第二話
「へいへーい、艦長です。今日は【謎の宇宙生物と戦ってみた】をお送りしまーす」
いえーい。
あと数分で死ぬんだけど。
よーし、史上最悪の配信やっちゃうぞー!!!
まずはストロベリートークから。
「みんな俺の事が嫌いだろう。侯爵家の権力笠に着てそこそこの成績なのに首席になってさ。おかげで艦長だぜ! 奨学金勢は俺を殺したいと思ったヤツも多いだろう。でも残念だったな!!! 首席になったおかげで死ぬのは俺だぜー!!! うぇーい!!!」
艦の外壁が破られ軋んだ音がした。
間もなく中に侵入される。
このときのために案があった。
AからCまで三つも考えたぞ! 凄いだろ!
「へいへーい。重機に乗るぜー!」
プランAはゾークと戦う。
正直、チビリそうだがこれを逃したらマジでただのモブで終わる。
それにみんなを逃がしてやりたい。
これは心の底からの願いだ。
そこで用意したのは船外工作実習のための人型重機。
全長4メートルもないだろう。
乗り込む系のロボットで操縦席が防弾クリスタルに覆われた非戦闘用のものだ。
船体の修理や機雷除去実習用に戦艦に配備されている。
比較的新しい機種のようでバッテリー式だ。
50年前の型だと有線ケーブル式だったところだ。それだと終わってたわ。
高性能なドローンがあるのに人の手が必要なのはハッキングやEMPによる電子機器破壊対策である。
大きい機体の方がどうしても頑丈なのだ。
そして大きな機材を動かす場合、自動AIよりも人間の方が安い。
ひでえ話だ。
俺は生体認証で操縦スペースを開け重機に乗り込む。
ほぼ剥き出しの狭い操縦スペースに立つと自動で安全帯が装着される。
操縦席が閉まって各種計器が表示されたカメラ映像が表示される。
さすがにこの知識だけ忘れてるとかはないだろう。
シミュレーションは得意だった設定だ。
各種センサー、正常。
すると甲高い動作音が操縦席に響いた。
予備起動正常終了。
戦闘用じゃないからローラーダッシュは搭載されてない、か。
残念。一度ローラーダッシュ使ってみたかった。
武器は船外作業用のショックハンマー。
宇宙空間でも使える謎火薬式。
船の外壁の修理や各種工作用。
爆発で威力をアシストするタイプのものだ。
それとプラズマ銃……と見せかけたスポット溶接機。
まあ、ほぼ同じ物だ。
俺は戦艦のイベントリを確認する。
脱出艇。全機出発済み。
俺の分は数に入れないでな。
ドローン配備完了。
おしおし。
気になるのは俺の配信を見ている人数。
……おかしいな。数十億人規模なのだが?
うーんバグだな。
気にするのやめよっと。
「ぐははははー!!! 殺せなくて残念だったな諸君! その代わりにこのタイミングだから素直に語ろうと思う。恥を置いてってやるぜ!!! 俺の葬式でバカ話に花を咲かせてくれ。みんなの前じゃいつもイライラして暗い態度でいたけど、本当はそういう湿っぽいのは好きじゃないんだ。でもさー、素を出すと怒られんだよ。家族に。ところでさ、B組の沖田めぐみ、かわいくね? 鶏ガラ女とか言われてたけど浮き上がったアバラとかドエロくね?」
だんだんと俺の中でレオと自分の記憶が混じり合うのがわかった。
徐々に一つの存在として統合していくのだろう。
レオは親の圧力で嫌なヤツでいなければならなかったクチだ。
小さなころから侯爵家の権威がどうたらって教育されりゃ人格も歪む。
なお、すんげえムッツリスケベ。
偉そうに「お前ら平民とは違うのだよ!!!」とか言いながら、性癖を歪めまくったムッツリモンスターだ。 クラスの女子全員をエロい目で見てる。
特にアイドル系の美少女じゃなくて地味だったりブスとバカにされてる子を中心にな!
貴様とは美味い酒が飲めそうだよ!!!
だけど30代独身彼女が勤務先の社長にNTRる妄想だけは共有できそうにない。
あと友だちの母親シリーズ。
でも友よ……貴様の性癖は尊重してやろう。
「そもそも俺、友だちいないじゃん!!! ギャハー!!!」
おっと声に出してた。
失言から間髪入れず宇宙艦の壁が破られた。
壁の穴から悠然とゾークが姿を現す。
【酸素濃度低下。隔壁を降ろします】
艦内の空気が漏れ出し、警告とともに隔壁が降りる。
だけど隔壁程度じゃゾークを止めることはできない。
ガッ、ガッ、という音とともに隔壁がひしゃげる。
もうすぐそこまで、ブリッジに近くにまでゾークがやって来ていた。
だから俺はヤケになって俺は叫ぶ。
「同じクラスのニーナ! お前、【わたし太ってるからモテないから……】って言ってるけど、クラスの大半はお前を性的に見てるからな!!! もちろん俺もだ!!! みんなお前のことが大好きだー!!!」
余ったお肉万歳!!!
叫び終わった瞬間、隔壁が破られた音が響いた。
勢いよく空気が漏れる。
ぬうっと巨大なカニが姿を現す。
「キシャアアアアアアアッ!」
空気ねえのにどこから声出してんだよ!!!
くそ怖えええええええッ!
リアルだとクソ怖えええええええッ!
ヤケになって俺は雄叫びを上げる。
「うおおおおおおおおおおお!」
仮想現実での白兵戦は何度もやった。
目の前のカニは白兵戦用ゾーク丁種。
要するに雑魚だ。
筋力アシストのついた海兵隊戦闘服なら鼻歌交じりに……。
まだ開発されてねえ!!!
その代わり爆発アシストのこのハンマーで!!!
俺は振り被る。
「キシャアアアアアアアッ!!!」
カニのハサミが俺めがけて振り下ろされた。
ゲームと同じ動きだ。
俺は向かってくるハサミにハンマーを振り下ろす。
インパクトアシスト機能で何倍にもなった衝撃がカニのハサミを襲う。
当たった瞬間、ズドンと音がして関節部分からハサミがもげた。
作業用のゴーグルつけてないから目がチカチカする。
戦闘じゃ視界を広くしたいからつけなかったけど痛いくらい眩しい。
俺は今度はハンマーを胴体めがけてぶちかます。
「おらああああああああッ!!!」
ズドン!
火薬による衝撃ブーストで手が痺れ、轟音で耳がいかれる。
無反動用の火薬が黒い煙を出した。
火花が俺の顔を焼き小さな火傷を作る。
やっぱやめときゃよかったと後悔するのと同時に胴体部分の殻が砕けた。
俺は即座に溶接機を抜き、砕けた殻に突っ込む。
「死ね!!!」
何度も引き金を引いた。
肉の焼けるにおいがする。
筋肉部分をズタズタにされたゾークが倒れた。
くそ、目が痛い。
「はあ、はあ、はあ……うおおおおおおお!!! おしゃー!!! 勝ったぞ!!! 見とけよ!」
生まれて初めて喧嘩に勝ったぞ!!!
俺は殻の無事な部分を持参した光線式拳銃で撃った。
案の定、光線が弾かれる。
だからスポット溶接機使ってたんだけどね。
あっちの方が出力大きいからな。
「光線兵器は効かない。実弾兵器か近接で装甲ぶち抜くしかない。次は実弾の配備を要求する。ま、そのころにゃ俺はいねえだろうけど」
当初人類はゾークとの戦いに連戦連敗だったとゲームの資料にはある。
標準兵器がまったく効果なかったからだ。
その結果、いくつかの惑星をあきらめ、数多の貴族が家系を断絶することになった。
その地獄のような状況で編み出されたのが、標準戦略であるハンマー特攻である。
今は近接戦やりたい運営が無理矢理入れた設定だと思う。
許さねえぞ!!! クソ開発者!!!
歴史は変わるだろうが……もうどうでもいいや。
どうせ俺ここで死ぬんだし。
ヘルメットの端末で警備ドローンを確認する。
もう半分以下になっていた。
やはり役に立たない。
装備が光線兵器だしな。
よーしプランBだ。
「ドローン、自爆モードに移行。敵性生物を見かけ次第自爆せよ!」
爆音でキンキンしながら俺は怒鳴った。
【自爆モードに移行しました】
あちこちで爆発音が響く。
とはいえ、宇宙空間を生身で泳いでくる頭おかしい生物にどこまで効果あるのか……。
殻をぶち壊すための専用爆弾じゃねえしな。
まだ序盤の前、プロローグのさらに前だ。
物理兵器耐性のある新型ゾークじゃない。
まだこの手は有効だ。
足止め目的だったらだけどな。
ま、同級生を逃がせれば俺の勝ちなのである。
よーし、がんばっちゃうぞ!
にしても……耳が完全にいかれてる。
キンキン鳴りっぱなしだ。
一匹始末しただけでこのダメージよ。
「話を続けようか。C組のエレナ・サトー!!! お前、ブスだからって言ってるけど、お前化粧映えする顔だからな!!! 自信持て!!!」
そばかす三白眼大好きじゃああああああああッ!!!
ゾークが通路からやって来るのが見えた。
通路の幅の狭くてつっかえている。
バカめ!!!
学生の実習船をなめるなよ!!!
しかも公立校!!!
たとえ侯爵家の長男が乗っていようとも、ない袖は振れぬ。
狭くて小さい旧型なのだよ!!!
俺は溶接機で消火器を射った。
周囲に白い粉がまき散らされる。
一瞬ゾークの群れの動きが止まる。
俺は船内ドックに逃げ込んで隔壁を降ろした。
エンディングが近くなってきやがったぜ!!!
人生最後の花火打ち上げるぜ!!!