第百八十一話
頭の中でケビンとワンオーワンを比べる。
太眉のボーイッシュ系。
恐ろしいほど整った顔。
そのくせ自分を女子だと思ってない……つうかケビンは野郎だ。
心の玉は失ってないはずだ。
正気になれ! がんばれ俺!
それにしてもゾーク?
女性型ゾーク?
でも女性型ってアレクシアみたいな色気ムンムン型もいたし。
なんだろ?
俺が首をかしげると嫁ちゃんが口を挟む。
「話がわからん! つまりどういうことじゃ!?」
「俺たちが遺跡で見つけた女性、約600年前のゾーク」
「は?」
ですよね。
意味わからんよね。
「明日一緒に行こう。質問考えておいて」
こういうのは嫁ちゃんに丸投げに限る。
次の日、俺と嫁ちゃん、メリッサにレンにクレア、それと同じくらいの精神年齢枠でタチアナも連れて来た。
医師は「本当は断るべきなのでしょうが……」と困っていた。
もちろん嫁ちゃんは「すまぬな。よろしく頼む」で終わりにしてしまった。
タチアナは「なんでアタシが」と不満そうだった。
だがお菓子で買収した。
見よ! これが魂の汚れだ!
病室に行くと「少佐殿!」とワンオーワンはうれしそうに出迎えてくれた。
なんだろうか?
タチアナがなつかない猫だとしたら、こっちはフレンドリーなわんこだ。
「聴取でありますか!」
「うん。今日は次期皇帝連れてきた」
「次期皇帝のヴェロニカじゃ! よろしくな!」
「共和国実験体部隊所属、識別番号ワンオーワンであります」
「うむ。我が国は直近の数々の失敗から人権を重視しようと思っておる。素直に聴取に応じれば悪いようにはせぬ。我が名にかけて誓おう」
「は! それで……自分はなんの話をすれば?」
「まずはゾークじゃ。共和国ではゾークとはどのような存在と定義づけられておるのじゃ?」
「定義でありますか……自分は帝国側が開発中の新兵器の対抗兵器と聞いております」
祖国が滅んでるから口が軽い軽い。
そりゃね、滅んだ国家に義理立てする意味ないしな。
「ほう、我が帝国がそのような。すまぬが帝国側の新兵器とはどのようなものか教えてくれるか?」
「可能性を収束して未来を確定させると聞き及んでるであります」
「可能性の収束?」
「は! 仲間が死ぬ、恋人が死ぬ、故郷が滅びるなどの主観的に不幸な未来を可能な範囲で回避する人工超能力者であります。帝国では平和の戦士という開発コードであります」
ワンオーワン以外の全員の視線が俺に突き刺さった。
ジェスターか?
ジェスターなのか?
「共和国側は平和の戦士を危険視してました。スペック通りなら絶対に勝てないのと同じですから……ところでなぜ少佐は汗だくなので?」
「き、気にしないで……」
「顔色もお悪いようですが」
「あははははは……大丈夫」
冷や汗が流れてくる。
ゾークはジェスターに対抗するために作られた?
いやでも……それは因果関係がおかしい。
「幸い平和の戦士の製造は難航。共和国が先んじて外宇宙探索型新兵器ゾークの試験運用に成功しました」
ゾークの方が製造が先なのか。
待てよ……ゾークに勝てなかったんだけどジェスターの製造が間に合って形勢逆転したとか?
「ゾークはどのような兵器なのじゃ?」
「は! 自分たちは外宇宙型。つまり生身で宇宙空間にて戦うことを想定された兵であります!」
「……は? 生身?」
「軍事金融工学的分析の結果、兵の命の方が安いとの判断であります!」
安定の鬼畜判断である。
「……婿殿……先祖たちはなにを考えておったんじゃ?」
人命軽視は人類のお家芸のようである。
「嘘ではありません! 例えば腕を外骨格でコーティングすれば……」
ワンオーワンの腕が装甲に包まれていく。
でもカニちゃんとは似ても似つかない。
こちらの方が機能的だ。
「なんというむごいことだ。……帝国を代表して詫びよう。この通りだ」
嫁ちゃんが頭を下げた。
嫁ちゃんも、もういっぱいいっぱいだった。
これまでの帝国の非道の数々。
俺も妖精さんも嫁ちゃんだって被害者なのだ。
「いえ! 自分は人類に奉仕するために作られましたので!」
「……作られた?」
「は! 自分は人類の進化のための実験体であります! 人類のために生まれ、人類のために死ぬのが自分のロードマップであります!」
すると嫁ちゃんはワンオーワンを抱きしめた。
ちょっと! 嫁ちゃん泣いてる!
「な、なにを?」
「もうたくさんじゃ! 欲望を満たすための幼生固定も! 母親たちの不幸な人生も! ルナへの非道な人体実験も! 婿殿たちジェスターの虐殺も! 誰も! 誰も幸せにならぬ! ワンオーワン! お前は人間じゃ」
嫁ちゃんからすれば許せないことだろう。
さんざん自分の人生めちゃくちゃにされてきたもんね。
「あ、あの……自分は……」
ぽんぽんっと母性の強いタチアナがワンオーワンの頭をなでた。
「アタシの故郷は……前のアタシの地元さ、ホントにくずみたいなとこでさ。女に産まれたら体売るしか生きてく方法ねえんだ。でもよ、アタシはそれが嫌でさ、地元の軍に入ったんだわ。自分で決めた。それで精一杯生きて死んだ。ワンオーワン。あんたも自分で決めなよ」
「自分にはよくわからないであります」
ここまではいい話。
ところがさ、俺たちはジェスター。
ここで台無しにする。
「ところで……あんたおっぱいでかくね? どうやったら大きくなるんスか?」
タチアナがいきなりセクハラ発言しやがった。
俺は悪くない。
なのに女性陣の視線が俺に刺さる。
いや俺じゃねえって!
俺は無実だ!
「自分たちゾークは人間と交配可能で、種を維持するために異性が求める理想の姿に近い容姿になるように設計されております。胸部装甲が厚いのもそのせいと思われます」
「胸部装甲言うな!」
「人間のオスは胸部装甲が好きと聞き及んでます!」
なんとも言えないぐだぐだ感が場を支配した。
すると我らのクレアさんが話の腰を折ってくれた。
偉い!
タチアナを一発殴っていいぞ!
「話を遮って悪いんだけど、我々が交戦中のゾークはこんな姿なんだけど心あたりあるかな?」
クレアがカニちゃんを投影する。
「これはなんでありますか?」
「我らが交戦しておる生命体【ゾーク】じゃ」
「わかりません。少なくとも自分の記憶しているところでは見たことありません」
「ではこちらは?」
今度はアレクシアを投影した。
「これならわかります! 乙種であります! 外宇宙特化の自分とは兵種が違い、敵国への潜入工作任務用のゾークであります」
「女性型がオリジナルだと!」
「は! 我々は外宇宙や敵地で力を溜め、来るべき日に備えるのが任務であります!」
「……それって……俺たちの中にゾークが潜んでる根本原因じゃ」
「ところで……」
ぽよんぽよん。
「なぜ先ほどから……この方は自分の胸部装甲に顔を埋めているのですか?」
タチアナがワンオーワンの胸に顔を埋めていた。
もんでいた。
むしろ顔にパイを挟んでいた。
さすがジェスター。空気を読まない。
むしろ鬱空気に気づくと壊しにかかる。
「それ以上はいけない」
俺はタチアナの首根っこをつかんだ。
「タチアナ、ハウス!」
「やだー!!! おっぱい触るー!!!」
「幼児になってもダメ」
いいやつではあるんだけどな……。
なんでこう残念なのか……。




