第二十話
ケビンが俺に銃口を向けている。
拳銃型光線兵器。
ようするにビームハンドガンだ。
ゾークの外殻には効果はないが、人間には効果絶大。
実弾兵器との威力の差も激しいが、実弾兵器が廃れた最大の理由は弾持ちの良さと重量だ。
ワンカードリッジで千発以上使え重さは10分の1。
連射性能は高く軽機関銃を超える。
宇宙空間でも使える。
対人間なら圧倒的に強い兵器だ。
剣も槍もチェーンソーもジャイアントスイングも本来ならいらないのだ。
ジャイアントスイング一発で足がねじ切れるとか本当にあり得ない。
そんなクソみたいな現実が終わったと思ったらこれだよ!!!
俺が何したって言うんだよ!!!
あ。思い当たりあったわ。
「……すまん。お前がメリッサに片思いしてたなんて」
「違う。バカ」
「……え? クレア? クレアはまだなんのフラグも立ってないぞ。ただ俺の人権が蹂躙されまくってるのにイラッとして俺を盗る宣言しただけで」
「だから違うって言ってるだろ!!!」
「嫁ちゃんだけは殺されても渡さんぞ!!! 籍はちゃんと入ってるからな!!! 貴様ら圧制者は我らから嫁まで奪うのか!!!」
「ちょっと黙ってて!!!」
「お、おう」
「レオくん、ジェスターについてどこまで知ってる?」
「過大評価されてるけど、実際はクソ能力しかないハズレ異能」
「はは。ゾークたちの間じゃ伝説の死神なのにね。じゃあ、ジェスターがどうやって生まれたか知ってる?」
「は? 超低確率で生まれるって聞いたが」
「あはは。じゃあその因子はどこから来たか知ってるかい?」
「はい?」
因子もクソももともと人間が持っている遺伝子だろ?
「ジェスターは500年前にあったゾークとの戦争で人間側が作った生物兵器だよ。強化人間ってやつだね」
強化人間なんて言うと恐ろしいものに思えるが、五百年後の現在では珍しくない。
俺だって虫歯菌の除去と一緒に歯の大きさを変更したり、風土病対策に、一族に多い疾患も遺伝子レベルで出ないようにしている。
テラフォーミングが難しい過酷な惑星の労働者なら葉緑体を細胞に埋め込んだりもする。
ケビンだって住んでいる惑星の風土病対策くらいはしているはずだ。
「強化人間なんて珍しくないだろ? 500年前の基準なら俺たちは強化人間のはずだ」
「あはは。おめでたいなあ。500年前の帝国は今の劣化した帝国とは違う! 人為的に超能力者を生産できるレベルの文明だよ! いいから聞きなよ。我らゾークと人類は500年前に戦争になった。人類は超能力者を作り出した。その最高傑作の一つがジェスターだよ!」
「賢者になれるからか?」
「それもある。賢者に至るためには試練を受けねばならないが、ジェスターだけはそうじゃない。だけどジェスターが恐ろしいのはそこじゃない。ブレーキが壊れてるんだよ。ゾークに恐怖を感じない」
ないない。
「バリバリビビリ散らかしてますが!?」
なに言ってんの?
俺がどんだけ股間を濡らす寸前で我慢したか……。
「お前は俺の尿意との戦いを知らない!!!」
「わけのわからないポイントでキレるな!」
「だいたいさあ、我々ゾークってなんだよ!? どう見てもお前は人間だろ」
「人類はジェスターという頭のおかしい生き物を作った。ジェスターは我々を恐れず、一緒に戦うものもまた恐怖を忘れた。そこで我々ゾークは思いついた。人類にスパイを紛れ込ませることを。そこで人間をさらってきてゾークの因子を備えた人間を作った。それが僕たちの一族だ」
「つまりケビンはゾーク?」
「ああ」
「……いつからゾークの手下だったんだ? そんな地下組織が存在しててもすぐに発覚するだろ」
だいたい思想の類いは厳重に監視されてる。
異星人を崇めてるグループなんてすぐに監視対象だ。
「人間型ゾークは思春期に低確率で任務を思い出すようにプログラムされてる。僕が任務を思い出したのも数カ月前だ」
「は? なにその死ぬほど効率の悪い方法!? 権力者買収して寝返らせた方が楽じゃん」
あり得ないほど気が長い方法だ。
運の要素が大きすぎる。
賭けにすらなっていない。
「それすら当時のゾークにはわからなかったのさ。だからゾークは地底に潜り、人間社会を学習することにした。その間我々は人間社会を学習した。なあに時間なんていくらでもある。人間と違ってね」
「それで。俺に何の用? すぐに殺さないってことはなんか用があるんだろ」
「ああ、どうしても聞きたくてね。どうして子をなせないはずのジェスターが先祖返りなんてしてるんだい?」
「それこそ知らねえよ。そもそも俺は超能力検査で陰性って出てるんだ。いきなり超能力者ですって言われてもなんも知らんわけよ」
「は、それじゃあ……この惑星を破壊するしかないね。君は危険だ。たしかに君は士官学校で首席だったが、その実力は上の下。家柄も考慮して文句こそ出ないが、陰で反感を買ってたはずだよ。それがいまや近衛隊と比べても遜色ない……いや異常なほどの強さだ。まさかタイタン型をプロレス技で放り投げるなんてね」
あらためてケビンが銃を向けた。
だが残念だったな!
視線を少しでも外した貴様の運の悪さを呪うのだな!!!
「オラァッ!!!」
俺は地面を思いっきり蹴った。
荒野の砂塵が舞い上がり目に襲いかかった。
目つぶしである。
俺はそのまま出口に滑り込む……うごふッ!!!
脇腹を熱いものが駆け抜けた。
撃たれた!
「動くな!!!」
「いやでごわす!!!」
ぶしゃっと口から血が出た。
あかん消化器のどこかまで傷ついてる!
でもまだ動ける!
脳内麻薬かなんかわからんけどもう少しだけ体を動かして!!!
俺は宴会してる会場に走った。
テーブルが見えた。
頭から突っ込む。
もはや避けるだけの体力も判断力もない。
「お、おい! レオどうした……撃たれてる!!!」
「さ、最後に嫁に伝えてくれ……お前は最高にえっちだと」
「そんなん伝えたら処刑されるわい!!! 皇女様! 近衛のおっさん! レオが撃たれた!!!」
「お、おい! 婿殿!!!」
嫁の声が聞こえた。
正直、俺さー、足撃たれて死ぬ軍師キャラじゃないと思うのよ。
あと正直な言葉を……嫁に。
クズな俺を支えてくれてありがとうって。
え?
不死身?
誰が?




