第二百七話
戦艦の上には摩天楼がそびえ立つ。
あまりに芸術展の高い成金趣味に頭が痛くなる。
公爵会の連中ってまだ上品だったんだな……。
女神像は正義の女神。
裁判所にあるやつ。
正義の女神を支配したとでも言いたいのだろう。
戦艦から人型戦闘機がやって来る。
なんか紫色の悪趣味な機体だ。
「この化け物どもが! だが俺はわかるぞ!!! レオ・カミシロ! 貴様の伝説はフェイクだ! 仲間の手柄を横取りしたんだろ! 俺にはわかるぞ!!!(キーン……)」
クソデカ音量で俺の機体のスピーカーが音割れした。
うるせえ!!!
聞こえてるわ!
「あーはいはい、フェイクフェイク」
「だよなー!!! わかるぜ!!! お前、本当はタイマン苦手なんだろ? おー、かかって来いよ! クズどうし決着つけようぜ」
「あー、うん、苦手苦手。ぽく、怖くてゾークから逃げ回ってただけ。あ、タイマンね。エディたん助けてー(棒)」
「そうかそうか! ぎゃははははははは!!! 死ね!!!」
海賊が名乗りもせず剣を抜いた。
やだねー。俺たちが戦艦落としたの見てないのかな。
剣は帝国剣術だった。
俺はハンマーを取り出すと剣を殴りつけた。
はい、俺の方が速い。
「な、速い!」
「帝国剣術ねえ、騎士崩れかな」
「ぎゃはははは! 騎士なんざやってられっかよ!!!」
剣を振り回してきた。
遅い。
相手が振りかぶろうとした瞬間、ハンマーを思いっきり剣にぶち当てる。
「あん?」
相手の剣が自らの頭部にめり込んだ。
脇が甘い。
おれはそのまま胴体にハンマーをぶちかます。
相手はバランスを崩す。
ちゃんと半身になってないからこうなる。
「な、な、な、な!? なにが、なにがあッ……」
最後に頭に一撃。
殺したわけじゃないから気合さえあればカメラなしで戦えるけど……この程度の相手なら何もできないでしょ。
「酷いものを見た……」
エディが呆れてる。
よーし通信でアピールしよ。
「はーい。ヨワヨワお兄ちゃんだよ~♪ こうなりたくなかったら投降してね~♪」
そしたら間髪入れずミサイルだよ。
ざーこざーこ、雑魚お兄ちゃん♪
こんなよわよわミサイル当たってあげないんだから。
ミサイルの弾幕を避けていく。
すると人型戦闘機が二体接近。
だけど俺に気を取られすぎだ。
一体はエディに頭を撃ち抜かれ。
もう一体はメリッサが切り捨てた。
そして女神像にスナイパーって思ったらレンがヘッドショットしてた。
それにしても公爵領の横流し品ばかりだ。
これだけでも反逆罪相当だよね。
でさでさ、俺たちに気を取られすぎなのよ。
この戦艦。
だってさ……。
「全艦砲撃せよ!!!」
嫁ちゃんの総攻撃に気がつかないんだもん。
それは一方的な蹂躙だった。
まさに蹂躙だった。
そりゃね。
皇帝陛下の専用艦よ。
銀河の支配者による圧倒的物量の砲撃が浴びせられる。
犯罪組織の戦艦のミサイルなんて線香花火の儚い光でしかない。
女神像は崩れ、摩天楼は灰燼と化した。
敵の戦艦は惑星レディグレイに墜落していった。
生きてるかな~?
さすが嫁ちゃん、俺好みの派手な展開わかってる!
「よ、嫁ちゃん! 宇宙一のいい女!!!」
「ほめよ! ほめよ!!!」
こうして【皇帝陛下夫妻、犯罪組織に正義の一撃】という記事が帝国中にばら撒かれたのであった。
きれいなもんだろ、これプロパガンダ頼んでないのよ……。
こうしてレンとその領民、そして解放された女性型ゾークの安全は保障されたわけである。
ゾークと戦わないでなにやってんのよって話ではあるが、なぜか帝国民は喜んだ。
政治って難しいよね。
さーて、その後の話である。
複数の惑星でシンジケートへの一斉取り締まり作戦が決行された。
これは奴隷として売られたビースト種奪還でもあった。
数万人が救出されレンの惑星へ。
これにレンより激怒したのが嫁ちゃんである。
嫁ちゃんも麻呂の奴隷みたいな人生を送ってた。
こういうのが一番許せないのだ。
「粛正じゃ!!!」
嫁ちゃんは奴隷を囲ってた貴族を徹底的に取り締まった。
片っ端から捕まえてちゃんと裁判にかけた。
こうしてまたいくつもの貴族家が消滅したのである。
レンの父ちゃん……死んでてよかったね……。
いろんな王朝がスタートアップで粛正しまくる理由がわかった気がする……。
公共放送からネットまで俺たちの戦いが取り上げられている。
なぜかって、そりゃゾーク戦争の戦況がよくないからだ。
国が勝ち戦を宣伝したいってのはわかるけど、民の方も負け戦のニュースばかり聞きたくないのである。
朝から晩まで俺たちのニュースばかりである。
で、俺は自分が有名になりすぎるのもよくないなって思った。
みんなにも誉れを分けてあげようって思ったのだ。
特にエディ。
べ、別に、ウザいマスコミ押しつけたんじゃないんだからね!
いつものようにインタビューを受ける。
「勝利の秘訣は?」
「優秀な副官のおかげですよ」
エディを副官にしたのには理由がある。
クレアだと【自分の女ばかり優遇してんじゃん!】って言われかねない。
そもそもクレア様には惑星の物資流通ルートを握られている。
誰も逆らえないのだ。
俺より偉いもん!
だからエディにすべて押しつける。
「こちらのエディくんは我が隊のエースパイロットで、士官としても優秀で……」
エディをほめまくる。
俺の横でエディは「マスコミ押しつけやがったな!」って顔してたけど知らん。
インタビューの後、なぜかエディの婚約者の家からお礼状が贈られてきた。
全力で囲い込む気だろう。
本人嫌がってないからいいんだけどね。
聞いたら「いい子だよ」って。
大人だ……エディにも【さん】をつけなければならないだろうか?
あ、嫌がらせだけじゃないよ。
俺が手柄総取りってのはよくない。
嫁ちゃんに弱点があるとしたら、それはカミシロ一門が割れることだ。
だからなるべく名誉と栄光はみんなに分ける。
不満だけはためないようにしないとね!




