカニを蹴る。
忙しい!
そのときだった。
エディの左腕にぶよぶよがまとわりついた。
「なんじゃこりゃああああああああああッ!!! うお! 手のコントロールが効かねえ!!!」
「お、おい! なにがあった!!!」
エディのぶよぶよまみれの左手が俺をつかもうとした。
エディは抵抗してるのか人型戦闘機の手が痙攣していた。
「レオ! 斬り落とせ!!!」
「おりゃああああああああああああッ!!!」
エディの左腕を切り落とした。
断面からぶよぶよが這い出してくる。
「グレネード!!!」
エディの声と同時にグレネードを投げた。
俺たちは走って逃げる。
カニが突っ込んできたので合気道みたいに体を入れ替えてグレネードの所に放り投げる。
ぽいっとな!
ドカーンッと音がした。
「殺ったか!?」
「無理だと思う!!!」
あー!!!
そういうことね!!!
機械に寄生してゾンビにするタイプの敵ね!!!
あー!!!
相性悪すぎる!!!
「レオくん! 人型戦闘機用のグレネードも作りました!!! そこの小屋にあるんで使ってください!!!」
「生産が間に合ってない! 死ぬ!!! マジで死ぬ!!!」
「まだ遭遇してから48時間しか経ってないんだからしかたないでしょ!!!」
「ですよねー!!! 妖精さん大好き!!!」
もういっぱいいっぱいである。
いっぱいおっぱいならどれだけいいか……。
おっぱい不覚悟につき切腹!!!(錯乱)
「レオ! そこの小屋だな!!!」
「おう!」
俺たちは全力ダッシュ。
小屋の入り口を蹴飛ばして半壊。
グレネードをひったくる。
「うおらぁ!!! 死ねやボケ!!!」
サリエルの破片がいたところにグレネードを投げる。
「レオ! 悪いが俺は銃で援護だ!!!」
ですよねー!!!
エディの機体、片手ないですもんね!!!
悪意! 圧倒的悪意である!!!
俺たちを潰す作戦をマジで考えてきやがった!!!
「旦那様!!!」
どうしようかと考えてるとレンが来た。
ショットガンをぶっ放す。
カニが次々と倒れていく。
「旦那様!!! ご無事ですか!!!」
「俺はいいからエディを安全なところに連れてって!」
「う、うううううん! わかりました!!! エディ行きますよ!」
なんとな納得してもらった。
レンはエディを連れて後方に行ってくれる。
「クレア! 旦那様のバックアップお願いします!」
どうやらメリッサは前線で戦ってるようだ。
クレアの機体がやって来るのが見えた。
その死角からサリエルがにじり寄る。
「危ねえ!!!」
俺はクレアの機体を突き飛ばしグレネードを爆発させる。
近いから俺の機体も吸い寄せられて……。
うおおおおおおおおおおお! 根性ぉッ!!!
這いずり回って逃げたけどEMPが発動。
俺の機体も巻き込まれ、異常を検知したOSが再起動する。
あー、クッソ!
EMP耐性とOSの保護機能あるからまだいいけどさ!
「レオ! 再起動お願い! 私がバックアップするから!」
クレアがバックアップしてくれる最中、俺は必死に再起動処理をする。
ド畜生!!!
サリエルとカニの組み合わせがこんなに厄介だと思わなかった……。




