第二百十三話
ワンオーワンとタチアナにお菓子を渡す。
チョコレートだ。
「ありがとうであります!!! 隊長大好きであります!!!」
だいぶ懐いたワンオーワンが腕に抱きつく。
ゴールデンレトリーバーっぽい。
猫はチョコを奪い取って食べると、もっとくれと手を差し出す。
先にワンオーワンにおかわりあげてからタチアナにあげる。
「ん」
これでも慣れてきたのである。
頭をなでておく。
で、二人をケビンの所に連れていく。
「どうしたの?」
ケビンはドローンで惑星シナガワを偵察していた。
画像を見て分析にかけている。
「いやさー、ワンオーワンとケビンが敵を察知してないかなーって」
「察知って言われてもボクもワンオーワンもネットワークから切断されてるからね」
ワンオーワンがケビンの横に座る。
並んでると姉妹みたいだ。
「そうだね、地表のデータはこれかな」
地表はカニで埋め尽くされていた。
なーにが【半分は支配された】じゃい。
全部じゃねえか。
これだけなら爆撃すりゃいいだけだ。
この状態じゃ生存者も存在しないだろうしね。
問題はゾークネットワークの中継やってる個体がどれかってことだ。
カニなのかな?
惑星ごと処分って手もある。
地表を焼き尽くしてもいいし、惑星ごと破壊してもいい。
取れる手段がたくさんあると迷うよね。
「焼くか」
俺はボソッと言うとシナガワ伯爵のところに向かった。
シナガワ伯爵の執務室に行くと近衛騎士団が守っていた。
「レオ・カミシロが会談したいとお伝えください」
騎士が執務室に聞きに行く。
休めの体勢で立っていると中にいた秘書と思われる男性がやって来た。
「お入りください」
中は基地と同じくらい殺風景な部屋だった。
会社とかでよく使ってる金属製の緑色の机と椅子が置かれていて、そこでシナガワ伯爵は仕事をしているようだった。
入り口には簡素なテーブルとソファが置かれていた。
「大公閣下、先ほどはどうも」
俺は軍帽を脱いでぺこりと頭を下げる。
「部下が偵察をしたのでご報告に上がりました」
ソファにシナガワ伯爵が座り「どうぞ」と言われたので俺も座る。
秘書さんが煎茶を持ってきてくれた。
この薄い香り……軍の売店で売ってるお茶だわ。
飲むと無駄に渋いやつ。
俺は秘書さんに頭を下げる。
「地表はゾークに埋め尽くされてるようです。残念ながら生存者は……」
「恐れ入ります」
半分じゃねえよボケ!!!
全部支配されてるわ!
とかの余計なことは言わない。
おそらく【半分を取られたから自動攻撃ドローン置いて逃げたよ】って意味だろう。
それを最大限自分にとって都合いい解釈で報告したのだろう。
「は、恥ずかしながら我らには前線を維持する能力は既に……」
同情もしなければ否定もしない。
同情すれば俺と嫁ちゃんが許したことになっちゃうし、叱責でもしようものならシナガワ伯爵が物理的に腹を切る騒ぎになる。
最悪の場合。オザワのおっさんまで巻き込まれる。
それは目覚めが悪い。
少なくともオザワのおっさんはがんばってる。
腹切らせるわけにはいかねえ。
これはすでに心理戦と言えるだろう。
なので責任の所在は追及しないけど、俺も嫁も追認したわけじゃねえってラインに収める必要がある。
「当方としては惑星ごと攻撃すべきと提案します」
これがペナルティーかな。
今まで築き上げた領地が無になるという特大のペナルティーではあるんだけど、そもそもゾークに破壊されてるから実質ペナルティーなしって感じかな。
シナガワ伯爵は下を向いて声を絞り出した。
「せ、先祖代々の墓があるんです……」
「わかります。うちの実家も同じですよ」
「せ、先祖がここまで領地を築き上げたんです……」
「ええ、わかります。うちも最近まで寺すらありませんでしたから」
「た、戦いでなくなった息子の墓も……ぐ……うぐ……」
そりゃね。土地に縛られてるのは領主も同じだ。
捨てられる方が異常だ。
俺は何も言わないで見守ってた。
これが地方領主のリアルよ。
「す、少し時間を下さい……皆に伝えねば……お願いします……」
「承知しました」
俺は立ち上がって軍帽を被って退散する。
こういうの苦手だわー。
わかるんだよねえ。
嘘報告しちゃう気持ちは。
土地捨てろって言われてもね。
それを決断する勇気はないよね。
みんながいる待機所へ戻る。
部屋に入るなりクレアがお茶をくれた。
「お疲れ、がんばったね」
ケビンから報告が行ったみたいだ。
俺はクレアの手を取る。
いい雰囲気だと誰かがぶち壊しに来る。
これはラブコメ時空の絶対的な物理法則だ。
今回も同じだ。
嫁ちゃんが入ってきた。
嫁ちゃんは俺の尻を叩く。
ぱちこん、ぷるーん。うふーん。
「がんばったな婿殿!」
「あざっす。シナガワ伯爵の処分は?」
「故郷を壊されるの避けたい気持ちはわからんでもないからの。婿殿が提案したように表向きは地表の破壊。実際は軍事作戦で行こうかの」
シナガワ伯爵との会談は録画してすでに送ってある。
あとは領民と騎士を説得できるかどうか。
説得できれば爆撃して終わり、説得できなきゃ追加の処分が検討される。
爵位剥奪もあるかもしれない。
あまり考えたくないね。
懸念は杞憂だったようだ。
数日後、宇宙からミサイルが発射された。
惑星シナガワが焼かれていく。
それをシナガワの領民や騎士は見て涙していた。
こういうときにジャーナリストは役に立たねえのね!
俺の悪口の一つも書きやがれ!
冷たいとかさ!
地表を焼き尽くし、ドローンで偵察をする。
すっかり焼きつくされていた。
「いるのです」
ワンオーワンがつぶやいた。
「うん、来いって」
ケビンも認めた。
ゾークが俺を呼び出しやがった。
「俺一人で来いって?」
「うん、確実に罠だよね」
なんか用事あるんだろうし、お泊まり行っちゃう?
しゃーねーなー。ケーキでも持っていくかね。
あとチェーンソーもね。
ジェスターに笑えない展開強いた罪ってのをわからせてやらんとね。




