第二百五話
エディの野郎の婚約が決まったらしい。
年上のお姉さんだってさ。
軍閥の侯爵令嬢だ。
うちも同じなんだけど、あまり領地経営が上手じゃない侯爵家の末っ子は学費を自分でどうにかしなければならない。
エディの婚約者も大学入学の奨学金のために軍人やってる苦労人らしい。
あまりの侯爵家あるあるに涙が出そうになる。
世の中は子爵家でテーマパークの社長兼公安幹部もいれば、侯爵家で限界集落の農協組合長もいるのだ。
とても他人とは思えない。
結婚式には呼んでね。
さて今までのことを報告書にせねばならない。
レンはビースト種の大王様に就任。
なに言ってるかわからねえ。
急いでレンの惑星に行ったら、悪の帝王の如く椅子のついた輿に座って住民に君臨してた。
レンが自分の領地に行ったところ、ビースト種の住民が直訴してきた。
妖精さんが調べたところ複数の惑星で奴隷売買が発覚。
レンさん、ブチ切れて敵組織に殴り込み。
敵組織をシンジケートとしようか。
レンの殴り込みによってシンジケート関係者を逮捕。
証拠もどっさり入手した。
シンジケートは横の繋がりが密だったらしい。
一つの支部が潰されたことで、複数の惑星でシンジケートに関わった地方貴族が武装蜂起した。
刑務所行きたくないもん蜂起である。
もうめちゃくちゃだよ！
レンはビースト種を率いて敵を殲滅。
ビースト種の大王と崇められたのであった。
……半分はノリと冗談だと思うけどね。
士官学校の他の連中も同じだ。
各々がシンジケートとの戦闘になったのである。
つうか公爵会……領地の治安維持すらできなかったんかい！
それでカミシロ一門リーダーである俺が助太刀しに行ったわけだ。
そこで見たのが大王になったレンである。
もうね、嫁ちゃんと指さしてゲラ笑い。
レンは恥ずかしがってたけど最高に笑った。
そのあと逃げてきたエディたちと合流。
ビースト種の皆さんを連れて惑星アンハイムの悪党をボコボコにした。
逃げたと思ったら即日リベンジに来るとは敵も思わなかったらしい。
甘いな。
俺たちは島津時間で動くのだ。
他の惑星の連中も逃げてきたり、レンみたいに住民を率いて戦ったりした。
俺たちは片っ端から敵をボコボコにしたのである。
なお敵が一番恐れたのは俺ではなく、ケビンとニーナさんのコンビである。
ほら、あいつら基地ごとぺんぺん草も残らないほどの超高火力で焼き払うから……。
俺やエディはタイマン特化型だからね。
というわけで逮捕者多数。
シンジケートは崩壊したのである……って言えればよかったよね。
ここからが問題なのだ。
敵の本拠地が発覚したのがつい二日前。
惑星レディグレイ。
レディグレイって誰よって思うだろ？
ケビンの領地だ。
コロニー生まれのケビンには名字がない。
制度的に差別されてるんじゃなくて、多くのコロニー民は指名手配された犯罪者なので名字を名乗らない。
そして代を重ねるごとに名字が忘れられたという理由である。
で、たまたま惑星の方に前領主の家名がついていたので、ケビンはレディグレイ伯爵になったわけである。
ここで矛盾が発生する。
惑星レディグレイは無人の開拓地のはずだ。
そもそも前領主はなにしてたって話だ。
実は前領主は行方をくらませていた。
その答え合わせだった。
そう、惑星レディグレイは無人の惑星なんかじゃなかった。
奴隷売買の本拠地だったのだ。
ケビンは女子になったおっさんとその家族を引き連れて惑星に降り立った。
すると空からの偵察を避けるように崖に設置された砦を発見してしまった。
そこから出てきたのはシンジケートの人型戦闘機軍団。
充分な武器を持ってなかったケビンは入植者を助けながら奮戦。（ケビンのドローン軍団は場所を取るため最低限しか持っていけなかった）
なんとか脱出した。
で、体勢を立て直したところでリベンジしに来たのである。
「婿殿！ 惑星レディグレイに到着するぞ！」
嫁ちゃんが教えてくれた。
俺は戦闘服を着用してた。
俺の後ろにはカミシロ一門が勢揃いしてた。
「ケビンいじめた連中にお仕置きしよう。なあ、みんな！！！」
「うおおおおおおおおおおお！」
「敵も哀れな……銀河で一番敵に回してはならぬ連中を怒らせおって……」
なおカミシロ一門に新しい仲間が加わった。
ビースト種の皆様である。
「大王様！ ご命令を！！！」
犬耳のでかい兄ちゃんが吠えた。
レンは恥ずかしそうな顔で輿の上に座ってる。
俺をちらっと見る。
「レン、やろうぜ！！！」
元気にそう返すとレンは覚悟を決めた。
「ビースト種の戦士たちよ！ 我に続け！！！」
顔真っ赤。
さすがに俺に見られるのは恥ずかしいようだ。
「うおおおおおおおおおおお！」
ビースト種の皆さんはやる気に満ちあふれてた。
そもそもビースト種は原生危険生物との戦闘用の改造人間である。
クロレラ処置が開拓用。
ビースト種が戦闘用だ。
ただ見た目がたいへんよろしいため人身売買の被害に遭いやすい。
また知能が低いという偏見も根強い。
「守ってあげなきゃ！」って親子を引き離す斜め上方向に意識の高い団体もあるのが実情である。
どこでも余計なことしかできないやつはいるものである。
その斜め上の団体に交じって暗躍してたのがシンジケートと。
そりゃ戦闘種もやる気になるわ。
ライフルと鉈を持って吠えまくってる。
うん、悪いことをすると必ず自分に跳ね返ってくる。
カワゴン理解した。
ケビンとＴＳ軍団もやる気である。
せっかく手に入れた自分たちの土地を取り戻す。
これ以上の正当性はないだろう。
「行くぜレオ」
エディが拳を出してきた。
俺も拳を出して合わせる。
「頼むぜ副長」
「え？ 副長！？ おい、レオ聞いてねえぞ！？」
「今決めた」
「おいレオ！ 勘弁してくれよ！」
「だーめーでーすー」
さあ、リベンジ開始。
俺は殺戮の夜に乗り込んだ。
エディも殺戮の夜のオールラウンダー型カスタム機だ。
あいつ、何やらせても強いんだよな。
教科書通りの基本戦術を超高速かつ超高精度でやっちゃうタイプ。
期待してるからね！
