第百九十一話
惑星カミシロ本家の病院。
俺とその家族のためだけに設けられたスイートルームに入院した。
すっげー内装。
サイケデリックでゴールド。
装飾は純金らしい。
そこに西アジア的な謎の絨毯が壁に掛かってる。
こっちも金糸でピカピカ。
金ピカすぎて逆に落ち着かない。
なんだろう。金余ってるから作っちゃった的な部屋。
なぜか部屋の隅にカラオケセットまであるし。
そんな悪趣味極まりない部屋に嫁ちゃん、メリッサ、レンにクレア。それにタチアナとワンオーワンも。
いつもの面々が集まってる。
「ぴえーん! 嫁ちゃん痛いよ~!!!」
手を樹脂製のギブスでグルグル巻きにされた。
脳内麻薬がダバダバ出てたころは痛くなかったけど、冷静になったら泣くほど痛くなった。
骨折である。
手なので日常生活も満足にできない。
尻を拭くのはプラズマでなんとかなった。
テクノロジー万歳!!!
「はいリンゴ。あーん」
嫁ちゃんがリンゴを【あーん】してくれる。
なお皮を剥いたのはケビンである。
「ばぶーばぶー」
バブみ戦隊オギャリオンと化した俺は嫁ちゃんに甘える。
それはさながらロリコン犯罪者の絵面だった。
「ぴえーん! ゾーク硬すぎるよ~!」
硬いのだ。
戦闘服のグローブにはナックルガードあるのに骨折れた。
俺がハードパンチャーってのはあると思うんだけど、それでも折れるか! 普通さあ!!!
「臥琉磨な。外骨格が割れてたらしいぞ。宇宙戦の外壁くらいの強度があるのじゃが……」
臥琉磨ぽんは生きていた。
デスブラスターが直撃せず、さらには雪と泥の中がクッションになってギリギリ死ななかったらしい。
ただ現在も意識不明ではある。
生きてるだけおかしいわ。
なお捕縛した女性型ゾークは研究所送りに。
嫁ちゃん側勢力の研究所なので生きたまま解剖とかはなし。
でも各種研究の対象である。
ちょっとハードな刑務所くらいかな?
隔離されてた皆さんは無事解放。
女性化した皆さんは病院で診断を受けてる。
賠償金の協議は軍が仲介してくれるんだって……要するにレイモンドさんに投げられた。
悪い結果にはならないだろう。
すでに国に差し押さえられた佐藤公爵家の資産から支払われることになると思う。
病院や惑星、公爵邸は帝国の財産扱いなので差し押さえを受けてない。
つまり俺の財産じゃない。サクサク支払われるだろう。
あとは知らん。
それよりも手が痛い。
「カワゴンカナシイ。オテテイタイ」
「もうさ、レオくんは無茶しすぎだよ!」
ケビンに怒られた。
メリッサはそれを見てゲラゲラ笑ってる。
「隊長に無茶するなって方が無理だよ」
レンもうなずいてる。
「旦那様は無茶をする生き物ですから」
レンは心配半分、あきれ半分といった感じだ。
カワゴンカナシイ。
「はい旦那様。ナノマシン入りプロテインでちゅよ~」
「キャッキャッ! だーだー! ばぶー!」
いちごチョコレート味。
これ……かなり美味しいな。
ばぶー。
するとタチアナがどん引きして俺を見てた。
「……タチアナ。人間にはバカになって状況を楽しむことも必要なのだ」
「あんたの場合、バカがデフォだっての」
「お前だって昨日、ワンオーワンに泣きついてたじゃん」
帰還してすぐにタチアナは出迎えのワンオーワンに抱きついてワンワン大泣きした。
にゃんこかと思ってたが群れをだいじにするわんこ……いや狼の子どもだったわけだ。
「なんだよ悪いかよ!」
「悪くないっすよ。ちゃんと一緒に寝てあげて偉い」
二人は一緒に寝たらしい。
すっかり仲良しである。
だけどそれを言ったら思いっきり照れた!
「子ども扱いすんな!!!」
シャーっと威嚇された。
こういうとこは猫っぽいんだよな。
するとワンオーワンはニコニコする。
「タチアナは優しいであります!」
「ワンオーワンはいい子だな。お兄さん感動しちゃう」
「えへへ」
頭をなでたいところだがギブスで無理。
生活は不便だけど首の骨折ってないだけマシか。
あれからワンオーワンは熟睡できるようになった。
ゾークネットワークから切断されたっぽい。
今回暴いたゾークネットワークとの通信。
そこからは切断されてるのは確認できた。
人類も日々進歩している。
ゾークの技術を応用するのは難しくても、やつらの工作を見破れるようになっていく。
俺の手の骨くらいは必要経費だろう。痛い。
なお他の士官学校生たちは【レオだし】で終わりである。ひでえ。
でも未だ奪還されてない惑星出身者すらも不満は上がってない。
むしろ彼らは伯爵として力をつけるために奔走していた。
親戚から情報を得たり、親の主筋の貴族とリモート会議をしたり、隣近所の領地や軍の関係者と繋ぎを付けたりだ。
婚活も軍閥や親戚を優先でやってる。
俺が毎回死にかけるのを見て、【自分も最大限動かなきゃ】ってなってるようだ。
実際、数人は自力で領地を奪還するのに成功した。
戦争はロジスティックが本質って士官学校で習ったけど、それは本当だったようだ。
後方支援のもたらした勝利である。
俺が一番苦手なやーつ。
本人たちは、あちこちに借りを作ったから伯爵としてはマイナススタートになりそうって笑ってた。
他の連中も負けてられないと奔走してる。
戦場じゃなくてもできること、やらなければならないことは多いのである。
嫁ちゃんも全力で支援している。
俺もだ。
というわけで、良い方向に世界は進んでいる。
実際の数値より、感情的に希望が持てる状況なのが大きい。
なお我がカミシロ本家であるが、佐藤一族の一斉捜査が行われている。
もうね、反抗的すぎるから一度自分たちの状況をわからせてやろうということである。
嫌がらせする気力はないけど、調子にのりすぎてる。
せめてルールが変わったことだけは自覚してほしい。
あ、そうそう。
嫁ちゃんが甘やかしてくれるように思えるけど、一番甘やかしてくれるのはクレアだ。
「レオ寒くない」
毛布を掛けてくれる。
ばぶー!
まんまー!
こうして俺は完全修復までの数日間を甘やかされたのである。
ばぶー!




