第二百二話
ブス決定戦。
あれは地獄みたいな話だった。
たしか、レオが資格の講習に行ってたときだな。
あいつ今でも俺たちに仲間外れにされてると思ってるようだ。
だけど真相は違う。
レオは資格の講習でいなかっただけだ。
オメエは休みがあれば資格講習に行ってるだろが!
俺たちが雑談してるときも資格の勉強してただろが!
誘わないんじゃねえよ! いねえんだよ!
俺はそのとき「メリッサブスじゃね?」というクソみたいな意見に反論した。
あいつは個々のパーツは整ってる。
目力が強すぎるのに化粧しないから残念に見えるって主張したわけだ。
そしたら他の連中が「お前メリッサ好きなの?」言い出しやがった。
つき合ってられん。
メリッサはいいやつだが、彼女に恋愛感情を持ったことはない。
それはそれ、これはこれ。
「アホか!」って言ったら「じゃあメリッサよりブス決めようぜ!」って言いだした。
「勝手にやってろバカ!!!」
俺は怒って部屋に帰った。
普段はいいやつらなんだが……調子に乗りすぎる。
その日も少し調子にのっただけだと思ってた。
だけど……。
数日後、俺が主催者ってことになってた。
たしかに発端は俺だが! 主催者じゃねえだろ!
そして俺は女子に嫌われたのである……なんたる理不尽!!!
なんか涙が出てきた。
でも生き残らないと。
「渡辺さん。すぐに追手が来ると思うんで、俺たちは出て行ったって素直に言ってください」
「ですが……お館様が!」
「それと……あなたは?」
軍服の御座るに俺は聞く。
顔デカいな。
「拙者、アンハイム伯爵騎士団団長の末松で御座ります!」
前領主というか代官の騎士か。
勝手に俺の騎士団の団長名乗ってるけど仲間かわからんな……。
「えっと、追手側に合流したいならどうぞ」
「我が一族は常に勝ち馬に乗って繁栄した一族に御座る! このたびのクーデターもお館様が勝利すると確信しております!!!」
ここまで清々しいと逆に疑う部分がない。
向こうのスパイってことはないだろう。
「わかりました。ついてきてください。ミネルバさんもよろしく」
「は!」
戦闘服に着替えて光学迷彩起動。
ヘルメットも持ってきてよかった。
ミネルバさんも一応戦闘服持ってきてくれてた。
末松は公爵軍の戦闘服だった。
一世代前だけど機能はあまり変わらん。
代官屋敷にあったアサルトライフルを持っていく。
武器はこいつと念のため持ってきた拳銃だ。
「では車で……」
ミネルバがそう言ったので止める。
「ちょっと待ってください。自動運転解除しますんで」
「オートアシスト車なんで解除できないタイプです」
セミオートとフルオートを切り替えられるタイプの自動車だ。
セミオートでも運転アシストがついている。
ここをハッキングされてると事故って暗殺成功ってわけだ。
「問題ないです。ルナ様、聞こえてますか? ハッキングが怖いんで自動運転解除してください」
「了解です。はい、できましたよ!」
「ありがとうございます!」
「では拙者が運転を。マニュアル車の免許持ってますからな」
末松が運転してくれる。
うっわー、信用できない人間に命をまかせるという。
でも末松は自分の命最優先だろうから無茶はしないだろう。
スパイすらもしないだろうな。
「宇宙港に向かってください」
「は!」
車に乗り込んだところでレンに通信が繋がった。
「エディ? 生きてる!?」
「ああ、そっちはどう?」
すると後ろで怒鳴り声がする。
「ヒャッハー!!! 公爵どもの残党は焼却だああああああああああッ!」
「わおーんッ!!! 弾幕少ねえぞ!!!」
「がうがうがう!!! 俺たちの惑星を守るぞおおおおおおおおッ!!! レン様バンザーイ!!!」
ビースト種特有の遠吠えと爆音が響く。
「……こんな感じね!」
理解した。
「了解。こっちは仲間が少ないからそっちに逃げるわ」
「うん、わかった! 宇宙港取り戻すから……えっと半日くらい待ってて」
向こうは向こうでたいへんみたいだ。
半日か……時間が余るな。
「レンのところは宇宙港が押さえられてしまったみたいです。奪還に半日かかるそうで……その間、戦わないと。末松さん、どこかで人型戦闘機手に入れられませんか?」
「騎士団の駐屯地に御座りますが……古い機体ですぞ」
「マニュアル機ですか?」
「左様で御座ります」
「ならちょうどいい」
現在隊で使ってる機体はマニュアル機だ。
そもそも現代風のUIにしてるが500年前の機体をベースにしてる。
古さは関係ない。
むしろ古いマニュアル機なら最新の標準機より応答速度が速いはずだ。
騎士団の駐屯地はすぐ近くにあった。
末松が物理錠を鍵で開けて中に入る。
すると若い騎士がいた。
「末松団長! どこ行ってたんですか! 武装蜂起ですよ! 今すぐ逃げましょう!」
ムカつくけど判断が速い。
優秀だな……。
「逃げぬ。なぜならここに御座すお方こそ! かの英雄レオ・カミシロの右腕と言われた漢! アンハイム伯爵なるぞ!!!」
初耳である。
俺はレオの嫁たちの下くらいだぞ。
右腕どころか足の爪くらいの立ち位置だ。
でも若い騎士は俺に憧れの視線をぶつけてくる。
無視しよう。
「な、なら!」
「お館様はここの人型戦闘機で出撃されるとのこと! さあ我らも共に行くぞ!!!」
ミネルバを見る。
「ミネルバさん。君は安全な場所にいてくれ」
「少尉御一緒いたします」
嘘だろ。
勝てるかどうかもわからん時間稼ぎミッションだぞ!
バッドエンド確定ルートだぞ!
「伯爵様ばんざーい!!!」
なぜか末松が万歳してた。
もうどうなっても知らねえ。
末松に案内された倉庫にあった人型戦闘機を作動する。
赤い機体か。
白の方がステルス性能高くないかなとか不満点はあるが目をつぶろう。
パルスライフルに剣か。
標準装備だ。
「反乱軍がやって来ました!」
ミネルバがそう言ったのと同時に発進する。
まずは5体ね。
横殴りの雪の中、先頭の機体に肉薄する。
「騎士団機か! 所属を名乗……」
問答無用で斬りつける。
「無礼者が。俺がアンハイム伯爵だ!」
と言った瞬間、俺は斬りつけた相手を盾にする。
レオ・カミシロ直伝の喧嘩殺法だ。
容赦ない銃撃が盾にした機体に浴びせられた。
仲間意識皆無の集団ね。
銃撃が止んだ瞬間、俺は蜂の巣になった機体を蹴飛ばし、斬りかかってきた機体にぶつける。
ぶつかってよろけた敵を斬りつけた俺は外部スピーカーで怒鳴る。
「死にたいやつからかかって来い!!!」
吹雪の中、俺の声は不思議と響いた。




