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第十八話

 何台もの輸送車が荒野を駆け抜けていく。

 惑星の大半が荒野になっているのは惑星の管理者、つまり親父がサボってるせいだ。

 ちゃんとテラフォーミング装置のパラメーターを適正値にしてやれば食料が多く過ごしやすい森林地帯になるはずだ。

 とはいえ、我が領地において統治学を学んだものが領主になったことがない。

 俺も何をすべきかは知っているが、具体的に何をどういじるかはわからない。

 ゲームでもだいぶ簡略化されてたから余計わからん。

 そんな酷い道を進んでいくと領都が見えてくる。

 外周には高い壁があって中央に領主の館というていのビルがある。

 その脇にはかつてあったショッピングモールの廃墟があって、領民が勝手に店を出してる闇市がある。

 スーパーマーケットはかろうじて残ってるが、首都のチェーンではなくこの周辺のローカルチェーンだ。

 要するに楽しい施設はどこにも存在しない。

 放漫経営の末にゆっくり衰退する地方惑星のリアルな姿だ。

 でも、これでも侯爵領のため他よりはマシらしい。

 そんな領都は周囲をぐるっとゾークに囲まれていていた。

 サム兄から通信が入る。


「周りの化け物を倒してくれ! そうじゃねえとお前らを入れられねえ! 入ってきちまう!」


 兄にしてはまともな内容だった。

 その辺がわかる程度には知性があったようだ。


「あいよ!」


 輸送車の扉が開く。


「クレア、出撃する」


「了解」


 ローラーダッシュで勢いよく飛び出す。

 荒野の砂が舞い上がる。

 他の輸送車の扉も開き中から標準機が出てくる。


「隊長! 一緒に突撃すんぜ!」


 メリッサが刀を抜いた。

 メリッサ・館花。

 サムライの一族である。

 メリッサの実家は剣術に秀でていて、その太刀筋は銀河中の海賊を恐れさせた。

 ……というのは約百年前までのこと。

 事実上弾丸が無制限のビームなどの光線兵器が標準装備になるに従い、戦術における接近戦の重要性は低下。

 CQC自体は存在するが圧倒的に機会は減った。

 ヴェロニカの近衛隊のように海賊狩りに特化すれば需要もあったのだろうが……プライドが邪魔したのだろう。彼らは衰退することを選んだ。(とはいえ近衛隊も光線兵器がメインウエポンだったのは変わらない)

 サムライたちは地位を失い、メリッサの実家も発言力を失った。

 かつて強者たちのヒャッハーパラダイスだったウルトラ大都会も今ではうちと同じかそれ以下の田舎である。

 農協とスーパーしかない。

 そんなメリッサの最大の弱点は練習機が彼女の動きに耐えられないことだ。

 昔ながらの腰を落とした構えからの神速の一撃。

 だが現在の主流は中距離~遠距離での撃ち合いである。

 刀の間合いに対応してないのだ。

 俺も同じである。

 練習機で今と同じ動きしたらすぐに壊れるだろう。

 で、その辺の問題をクリアしたのが今回のカスタム機である。

 刀で斬り合っていた時代の設計図や仕様を帝国図書館オンラインから発掘。

 ギアとエンジンコアを入れ替えて装甲を厚くした。

 ついでに俺の機体の関節もな。

 これで故障率は下がる予定だ。

 メリッサはそんなカスタム機を試したいようだ。

 完全に戦闘民族である。

 そしてさらに近衛のおっさんたちまで来る


「婿殿! 来たぞ!」


 おっさんたちは騎槍(ランス)を持っていた。


「皆の衆、我ら近衛隊の真の恐ろしさを化け物に教えてやるのだ!!!」


「おーッ!!!」


 はい絶対強い。


「おっちゃんたちで突撃。俺たちが続いて遊撃」


「作戦承認します」


 クレアが作戦を承認して駆逐艦にいる嫁へ送信する。

 作戦ってほどじゃない。

 でもこれしかないだろ。


「行くぞおおおおおおおおッ!」


 おっさんたちがローラーダッシュで突っ込んでいく。

 ゾークが気づいたがもう遅かった。

 次々とランスで蹴散らされていく。

 そして俺たちが遊撃っと。


「ぎゃははははははは!!!」


 テンションMAXのメリッサが突撃した。

 まずは跳び上がり頭上から急襲。

 ゾークを突き刺し着地する。

 刀を抜くと前のゾークを一刀両断。

 すぐに真後ろに振り返り、後ろのゾークも斬り捨てる。

 それは無駄とわかっていながらも極限まで鍛え上げた技だった。


「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」


 ゾークが吠えた。

 だから俺はゾークを槍でぶん殴る。

 ランスじゃなくてよかった。

 使い方わからんもん。

 とはいえ儀礼用の槍の型は幼年部で死ぬほど練習した。

 かろうじて槍は使える。

 正確には槍じゃなくて棒だけど。

 俺は近くのゾークを石突きでぶん殴る。

 手をスライドさせて今度は槍の部分でなぎ払う。

 チェーンソーじゃなくても戦えてる!


「うっわ、なつかしい! 学校でならったやつじゃん!」


 メリッサが笑う。

 上、下、上、下!

 ガツンガツンとぶん殴っていく。


「これっかできねえのよ!」


「あはは! 基本を大事にするとこ、かっこいいぜ!」


 照れる。

 するとクレアが言った。


「基本だけじゃないよ!」


 ドンッと複座の砲台が火を噴いた。

 はじき飛ばされたゾークが宙を舞った。

 すげえ威力!!!


「砲台もカスタムしたよ!」


 それにしてもカニ型だけでよかった。

 開戦時だからまだ敵が弱い。

 これが主人公が入学してから三ヶ月後とかになると強敵が出てくる。

 二足歩行の巨人型。

 普通のゾークよりも装甲が厚く、普通のゾークよりも器用で、普通のゾークよりも大きい。

 そうあの壁を壊そうとしてる変態みたいな……。

 目が合った。


「新型がおるー!!!」


 対ロボ用の新種だ。


「ジェスター……いた」


「喋った!!!」


 知性のあるゾークだと……。

 おいおいおいおい、なにがあった!?

 こんなショボい惑星で出会うような化け物じゃねえだろ!


「ジェスター……殺す」


「婿殿! チャンスじゃ!」


 嫁から通信が入った。


「仮に相手に知性があるとするのなら、この場で完膚なきまでぶちのめすのじゃ。ジェスターに逆らった愚かさを、恐怖を身に刻んでやるのじゃ!」


「完全に悪役のセリフですよね!!!」


「ええい! 婿殿! 家族を助けるんじゃろ!? ならやれ!」


 たしかにその通りだった。

 俺はローラーダッシュで新種に向かって走っていく。


「殺し合おうぜ! 新種さんよぉ!!!」


「婿殿に続け!」


「俺も行くぜ!!!」


 これが伝説になるなんて……この時点で誰が予測できただろうか?

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― 新着の感想 ―
ジェスターを知っている…いるのか?この星の近くに。ゾークの最高指揮官が。
[一言] 前回の不良がダメすぎたせいか、お兄さんはそんなに無能じゃない気がしてきたな 最初の通信の時もすぐに撤退の命令出せてたし、今回も状況を理解できてるし
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