第百八十三話
史上最大の敵【事務】との戦い。
軍の内部書式とはまったく異なるフォーマットの異次元書類マウンテン。
AIのエラー、校正プログラムが検知してくれない誤字脱字、外字だらけのクソ書類しかも外字パックが行方不明、すでに開発元が倒産した大昔のソフトで作成された書類……別ソフトで読み込んだら文字化け&書式崩壊……。
あるものは脱走してビーチで遊ぼうとし、あるものはゲームに閉じこもり、あるものは夜逃げに手を染めようとした……もちろん全力で捕まえたけどね。
営倉?
はは、貴様らにお似合いなのはファイルダンプからのコンバート作業だよ!!!
せいぜいバイナリエディタとにらめっこするがいい!!!
こうして我らはなんとかギリギリ生き残り、帝都への物資納入ラインを構築した。
なお終わってから寝込むもの多数。
「戦闘より事務の方が損害大きいのおかしくね?」
タチアナのツッコミなど耳に入らない。
だって事務嫌いなんだもん。
追加の事務員や公爵家の使用人がいてこれよ!
タチアナとワンオーワンはみんなにお茶と疲労回復のドリンクを配る係である。
公爵家のメイドさんが保温ポットに入れてくれた暖かいお茶と市販のドリンクをカートに入れて運ぶ。
食堂にいた俺たちの所にも持ってきてくれた。
「お茶であります!」
そう言ってワンオーワンがお茶を注いでくれた。
そば茶の香りがする。
カフェイン入ってないのにしてくれたのね。偉い。
そしてタチアナは雑に「おらよ」とドリンクをテーブルに置いた。
ドリンクもカフェインレスだった。
偉い。
皆も隊長格、そして領主として初めての事務。
俺のつらさが身にしみただろう。
「ま、まさか領主の仕事がこんなにハードなんて……」
そりゃ星一つの社長だもん。
カミシロ一門が同じ隊だから、パーティーとか会食やらがここでできる。
その分仕事少なくてすんでると思うと地獄すぎてつらい。
しかも仕事が終わってからも活動がある。
院生の講義だ。
もうね、大学入ってからとか言ってられない。
簿記から会計学、民法商法を学ぶ。
大学校生まで講義に参加。
俺たち……士官学校が通常授業だったころより勉強してるかも……。
何が必要か理解したもんね……。
そんな死にかけの我らだが、暇ができるとはじけた。
「ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおい!!!」
海にダイブ。
レンとメリッサは、それにクレアは花火をしてた。
嫁ちゃんも連日のお仕事に疲れたのか両手に花火を持ってる。
一泳ぎして海から上がるとタチアナが打ち上げ花火を……なんで俺に向けてるの!?
「ぬおおおおおおおおおお!」
ぬははは!
ビームをよける男に当たるわけがなかろう!
「ぐ! よけやがった! オラ、ワンオーワン! やれ!」
「了解であります!」
両手にいくつものロケット花火を持ったワンオーワンがロケット花火に火をつけた。
バカめ!!!
俺はローリング回避!
「当たらぬわ! このドバカどもー!!!」
全力ダッシュで悪い子どもに向かう。
「ぎゃー! 隊長が走ってきた!!!」
「ね、ねずみ花火であります!!!」
「とうッ!」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
すぐにバカ二人を捕縛。
両脇に抱える。
「うおおおおおおおおおおお! はなせー!!!」
「タチアナちゃんのばかー! やっぱり怒られるであります!!!」
「ぐははははは! どう料理してくれるかなー!!!」
「うわ、カワゴンに子どもがさらわれたぞ!」
男子がはやし立てた。
「げひゃひゃひゃー!!!」
「おっし、カワゴンを水鉄砲で撃て!」
男子も女子も水鉄砲を持って俺を追い回す。
「ひゃうん! 水が当たってるであります!!!」
「ちょ! 水! 水が! 隊長放せって!」
「死なばもろともじゃー!!!」
「あ、バカ! アタシ抱えたまま海に走るな!!!」
そのまま海にダイブ。
こうしてカワゴンと悪ガキは滅んだのである。
で、それをケビンとクレアに見つかって叱られた。
三人とも。
ビーチに正座。
「ぜんぶ隊長がわるいのにー!」
「ひゃっひゃっひゃ!!! 悪は滅びるのじゃー!!!」
「おもしろかったであります!」
するとクレアが雷を落とす。
「反省は!!!」
「したであります!!!」
キリッ!
と南国リゾートを満喫してたわけだ。
その後、真っ暗になっても花火をやっていたわけよ。
そしたらワンオーワンがやって来た。
「少佐殿! 自分はこんな楽しいのはじめてであります!!!」
「そりゃよかった。これからもしばらくこんな感じだぞ」
「楽しみであります!」
「おー、楽しめ! タチアナと仲良くなったみたいじゃん。どうよあいつ?」
「タチアナは優しいであります! このところずうっと怖い夢見てたけど、タチアナが一緒に寝てくれるから怖くないであります!」
うん?
なんか風向きが変わった。
「怖い夢?」
「はい。寝ると、どこからか呼ばれるのであります。闇のようなとても怖い何かがネットワークと一体化しろとささやいてくるのであります」
「ケビン!!! いますぐこっちに来てくれ!!!」
俺は大きな声でを出した。
ケビンだけじゃなく、嫁ちゃんもクレアもレンもメリッサも、もちろんタチアナも血相変えてやってきた。
「どうしたの!? なにかあった!?」
「ワンオーワンがゾークネットワークから接続されそうになってる!」
「研究所に連絡する!」
「誰かに一体化しろと言われるのであります」
「わかったのじゃ! こちらの伝手も使う! 兄上にも連絡する!」
嫁ちゃんが関係各所に連絡し、メリッサとクレアもピゲットのところに走る。
レンはワンオーワンを着替えさせてくれた。
男子どもは病院に連絡し車を手配する。
「お、おい! 悪い夢見ただけだろ!」
タチアナは意味がわかってなかった。
「ケビンが一度こうなった。そのときは俺を暗殺しようとしたんだ」
「そんな……アタシそんなの……」
そりゃケビンのいままでの事を知らないのだ。しかたない。
誰のミスでもない。
俺だって気づかなかったのだ。
それにケビンのやらかしだって教えてない。
俺たちと軍で隠蔽したのだ。
「だいじょうぶだよ」
ニーナさんがタチアナを落ち着かせてくれた。
すぐにワンオーワンを病院に運ぶ。
「ワンオーワンを助けてくれ」
「ああ、まかせろ。俺なんとかする」
ワンオーワンを病院に渡して廊下で待つ。
俺は妖精さんに頼んだ。
「妖精さん、ゾークネットワークを逆探知できる?」
「やってみる」
ゾークども……俺を怒らせやがったな。
俺は静かに闘志を高めていった。




