第百九十三話
嫁ちゃんの即位の儀式が決まった。
なんか長すぎて正式名称が頭からすり抜けていく。
これで皇帝に就任する。
これで基本、帝都にいることになるが……。
「うん? 妾の家はここぞ」
嫁ちゃんは前に買ったマンションとカミシロ本家邸が家という認識のようだ。
マンションは皇帝陛下の家というには格が落ちるが皇帝の私有財産のため売却もできないようだ。(俺には理解できん)
ここから公務するんだって。
いいのぉ?
後宮から出てこず公務もしなかった麻呂という前例があるから大丈夫だって。
あれより最低になりようがない。
さてそんな俺だが、現在衣装の作成をしている。
軍の礼服じゃダメなんだって。
宮中の麻呂衣装とタキシードが必要なんだって。
「あらー大公様♪ スタイルがいいから似合いますねー♪」
マッチョなお姉、ただし普通のスーツを着たイケメンに体のサイズを測ってもらう。
庶民……というか底辺侯爵家程度では存在を知ることすらできない本物の上流階級御用達のテーラーとのことだ。
高級ブランドみたいに有名な賞を取ったり、ファッションショーになんか出てこないけど、銀河を牛耳ってる実力者はみんなここの衣装を着るというレベル。
しかも一回着たら廃棄なんだって。
なに言ってるかわからねえ。
嫁ちゃんのオーダーメイドのドレスも一回で終わり。
その無駄を考えただけで憤死しそうだ。考えるのやめとこ。
ここで測ったサイズを皇室御用達の伝統衣装の工房と共有して服を作る。
伝統衣装の方はデザインは選べない。
なおこっちは一回着たら皇室博物館送りになる。
まだこちらの方が理解の範疇ではある。
もうね、準備だけでアホみたいに時間がかかる。
当事者にならなければ知らないで一生を終えただろう。
カニの餌になっただろうし。
そう考えるとずいぶん遠くへきたもんだと思う。
一人で納得してると着物を着用したタチアナがやって来た。
「なんでアタシも参加なんだよ!!!」
髪をお団子にしてる。
あら似合う。
胸がぺったんこだからか?
「俺の隊は全員参加な。警備じゃなくて嫁ちゃんの家来の扱いな」
「タチアナここでありますか!」
今度はドレス姿のワンオーワンがやって来た。
こっちも似合うな。
「あら、かわいい」
「ありがとうであります! えへへへへー」
喜んでくるくる回る。
やだ天使。
「コラー! 二人とも!」
そしてクレアさん。
和服似合うわー。
「ワン子ちゃんは和服の試着しなさい」
「はいなのだー! タチアナ行くであります!」
「あ、待て。アタシは参加したくねえ……うお引っ張るな!」
クレアさんが残った。
「あの……その……たいへん似合ってます」
「あ、ありがとうございます」
なんか照れるな。
「あー、ヴェロニカちゃんに言いつけてやろ」
ドレスのメリッサがやって来た。
すっげ! モデルみたい!
「たいへんお似合いで。モデルでいけますぜ姐御」
「あははは! ほめろほめろ!!!」
ぐははははは!
嫉妬しろ男子ども!
貴様らが一時のジョークで失ったのが女子の信用なのだよ!!!
あれが勝ち誇ってると、テーラーのお姉が来た。
「あらー、さ、大公様。女子の方に行ってたくさんほめてあげてくださいな」
このお姉……気遣いの人だ……。
マネできる気がしない……。
俺は自分のことだけ考えてた。
モテの心の師匠として崇めておこう。
「じゃ、頼みます」
「はーい。さー、みんな休憩するわよ~」
女子の方に行くと伝統衣装の嫁ちゃんがいた。
さすがに着慣れている。
「よ、婿殿。どうした」
「みんなをほめに来た。嫁ちゃん、きゃわいいねー!」
「ほめろほめろ! なんたって……」
「宇宙一のいい女!」
ハイタッチ。
レンとケビンもドレス姿だ。
「レンかわいいぜ!」
「ありがとうございます!」
ケビンには肩を叩く。
「かわいいとほめるか……同情するか……どっちがいい?」
「どっちもやめて! 自分でもどうしたらいいかわからないんだから!」
「ですよねー」
ハッキリ断言するが、もの凄く似合ってる。
だがそれを言うべきかは別である。
ドレスのニーナさんと京子ちゃんがやってきた。
「ニーナさん、いつも素晴らしい」
「あらありがとう!」
この圧倒的母性! オーラよ!
まんまーおぎゃー!
京子ちゃんは少し不満げだった。
「どうしたん?」
「私は地味で似合わないので」
和服の方は似合いそうな気がするけどな。
「メイクで変わるんじゃない? ねー、テーラーのお姉に見せたらいけそうな気がしない?」
なぜかみんな無言で俺を見た。
なによ?
なぜかメリッサが真顔で聞いてくる。
「それジェスターの勘?」
「ジェスターかはわからないけど勘だよ……ってなによ?」
みんな無言で俺を見てる。
ホントなによ?
「あーらー、大公様どうされたんですか?」
「お姉さん、この子のメイクお願いしていい?」
「まー! 大公様! 【お姉さん】なんて! もうアタシがんばっちゃう!!!」
京子ちゃんはスーツを着こなしたマッチョで髭の生えた【お姉さん】に連れて行かれる。
やはり俺の勘は正しかった。
元に戻してなんて声が上がらない方向で美しくしてきた。
メリッサと同じで化粧映えすると前から思ってたんだよね。
すると女子たちが穴が空くほど俺を見てる。
審議中。
「……もしかして旦那様って」
「たしかに隊長って人を良く見てるけどさ……まさかこれほどなんて」
「メリッサちゃんだってそうだったじゃん」
なぜかケビンまで審議に加わった。
「前から思ってたのじゃ。婿殿にまつわる評価。……そのエキゾチックな女性が好きというやつじゃ」
エキゾチックアニマルの方のエキゾチックかよ……。
そこまで自分たちを卑下せんでも……。
というか嫁ちゃん……君は正統派の美少女だぞ。
「あー、最近言われてきたアレね……」
「あれひどいよねー」
なぜケビンは自然と女子の会話に加わってるのだろうか?
「まったくです! 旦那様は……その……日常が戦いの連続なので安らげる系統の……」
「いや、それも違うのではと思うのじゃ。その婿殿は未来の可能性とか、そういう不確定のものを見ているのかもしれん。その証拠にテーラーのスタッフに頼んだ。なんの情報もないのにじゃ」
「つまり私たちは美女になる可能性が……あると……」
「うむ」
なんかみんなの俺を見る目が怖いのだが。
ギラついてる。
レンなんて完全に肉を前にした目だ。
「ああ、貴公。我らのメイクスタッフも兼務してほしい」
嫁ちゃんがいつになく目をギラギラさせてた。
「あら、いいんですか?」
お姉は笑顔である。
メイク係に興味があるようだ。
「うむ、頼む。えっと……」
「アダム・ギブソンですわ。皇帝陛下」
「おお、ギブソン子爵家の」
「三男ですけどね。大公様には弟が大変お世話になってますわ。うちの弟も自分で奪還作戦を計画するくらいに成長しましたし。お姉ちゃんうれしいわ」
どうやらこの髭の生えたお姉様、部下の家族だったようだ。
やはり真面目に生きてるといいことあるな!
こうして儀式は目前まで迫ってきたのだ。




