第百八十七話
光学迷彩と言ってもいろいろなものが存在する。
鏡を貼り付けて周囲に溶け込むもの。
布に映像を投影するもの。
光を完全に吸収して完全な闇になるもの
完全に透明になれるのはゾークくらいだ。
今回は夜に襲撃するので完全な闇になるのと、映像投影の2WAYで使えるマントだ。
戦闘服についてる機能よりいいやつ。
二つのモードをAIで自動で切り替えてくれる便利なやつだ。
さらに人体から出る熱も遮断してくれるのでサーモカメラにも映らない。
弱点としては熟練兵なら見破れなくもないこと。
なんとなく違うのがわかってしまう。
どうしても動くと違和感が出る。
遠くの野生動物に気づくかなってレベルの話だけど。
最新式の自動砲台、タレットだとある程度近づくと気づかれると思う。
なんであれ、これだけでかなり発見されにくい。
雪上バイクで中佐が軍事支配する区画に行く。
いやー、大気圏突入までしたのに出番ないかなって思ったらガッツリ役に立ったよ!
数十キロ先だもん。
行軍してると雪が降ってきた。
「寒ッ! みんな! ヘルメットフルフェイスにしろ!」
戦闘服のヘメルメットの顔面部分を下ろす。
仮面になっているので寒くない。
その間にもどんどん雪が強くなる。
「戦闘服で助かった……」
生身だったら凍死しかねない。
だって雪が斜めに降ってるもん!
降った雪が風で舞いあげられて襲ってくるもん!!!
死ぬ!
停車してるだけで雪だるまになりそうだ。
でもそのおかげで雪上二輪車の音は風にかき消されて響かない。
運がいいのだろう。たぶん。
「い、行くぞ!」
基地が見えるところまで来たら山に登る。
山は木の生えてない、いわゆるハゲ山だった。
俺たちは斜面に停車、そこから双眼鏡で様子を見る。
基地は兵士がいた。
戦闘服じゃない。防寒服のようだ。
「練度低いなぁ……」
思わずつぶやくとメリッサが笑う。
「そりゃ帝国士官学校と地方軍じゃ違うでしょ。うちらこれでも将来のエリート候補生だったんだし」
「いつのまにか……みんな隊長だもんね……」
「あははは! おまけに領主だよ! みんな口に出さないけど感謝してるよ。兄姉の誰よりも出世したんだから」
「さーて、ワンオーワンを助けますかね」
「俺も行くよ」
「ああ、いつものメンバーかな」
というわけで俺の班はメリッサにレン、クレアというハーレムパーティーだ。
男子どもも一緒に入ってボコボコにする。
今回の男子どもはひと味違う。
童貞丸出しの惨めな生き物ではない。
愛の狩人は脇に置いて、かわいい妹分を助けに来た漢たちである。
いつものアホ面はどこへやら。
面構えが違う。
「じゃ、先に行くわ」
ここからは歩き。
雪が積もりズボッと足がめり込んだ。
だけど音はしない。
すべて吹雪の前に消え去る。
そのまま基地の脇に到着。
普通の壁なので有刺鉄線を切って侵入。
見張りが巡回してるけど数は少ない。
だって嫌だもん。こんな天気なのに外で仕事するの。
おそらく交代でサボってるのだろう。
「旦那様、酒盛りしてました」
兵士がドラム缶で薪を焚いて火に当たりながら酒を飲んでいた。
みんな女性型のゾークだ。
思った通り様々な顔だ。
兵種の違いがあるのだろう。
「酒にナノマシンで睡眠薬を仕込んでおきます」
レンのやることが容赦ない件。
俺たちはその場を離れる。
すると警備兵がいるのが見えた。
一人でやんの。
口を塞いから素早くナノマシンの麻酔を注射して無力化。
麻酔は指先くらいの樹脂製のパッケージに入ってる。
即効性で皮膚に刺せばナノマシンが麻酔を運んで一瞬で昏倒する。
女性型ゾークをその場に置いてIDカードを盗む。
RPG的文法なら建物の中に入れるはずだ。
……と思うじゃん。
「カード必要ないですね……」
レンが呆れメリッサが声を出さないように苦しそうに笑う。
建物ドアは普通の鍵で施錠されてた。
「こんなもんサクサク開けてやる」
鍵なんてすぐに解除っと。
「旦那様……どこでそんな技術を……?」
「鍵屋のバイトでね……」
「隊長って俺たちと同じ学校で同じ時間を生きてきたはずなのに、たまに謎の活動してるよね?」
「ほんとなんでだろうね!」
自分でもわからん。
サクッと鍵を解錠して侵入。
見張りはいない。
中に入ると食堂があった。
中をカメラとファイバースコープで覗く。
美少女たちが暗くした食堂で恐ろしく古い映画を見ている。
……そうかネットから切り離されてるから娯楽が少ないのか。
ちょっと同情しながらガスグレネードを部屋に転がした。
「あん? ……なんだ? ぐ、グレネード!!!」
でももう遅い。
ガスが噴出され部屋にいた全員が眠った。
ふははははは!
忘れてるかもしれないが、我らは士官学校生!
対人戦の理論を叩き込まれてるのだよ!
定期テストに出るからな!
特に潜入ミッションは得意中の得意なのだ。
実技は後からピゲット隊長とヒューマさんに死ぬほど仕込まれたからな!!!
警報を鳴らす余裕なんぞ与えない。
男子どもも同じだった。
他の入り口から入って次々と制圧していく。
今度は男性兵士がいた。
こっちも首トンで無力化しよう。
どかーん!!!
「ほげら!」
ちょっと強すぎたか。
でもいいや。
気づかれなかったと思……。
「なんだ。コケたのか……ふご!!!」
やって来た兵士にめがけて普通のパンチで意識を奪う。
……うん、レベル上げすぎて手加減できなくなったような気がする。
メリッサも後から来た兵士を締め落とし、レンは別の兵士の顔をつかんで頭から床に叩きつけてた。
「うーん、うちの連中より弱い」
「そりゃメリッサん家の侍と比べても」
いま考えると負けそうになってたとはいえ、クソ強いゾーク相手にある程度抵抗できてたもんね。
普通に化け物ぞろいだと思うよ。
公爵領が普通なんだと思う。
俺たちは次々兵士を無力化していく。
でも運が続くわけじゃない。
「レオ、触手型に遭遇した! 警報鳴らされる!」
これはしかたない。
レンだって、俺だって銃を使わないと対処できない相手だ。
銃声が響いた。
同時に警報が鳴り響いた。
人質どうしよう?
そう思った瞬間、朗報が入った。
「人質発見! 解放しました!」
よっしゃ、これからは音を立てちゃおう。
殲滅だ。




