第二百八話
シンジケートは崩壊した。
って言っても地下に潜っただけである。
テロリストの組織と同じ、何度叩いてもしぶとく復活する。
農地の雑草と同じだ。
気がついたら抜くしかない。
根絶は難しい。
俺たちは惑星カミシロ本家にいた。
惑星サンクチュアリに行けないまま日々の仕事に忙殺されている。
「うわああああああああああ! 俺は遊ぶぞ! レオぉおおおおおおおおッ!!!!」
男子のSAN値がゼロになった。
それもしかたなかった。
慣れない領主仕事に追われる毎日。
そこにシンジケートのアホどものせいで事件の報告書に再建防止計画に再建計画に拉致されたビースト種の報告書に……死ぬ。
統治してる惑星の文官がいて報告書作ってくれてるんだけど、そもそも旧公爵領の文官なわけで……信用できないので妖精さんと領主本人のダブルチェックは必須だ。
さすがにそんな愚かなことしないと思うじゃん。
やるのよ……改ざんに嘘報告に曲解に……。
隙あらば公金を懐に入れやがる。
もちろん検挙だ。検挙!
文官入れる方が仕事が増えるような気がする。
しかもここで文官を遠ざけると、耐えられなくなるまで仕事量が増え続けるという地獄が待ってる。
文官を帝国法で弾圧しつつ仕事は回すという意味のわからないオペレーションが必要だ。
我々はとりあえず前任者は皆殺しにする古代の王朝の合理性を理解したのであった。
なめられたらぶち殺す。
その気合だけで俺たちは仕事していた。
そして……SAN値ゼロ、限界を超えたものから恐慌を起こすのだ。
「押さえつけろ!」
「放せ! 放せえええええええええ! 俺は海で遊ぶんだああああああああああッ!」
「だったら民事裁判の書類だけでもチェックしろ!」
「うおおおおおおおおおおお! 法律用語なんて読んでられるかああああああああああッ!」
わかる。
法律用語はほぼ外国語である。
目が滑って読めない。
でもやれ。
だってその民事裁判やらないと誘拐されたビースト種に賠償金払われないし。
「仕事しろ! あとで遊べ!」
「ふえええええん!」
ムリヤリ仕事させる。
俺も嫌になってきた。
でもレンとケビンに比べたら楽なんだよね。
俺は裁判所へ提出する書類と軍の報告書だけだし。
ケビンの所はアジトの報告書なんかがあって1.5倍、レンの所は被害者なのに2倍だもんね!
さらに言うと嫁ちゃんは帝都で仕事だ。
久しぶりの別居である。さびしー!!!
「お疲れ様なのであります! お茶なのであります!」
メイド服のワンオーワンがカートを押して来た。
「乙っす」
タチアナもメイド服だ。
「どうしたの君ら?」
「罰ゲームであります!」
「ルナとゲームして負けたんだよ!」
あー、そういうことね。
妖精さんにゲーム挑むとか無謀すぎるわ。
「ルナちゃん強いであります!」
いいこ、いいこと頭をなでる。
クソガキムーブしてるけど約束を守ってるタチアナの頭もなでておく。
「そのままのお前らでいてくれなー」
「うっざ! さわんな!!!」
手を払われた。
でも甘い。
うりうりする。
「さわんな!」
シャーされたので終了。
お茶をもらう。
うーん、お茶がしみる。
砂糖が欲しいでゴザル。
仕事をしすぎて脳がおかしくなってきたあたりで終了。
みんなが俺を見る。
宣言してほしいのだな!
「遊ぶぞおおおおおおおおおッ!!!」
もうね、お外で遊ぶ。
素早く水着に着替えてお外へ飛び出す。
執事さんに遭遇。
「行ってきまーす!」
そう言うとなぜか執事さんが涙を拭う。
「ご先祖様……黙って耐えたかいがございました! 今度のお館様はご立派ですぞ!」
仕事しただけでこの評価!
いいぞいいぞ! もっとほめろ!
有り余った体力と仕事でグズグズになった脳味噌。
完全にサルと化した体育会系どもが全力で遊ぶ。
泳ぎまくって疲れるとトロピカルフルーツを食べる。
うーん、セレブって感じだ。
これでも公爵会のころよりも圧倒的に質素なんだって!
おかしいよね!
なるべく金使ってるのに!!!
かといって投資もなにもかもやり尽くした。
カミシロ本家の開発はセキュリティの関係で保留。
士官学校の連中の領地はシンジケートまで排除したので帝都の企業が競って施設を建設してる。
安全でクリーンで帝都近郊で領主は若く……と条件がいいからだ。
取り残されてるのはうちの惑星だけだよ……。
しかたなく軍備増強するとなぜか投資が殺到して金が増えるという異常事態である。
大公軍も募集したら応募者殺到。
コロニーを建設中だ。
しかもそのコロニーにはすでに大手住宅メーカーや小売り企業の売り込みがかけられている。
ニュータウンかなって感じだ。
コロニー建てて借りた金を返すのではなく、黒字で始まり、黒字で終わりそうである。
意味わかんない。
もうめんどうになったので、増えて余りまくった金は妖精さんに運用してもらってる。
報酬はゲームソフト買い放題で。
なんかさー、公爵会っていう詰まりの原因取り除いたら健康になりましたって感じである。
帝都も景気良いみたいよ。
戦時経済の初期の一時的に景気良い状態じゃなくて、今まで金の流れをせき止めてたのがいなくなった効果で。
やっぱり公爵会って帝国の癌細胞だったわけである。
ビースト種の皆様に対しても嫁ちゃんが【我が臣民である】と改めて宣言した。
国の都合で生体改造手術受けさせられた末裔なんだから当然だよね。
地下経済も消滅したし、いいことずくめだよね。たぶん。
クレアがやって来た。
あらかわいい水着。
「どうしたん?」
「うん、ちょっと気になって……ゾーク静かすぎないかな?」
「惑星サンクチュアリの辺りは激戦らしいけどね」
「それでも一時は帝都を支配する寸前まで来てたんでしょ? それにしては静かだなって」
「やだ怖い! でもさ、俺たちできることないよ。領地から動かせって話ないし」
「だよね……ちょっとこれ見て」
それは古い資料だった。
「なにこれ?」
「実家の会社も大きくなったから経済団体の古い資料も見せてもらえるようになったんだ。それでお父様がこれをみつけて送ってくれたの」
資料には惑星を喰らい尽くす大きな生き物が描かれていた。
年代は600年前。
ちょうど、ありとあらゆる資料が隠されたあの時代だ。
……そういや帝都を襲ったゾークはバカでかかったな……。
あれよりも大型のがいたとすると……。まさかー。




