第百九十四話
お姉のメイクの話は一瞬で女子たちの間に広まった。
だってさ……嫁ちゃん、クレア、レン、メリッサのできあがりを見たもの。
さらに京子ちゃんの完成形を見た女子たちは黄色い悲鳴をあげた。
バックヤードの女子の中でも京子ちゃんは地味子中の地味子と見られていた。
野郎どものブス決定戦には激怒した女子たちだが、女子たちの中のヒエラルキー合戦は俺たち野郎どもが想像してる数倍は激しい。
そこを良くも悪くもかき回してる元凶は……まさに俺である。
メリッサなんて最低ランクからSランクに成り上がったもんな。
俺とつき合うと美人になる説までぶち上げられているほどだ。
でも俺の嫁ちゃんは皇帝。
さらにレンは公爵家当主の姉だし、メリッサパパは公安の幹部、クレアの実家がやってる会社は俺たちの流通を握ってる。
クレアの家が卸売りに参入してくれたおかげで俺たちは借金なしで領主生活を始められたのだ。
そうじゃなかったら公爵家の息のかかった銀行や商社の奴隷になっていた可能性が……。
資本主義怖い!
嫁ちゃんが気づく前にクレアさん……いやクレア様が蹴散らしてくれたおかげで俺たちはのんびりしてられる。
銀行も商社も中立のところを紹介してくれたもん。
頭が上がらない。
というわけで俺の嫁たちは女子の中でも別格扱いである。
もともと好かれてたしね。
だから女子たちは空気を読んだ。
女子たちは俺へのアタックや嫁たちへの攻撃などせず、お姉を紹介してくれと真正面から頼みこんだ。
嫁ちゃんは断る理由もないので了承。
こうしてお姉の仕事は増えていったのである。
その分の料金を嫁ちゃんがお褒めの言葉とともに色つけて払ったので向こうの会社も喜んでくれた。
皇帝の権威があると何やるんでも違うもんね。
俺たちはまだ権威の使い方がわからない。精進せねば。
一週間ほどして俺たちは帝都に移動。
ここから嫁ちゃんが儀式をするための準備に入る。
俺はニコニコしながら手を振る役目だ。
で、俺の方も予定が詰まってる。
まずは……。
「レオ・カミシロ! 少佐に任命する!」
「は!」
軍の総本部に呼び出されてこれ。
メディアまでいる。
大尉になったときは任命式も省略されたのに。
10代で軍という大きな組織の部長か……。
ギャグ漫画の世界だな……。
で、パシャパシャ写真撮られて、次に行くのは宮殿。
「レオ・カミシロ! 貴殿を大公に列する!」
嫁ちゃんとトマスの前で膝をついた状態で宣言された。
【列する】ときたもんよ。
つまり皇室の仲間よって意味。
つまりカミシロ家は皇室の親戚になったわけである。
今までも俺は皇女の婿だったんだけど、カミシロ家が正式に皇室の親戚扱いというわけである。
それは恐ろしい効果を生んだ。
サム兄が言ってたんだけど、実家の惑星の土地価格が100倍になった。
それまでが安すぎたんだけど、いきなり実家の資産が100倍である。
意味がわからなすぎて怖い。
カミシロ本家の方もそうだ。
移住希望者が多すぎて軽くパニックが起きている。
だって上から取ったら高度人材だらけなんだもん!!!
大学の教授とか実業家、官僚は……俺が滅ぼしたからあんまりいないけど、とにかく偉い人とその家族が多い。
なんだか恐ろしい話になってきた。
うん、俺は考えないでおこう。
金持ちだけの村なんてうまくいくはずないよねー。
帝都では前に宿泊したホテルを使う。
嫁ちゃんは後宮に宿泊してる。
たいへん不謹慎ではあるが、みんな修学旅行気分である。
だって前回観光できなかったもん。
カミシロ本家みたいな常夏の南国リゾートも楽しいけど、都会は別腹なのだ。
話は少しさかのぼる。
宇宙港についた瞬間から売店周りがはじまった。
よくわからん味の微妙なクッキーやら、味の微妙なチョコやら、味の微妙なせんべいやら……。
ワンオーワンがキラキラした目でこちらを見てる。
タチアナも悪い顔でこちらを見てる。
「ほしい?」
「ほしいであります!!!」
「ちゃんと仲良く分けろよ」
「うわーい!!!」
二人に味が微妙なお菓子を買ってやる。
すると二人とも俺についてきた。
どこの名産だかわからないソフトクリームが……。
キラキラキラ!
「ほしい?」
「ほしいであります!!!」
「もーしかたないにゃー」
餌付けしてるとクレアさんに襟をつかまれる。
「ほら! 甘やかさない! 二人ともそれでおしまいよ!」
「ふえーん」
最後に鯛焼きだけ買ってやって終了。
クレアの食べ歩き分も買って、他の嫁たちにはお徳用パックを買っておく。
あとタチアナとワンオーワンには修学旅行生が好きそうな木刀も買った。
「木刀であります!」
「ふおおおおおお!」
「ここで暴れたら没収するからな」
「しないであります!!!」
で、バスで移動してホテルへ。
嫁ちゃんは別行動で後宮へ。
ここでもみんな好き放題やっている。
外のチェーン店のカフェで観光ガイドを広げ、あーでもないこーでもないと議論している。
タチアナとワンオーワンはなぜか俺にひっついてる。
なんだろうね。
「どうしたん? みんなのところ行かなくていいのか?」
「あのであります!!! 自分は遊園地というものに行ってみたいであります!!!」
「営業再開したん?」
「これであります!!!」
タチアナとワンオーワンがニュースを見せてきた。
ほう、先月から再開。
場所は……近いな。
鉄道で行ける。
「うーんと、ちょっと待ってね。嫁ちゃんに連絡するから」
嫁ちゃんに連絡と。
「なんじゃ?」
「タチアナとワンオーワンが遊園地行きたいって」
「うむ、妾も行ったことないのう……うむ、わかった」
数十分後、貸し切りの連絡が入ったのだった……。
なんと嫁ちゃんも修学旅行気分であった。
帝都は後宮しか知らないだろう。
誰が責められようか……。
こうして完全に修学旅行と化した俺たちのバカンスがはじまったのだ。
南国リゾートで仕事ばかりしてた反動がやってきてしまった……。




