第百八十四話
会議室で待っていると妖精さんがやって来た。
「やっほー! 調べたよ!」
「お疲れー。なんかわかった」
「うん、電波でもなんでも、こういう技術は光を使ってるはず。と思ったルナちゃんは光を辿っていきました。するとどうでしょう。発信源はこの惑星だったのです」
「この惑星のどこ?」
「ちょっと遠いけど、北にある大陸が発信源みたいですよ」
地図を広げると妖精さんがマーカーをつけてくれた。
俺の後ろにいた執事さんが「ふむ」と髭をつまんだ。
「殿。そこには開拓民の都市があるはずです」
「へー、開拓民」
アホの代名詞、公爵と言えどもちゃんと人を雇ってるんだな……。
「先々代の佐藤家投手がスキーリゾートを開発しようと労働者を受け入れて……閉じ込めたと言われてます」
「閉じ込めた?」
穏やかじゃないセリフだ。
「ええ……先々代様が気分が変わったと給金の支払いを拒否し、行く場のなくなった彼らはそこに都市を建設しました。ですが先々代様は彼らが攻め込んでこないように壁を建設されまして……そのまま忘れられました」
「クズなのかな?」
悪意しかない。
だって壁作る方が金かかるし。
賃金と退職金と帰りの交通費くらいは払ってやれよ。
金持ってんだからよ。
「定期的に上空から監視はしていますが……先代様は興味なく完全に忘れなされ……殿の御代になられましたので折を見てご相談しようと思っておりました」
うん、佐藤家滅んでよかったわ。
ヒャッハー暴徒の統治よりヘタクソなの、ホントなんなの!
公爵会ってバカしかいないのかな!!!
「いますぐ見積もりして! 壁壊すから!」
「は!」
「ちょっと行ってくるね!」
戦闘服に着替えて都市に向かう。
命令してないのに士官学校の連中は片っ端からついてきた。
普段は裏方やってる院生たちまでキレそうな顔でついてきた。
「旦那様! 警備用人型重機積み込み完了しました!」
レンとみんなですでに嫁ちゃんの戦艦に積み込み作業を終わらせてくれた。
「了解。現地は常に凍ってるとのことだ。雪上二輪車で直接着陸する」
「隊長! 武器の積み込み完了! 行くよ!」
メリッサもやる気十分だ。
「婿殿! 戦艦で支援する!」
嫁ちゃんもやる気だ。
でも……ちょっと地上の都市相手だと宇宙戦艦はオーバースペックだと思うのよ。
「レオ! ドローン調整終わったよ!」
ケビンも来た。
するとケビンが肘で俺をつつく。
「なによ?」
「レオ、ニーナちゃん止めてよ」
「ニーナが何よ?」
「あ、レオくん! 戦車も自走砲も用意完了したよ」
ニーナさんはふくよかで母性あふれていた。
だけど、バックになぜか【ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!】って文字が見える。
「うちの子いじめた悪い子はやっつけなきゃ♪」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
お、おう。
触らんとこ。
嫁ちゃんの戦艦に乗ろうとしたらタチアナが来た。
「隊長! アタシを連れてけ!」
「おまえさー、ここに残ってワンオーワンのめんどう見てくれって言っただろ!」
「るせえ! アタシの……あいつはアタシの友だちだ!」
「ならしかたねえな。オラ乗れ!」
タチアナを乗せる。
宇宙港から戦艦で宇宙へ。
都市の近くまで行って大気圏外から降下する予定だ。
俺たち雪上二輪車組は直接。
ドローンスポッターのケビン、戦車や自走砲の遠隔オペレーターのニーナさん、それに人型重機のメリッサは輸送機で降りる。
「アタシはどこ乗るんだ!?」
タチアナが俺の所にやってきた。
「俺の後ろ」
戦闘服を直してやりながら俺は教えてやった。
まーったく、相変わらず服の着方ヘタだな。
「へっ、帝国軍最強の後ろじゃ安心だな」
「戦闘服を宇宙戦闘モードにして……これでよし」
プシュッと音がして隙間がなくなる。
「ほらヘルメット」
「ッス」
ヘルメットを被せて宇宙戦闘モードに変更して完了。
俺もヘルメットをつけて雪上二輪車に乗る。
タチアナも後ろにまたがった。
足が地面についてないでやんの!
俺はタチアナの命綱をつけてから、自分のもつける。
「つかまれ」
タチアナが腰に手を回してしがみついた。
すると戦艦の油圧ドアが開く。
「隊長! 準備完了いたしました!」
「発進!」
俺は発進した。
あとは訓練と同じだ。
大気圏突入、そして着地だ。
空から発進し、降下していく。
スラスターで姿勢制御しながら落下していく。
「ぬおおおおおおおおおお!」
本来なら士官学校でやる訓練だ。
でもタチアナはいきなり実戦である。
悲鳴……いや、こりゃ、わけわからなくなっているな。
いいや、命綱あるしたぶん大丈夫だろ。
一面の銀世界。
常夏の楽園とは違って、こっちは常に冬の世界とのことだ。
都市が見えてきた。
へー……本当に都市だわ。
とは言っても現代式の超高層ビルなんていうのはなく、地方惑星くらいの規模の都市だ。
中世ってほど酷くないけど、木造一軒家多いよねって感じの。
たしかに都市は壁で四方を塞がれていた。
だけど生活に問題はなさそうだ。
だってクソ広いもの。
やりたい放題だな公爵。
着地する。
タチアナはいつからか無言になっていた。
「おいタチアナ。生きてるか?」
ぽんぽんっと軽く叩く。
するとガクッと俺の背にしなだれかかった。
「なんだ怖くなったのか? もうついたぞ」
後ろを向いてタチアナを起こすと白目を剥いて気絶してた。
ぽくぽくぽくちーん。
うん、格好つかないのがジェスターの運命なのだと思う。
仲間が次々と着地した。
俺たちが次々と着地する中、雪をかき分けて電飾ギラギラさせた車がやって来た。
【公爵軍】
うちの家臣じゃねえか。
「狼藉者どもが! ここを佐藤公爵家の惑星と知らぬのか!!!」
うん?
佐藤公爵家?
いやカミシロ本家のなんだけど。
するとやってきた。
レンが一瞬笑顔になった。
そして拡声器を持って……。
「この馬鹿者が!!! 佐藤家はお家取り潰しになったわ!!! この惑星はすでにカミシロ本家のものである!!!」
「ええい! 世迷い言を!!!」
うーん?
話が噛み合わない。
そのとき俺の脳裏に執事の言葉が響いた。
【忘れられ】
周辺の軍まで忘れられたんじゃ……。
どのくらい忘れられたかって言うと、この間の武装蜂起につき合わせてもらえなかったくらい……。
俺はあまりの雑な統治に頭が痛くなるのだった。




