第十九話
儀礼用の槍の型。
帝国槍術二十四式一ノ型裏。
同じ番号に表と裏があるが、表は腹側、裏は背中側に入るということである。
通称1・2・3。
要するに一番最初にやるヤツだ。
これ幼年学校から士官学校本科に進学しても銃剣の実習で延々やらされる。
実用性皆無。
だって基本の間合いは中距離だし、近寄られたらナイフだし。
なれどずうっとつき合うことになるのだ。
意味もなくやらされるのだ。
それが今、役に立っている。
ああ、幼年学校のアホアホ男子に棒なんて持たせたらバトルごっこがはじまるのは運命。
最初は型だけどそのうちムキになって喧嘩になるのまでが様式美。
だがその経験が生きていた。
戦える。
けど目の前の人型は別だ。
あれはまずい。
だが誰かが貧乏くじ引かなきゃならん。
俺は突っ込んでいく。
「うおおおおおおおおおおおッ!」
「ジェスタアアアアアアアアアアアッ!!!」
ローラーダッシュの出力最大。
ランスじゃないけど槍で突撃。
ガツンとぶつかる。
ずぶっと槍が突き刺さる。
だけど止められなかった。
巨人が拳を振りかぶった。
俺は槍から手を離し。
後方に跳んだ。
「クレア! 爆破ぁッ!!!」
「了解!」
突き刺さった槍が爆発する。
跳んだはずなのに爆発が俺を襲う。
俺は地面に叩きつけられるが、受け身を取ってから起き上がる。
受け身の取り方が上手だったようだ。
幸いダメージは入らなかった。
ただ機体が汚れただけだ。
……だんだん自分が人間離れしていってるような気がする。
「まだ生きてる! 射撃します!」
複座の砲台が火を吹く。
当たったはずだ。
だけど現実は甘くなかった。
ゾークが悠然と歩いてくる。
歩くたびに傷が治っていく。
「ジェスター殺す」
ひょいっと巨人はカニ型のゾークを拾った。
そのまま振りかぶって……。
それは卑怯だろ!!!
俺は死ぬ気で逃げる。
ただデカいってだけでここまで致命的な戦闘力の差が出るのか!
巨人がゾークを叩きつけた。
直撃こそしないが地面が揺れた。
「隊長! 助太刀するぜ!!!」
「やめろ! 効かない!」
だけどメリッサは飛び出した。
刀で足を切り刻んでいく。
「はは! カニよりは柔らかいや!」
「婿殿! 我らも行くぞ!!!」
近衛隊も突撃する。
すると嫁から通信が入る。
「婿殿ぉ!!! 時間を稼げ! 妾が行く!!!」
「待って、駆逐艦の装備じゃ……」
あ、でも待てよ。
駆逐艦のビーム、カニじゃなければ効果あるんじゃね?
「時間稼ぎする! メリッサ! おっちゃん! 対物ライフル使うから攻撃して!」
「おうよ!!!」
背中のライフルを組み立てる。
三脚を設置し腹ばいになる。
その間もメリッサたちは戦っていた。
切り刻み、突撃した。
盾を持った近衛隊が攻撃を防ぎ、その隙にメリッサが攻撃する。
だけどそれでも致命傷は与えられない。
「おかしいよ! 動物なら腱を切断すれば動けないはずだ!」
巨人は攻撃された先から傷が塞がっていく。
「ええい! メリッサ生徒! 先入観を捨てるのだ!」
「わかったよ! おっちゃん! でもどうすんだ!?」
「婿殿を信じよ。あの男はいつも期待を上回ってくる」
そこまで言われて「何もできませんでした」じゃすまされない。
やるぞ!
「クレア」
「了解。補正開始」
クレアに射撃を補正してもらう。
「メリッサ、おっちゃん! 退避!!!」
近衛隊とメリッサが退避する。
俺は対物ライフルを撃った。
狙うのは心臓か脳。
このどちらも再生できないはずだ。
……たぶん?
心臓の方が的がデカい分確実だ。
心臓に当たらなくても殺せる可能性だってある。
轟音を上げながら対物ライフルは突き進んだ。
巨人の胴体に突き刺さる。
心臓に当たり、その衝撃は骨や肉を破壊していく。
背中側から出た弾丸は弾丸の直径の数倍の穴を開けた。
「あ、あで?」
巨人は自分の胸を見た。
風穴の開いた胸を見た巨人が雄叫びを上げる。
「うおおおおおおおおおおお! ジェスター! ジェスター殺す!!!」
巨人の目が赤く光り穴が塞がっていく。
殺せない。
そう確信した瞬間、俺は突撃していた。
嫁の通信が入る。
「婿殿! 主砲発射準備完了じゃ! ただ街まで巻き込んでしまう!」
「どうすればいい?」
「空にぶん投げるのじゃ!!!」
俺は巨人の足にタックルした。
ナックルの爪を出して馬乗りになってぶん殴る。
「みんな! 手伝え!!!」
「ジェスタああああああああああッ! 邪魔だ!!!」
巨人が手を出してきた。
だから俺は叫ぶ。
「斬れ!」
メリッサの斬撃が腕を切り裂いた。
その隙に俺は巨人の指をつかむ。
そのまま反対側にひん曲げた。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
巨人が悲鳴を上げた。
もう一発ぶん殴ってから今度は両足を両脇に挟む。
「おらあああああああああああああああッ!!!」
全身のギアが軋んだ。
だけどこれしかない。
それはジャイアントスイングだった。
巨大怪獣にはジャイアントスイング。
これこそ様式美である。
実際は全身から軋む音がしてめちゃくちゃ怖いんだけどね!!!
「クレア! 脱出して!!!」
「やだ!!! 一緒にいる!!!」
拒否された。
もう猶予はない。
俺は巨人を振り回す。
遠心力で巨人の体が浮いた。
「ふん! うおおおおおおおおおおおおりゃあああああああああッ!!!」
ばつん!
膝が壊れた。
だけどそのまま放り投げる。
左腕がちぎれて持っていかれる。
股関節がねじ切れて機体が倒れる。
「よくやった! 婿殿!!! 発射!!!」
駆逐艦からプラズマ砲が発射された。
荒野を焼き尽くしながら巨人を消し炭にした。
ゾークの半分も巻き込まれて消滅する。
「あとは頼んだ」
もうこの機体は動かない。
バキバキと足から崩壊していった。
そのまま倒れて寝っ転がる。
ドアを開けてクレアを救い出して避難した。
巨人を倒したことでゾークどもは総崩れになっていくのが見えた。
「領都、救えたね」
「ああ」
その日、俺は故郷を救ったのである。
その後、街の住民とサム兄に出迎えられて俺たちは歓待された。
前線に出た親父と長兄はまだ行方不明だ。
でも、まあ、サム兄は生きている。
上等な結末だろう。
みんなが宴会に興じる中、俺は一人隅っこで食事をしていた。
わかるな。
俺にはこの状況を楽しむコミュニケーション能力は備わってない。
話しかけられないように祈ってると知った顔がやってきた。
「やあ、ちょっといいかな」
男子生徒のケビンだ。
「むしろ知り合いで安心した。いくらでも話してくれ」
「あははは。相変わらずだね。ちょっと来てほしいんだけど」
「なんだ?」
「いや専用機の修理のことで相談したくてさ」
「あー、そういうことね」
ケビンに付いていく。
ガレージが見えた。
「ここ」
中に入ったがなにもない。
「おいケビン。場所間違ってね?」
「いいや。ここでいいんだよ」
振り向くとケビンが銃口を俺に向けていた。
「まさか僕らの天敵がここまで厄介だったとはね」
お前何言ってんの?