第二百十四話
ミサイルによる火災が収まり、偵察機での映像評価がなされた。
カニがレンの実家みたいに地中に潜っている可能性も考慮して調査が行われることになった。
当然俺は調査隊に志願した。
一人で来い?
一人で行くわけないじゃないですか! やだー!!!
約束だってしてないし。
仲間たちからも異論はなかった。
俺を一人で行かせるわけがない。
当たり前である。
シナガワ伯爵は誤報告の責任を取り隠居することになった。
長男は戦死したため跡取りは次男とのことだ。
こういうのが一番処理が難しいんだよね。
嘘は嘘なんだけど、領地を守りたかったって話は同情できる。
他の領主からすれば他人ごとじゃない。
かと言って揉み消すと多方面に借りを作る。
政治は持ちつ持たれつだけど、変な借りを作ってそいつらが増長したら厄介である。
絶対的権力を持つ皇帝だからって、肥大化した組織の腐敗という運命から逃れられない。
対処すれば暗殺されるとかじゃない。
より巧妙に、より悪質になっていくのだ。
かと言って皆殺しにするような潔癖さでは人がついていかない。
なんにでも適量とか塩梅というものがあるのだ。
俺は皇帝夫婦の政治担当ではないし、嫁ちゃんを信用してる。
だから体を張ることとする。
今回は着陸時に攻撃を受ける可能性は低い。
人型戦闘機による大気圏突入はせず、輸送機で降り立つことになった。
出発食前にシナガワ前伯爵が俺に会いたいと言ってきた。
嫌だけど会いに行くことにする。
副長のエディが随行してくれた。
「エディさんよ、行きたくねえ……」
「レオさんよ、俺もだ……」
戦闘服姿のまま二人でシナガワが用意してくれた部屋に向かう。
秘書に取り次いでもらって部屋に案内された。
すると昨日よりも疲れた顔をしたシナガワが頭を下げた。
「どうもこのたびは……私の減刑にご助力いただきありがとうございます」
「ほとんどの領主にとって他人事ではありませんから」
裁判やって判例を作りたくない分野だ。
それぞれの事情が違いすぎるからね。
なるべく内々で処理したい。
かといって揉み消せないんだわ。
シナガワは俺の表情を見ると、何かを察して地図を広げた。
「ここが領都になります。こちらが採石場。こちらが農地……そして隠し鉱山がここに」
隠し鉱山ってあんた……サラッと言われたよ。
「いいんですか? そんな情報を私に話して」
「カミシロ閣下は信用できる御仁かと」
「わかりました。絶対とは言えませんが、惑星奪還任務にベストを尽くします」
というのがついさっきの出来事。
重めの期待を受けて惑星に降り立つ。
着陸場所はカニの残骸がない平原。
ミサイルでほぼ更地だ。
着陸すると人型戦闘機で調査に向かう。
調査自体はケビンとニーナさんが主体なんだけどね。
ケビンはドローンで調査。
ニーナさんは遠隔操作で車両と飛行機を操る。
俺たちは新入隊員を引き連れて隠し鉱山へ。
普通の鉱山なんかは事前調査で調べてるもんね。
いるとしたらここかな。
いなきゃ調査は終わりでいいしね。
「歩兵班はドローンを操作しながら偵察! 戦車部隊は待機!」
エディが指示を出す。
だいぶ少尉っぽくなってきたよね。
俺は少佐なのでエディたちに指示を出す役だ。
……本当のとこ少佐が前戦出てきてる時点で帝国はやべえのよね。
過疎地のコンビニにチェーン本部の部長さんがレジ係として常時派遣されてる状態と考えると……。
やめておこうっと!
しばらく待っていると偵察部隊から報告が上がる。
「坑道の奥に生命反応」
行くはめになったぞいっと。
隠し鉱山ではあるが、地方領主あるあるらしい。
うちは帝都に近すぎるので縁がない文化ではある。
銅くらいだったらお目こぼし。
ただし公害の責任は取れ。
核物質なんかの横流しだったら死刑だそうだ。
これで私腹を肥やすためではないところが恐ろしい。
このくらいやらないと赤字で死ぬのである。
本当の地方の実態を知るに従い、カミシロ家って裕福だったんだなあと思い直す日々である。
俺たちは鉱山に入る。
隠し鉱山だけあって山に狭い穴を掘っていく方式のようだ。
金鉱山なんだって。
金鉱山っていうと儲かるイメージだけど、かなり元手がかかるわ、すぐに枯渇するわ、税金が莫大だわ、海賊がやってくるわ、公爵会に目をつけられたら領地ごと取り上げられるわで存在自体が呪物みたいなものである。
近くの領主と持ちつ持たれつで細々やって来たんだって。
涙ぐましい。
扱ってた金額が細々すぎてね……。
こんな規模で処罰したら他の領主から不満が出る。
犯罪か否かって言われたら犯罪なんだけど……厳重注意で終わりである。
嫁ちゃんも処罰する気はないそうだ。
生身で探索。
鉱山の中は薄暗かった。
照明はあるんだけどかすかな光量だ。
上空からサーモカメラで察知されないように熱を発しない程度に照明を絞っているのだろう。
手作り感満載である。
俺たちの隊はカミシロ本家の騎士団で構成されてる。
レイブンと愉快な仲間たちである。
逆に言うとよく知らん連中とも言える。仲間だけどね。
エディの所も末松さんという盾と顔のでかいおっさんを中心とした面白構成だ。
佐がつく仕事ってたいへんだわ。
俺はレイブンたちと奥に向かう。
鉱山の生命反応が大きくなったところでケビンの車両型のドローンを置く。
「ケビンお願い」
「うんわかった」
レース用の模型よりも一回り小さいドローンが走る。
リアルタイムでカメラの映像が送られてくる。
奥に行って大きな部屋に出ると……。
ひょいっとドローンが持ち上げられた。
「一人で来いって言ったのに、しかたないやつだな」
何者かの顔が映る。
それは男だった。
人間に見える。
だが確実にゾークだ。
「やあ、レオ・カミシロ。一人で来いって言ったのに約束がちがうじゃないか。酷い男だね」
約束なんかしてねえよ。
お前は学校の嫌われ者の教師か?
返事してないのに勝手に約束にする頭おかしいやつ。
「話し合おう。停戦の要求だ」
はい嘘つき。
お前ら契約を守る文化すらないだろうが。




