第百八十二話
タチアナのアホを引き剥がして帰る。
ワンオーワンがかわいそうだ。
あまり会わせない方がいいな。
猫と犬だし……。
なんて思ってた時代が俺にもありました。
「タチアナ遊ぶであります!」
「よっしゃ遊ぶぞ!」
数日後。ひしっと抱き合う二人。
二人とも精神年齢が幼いからかすぐに仲良くなった。
俺たちは二人を暖かい目で見てたわけだ。
わんにゃん癒やし動画的な枠で。
……あの爆弾発言がなければ。
「ねえねえ、殿下」
「なんじゃタチアナ」
「あいつ名前ないんだって」
「は?」
その場にいた全員が低い声で聞いた。
ワンオーワンが名前だと思ってたが本当にただの管理番号だったらしい。
「自分は人間でないので番号で管理されております!」
それを聞いた嫁が卒倒しそうになってた。
かなりショックだったようだ。
「……メンデレビウム。ワンオーワン・メンデレビウムと名乗るがいい」
元素番号101番ね。
名字をつける方向にしたようだ。
すでにワンオーワンって呼んでるからそっちを直したのね。
ケビンとかタチアナなんかのコロニー生まれは名字ないんだよな。
コロニー民は犯罪やって夜逃げした連中が多いせいで、名字を名乗らなくなった。
それで、いつの間にかそれが文化になって、名字がなくなったって聞いてる。
貴族じゃないので困らなかったらしい。
「ありがとうございます!!!」
こうしてワンオーワンはなんとなく嫁ちゃんのお気に入りになった。
侍女みたいなことをしてる。
嫁ちゃんも戦闘に出したくないっぽい。
そしてケビンだ。
そっくりではあるのだが、色々と違いがある。
まず髪、緑色はいいとしてワンオーワンは軍の規律ギリギリまで伸ばしている。
こっちは自分は女性であると理解しているのだろう。
対してケビンは女子に止められないギリギリで短くしてる。
野郎というアイデンティティーを捨てられないゆえの抵抗である。
顔の方も姉妹やクローンに間違えられるというよりは、親戚だよねって感じだ。
胸のサイズはほぼ同じだったらしい……。
ケビンにはタチアナとワンオーワンの世話をさせてる。
二人ともなぜかケビンの言うことは素直に聞くからだ。(というかタチアナが俺だけに反抗的という説がある)
さて、ワンオーワンの出現はゾークの謎の一端がこれでわかるのではと関係各所を期待させたが……。
一兵卒未満の情報しか持ってないことが判明。
遺跡のワークステーションの情報もワンオーワンが語った情報と大差がなかった。
ただ解剖記録があった。
12種の女性型ゾークの解剖記録だ。
はい人類のド畜生。
これには嫁ちゃんと妖精さんが大激怒。
記録の廃棄……は、すんでの所で思い改めたが物に当たり散らしてた。
聴取は特に問題はなかった。
本人はいたって素直。
帝国に対する敵意もない。
そもそも故郷の国家は記録すらなく消滅している。
共和国の送り込んだスパイ……であっても何ができるということはない。
だがゾークのため、いちおう監視がついて、心や体に異常があったときにアラートを出すブレスレットをつけさせられている。
嫁ちゃんもいつもより強めのポータブルシールドを持たされている。
これがここ数日の変化だろうか。
「ごはんおいしいであります!!!」
山盛りごはんを美味しそうに食べるワンオーワン。
「ほら、ほっぺにごはんついてる」
「んー」
ご飯粒を取ってやるのがタチアナであった。
あいつ世話するのが好きなタイプだな。
残念な行動に出なければタチアナはもっと評価されると思う。
「タチアナ、今日は何して遊ぶでありますか!」
ワンオーワンは夏休みの小学生のような表情をしていた。
「遊ぶ前にとりあえず先輩たちのお手伝いしような」
「了解であります!」
タチアナ……一瞬こっちを見たな。
俺の顔見て【お手伝い】って言いやがった。
本当はサボって遊ぶつもりだったな。
俺たちは自主的に公爵邸の雑事をこなしていた。
公爵家のものは「私どもが……」と言ってたが、それはそれとして訓練として多少やることにしている。
生活能力は普段からやってないと鈍るのだ。
なので訓練名目である程度やっている。
タチアナとワンオーワンにも最初から教えてるわけである。
などと、トイレ掃除をしながら考えていた。
で、終わってトイレから出るとタチアナとワンオーワンがいた。
「少佐殿! 少佐殿! 遊んで欲しいであります!」
「たいちょー。ゲーム貸して!」
なぜか二人にやたら甘い嫁ちゃんやケビンではなく俺に言いに来る。
しかたなくゲームを使用可能にしてやってっと……。
「……ん!」
【おやつちょうだい】のポーズ。
「おやつ欲しいのであります!」
こっちも【おやつちょうだい】。
「食べすぎんなよ。夕飯残したら俺がクレアに怒られる」
平和な日常がすぎていく。
ゾークとの初遭遇からずうっと戦い続けだったからな。
戦況は一進一退。
ある程度の領地を取り返したが、もっといい惑星を占領された。
とうとう帝国経済にもある程度の影響が出てきた。
物価が高騰している。
これは帝都の復興が原因だろう。
つまり……。
数日後のことであった。
「レオ! こっちの書類終わったぞ!」
「クレアん家のスーパーに卸す分は?」
「終わった! 次は!?」
「レンの惑星の分だ!」
そう、帝都近郊の生産拠点をもらってしまった俺たちが死ぬほど忙しくなったのである。
そもそもだ。
クレアの実家は花卉事業を一時停止。
俺らの領地の生産物の卸事業をすることになった。
いや半分以上は帝都の中央青果や商社の手を借りたんだけど。
それでも帝都の物価は俺たちが守ってるぜ!
なので士官学校生の全員分の領地の最終決裁が俺の所に……死ぬ。
だめだ。家臣を死ぬほど増やさねば!
そうか! 大企業いきなり継いだのと同じか!
しかも企業と違って事業がコケるととんでもねえ数の死人が出る。
やだ怖い!
「佐藤公爵ってどうやってこれこなしてたの? 天才なの?」
「こなしてなどおらぬ。のらりくらり断ってただけじゃ」
想定以上のクズであった。
「少佐殿! お茶であります!」
「いい子だなー!」
この生活の癒しはワンオーワンであった。
お菓子あげちゃう!!!




