第百七十九話
おっぱいのことしか頭に残らぬ。
これは長い長い発情期を有する我ら人類にはあらがえぬ現象なのだろう。おっぱい。
タチアナの板を見る。ふっ……。
「タチアナおやつ食うか?」
「死ね!!!」
蹴られた。
「レオくん、実はタチアナちゃんと血が繋がってたりしません? その……あまりにも息が合いすぎてて……」
「タチアナのお父さん……元侯爵だったりしない?」
「んなわけねえだろ。地元のチンピラだよ!」
身元調査はしっかりされてる。
それにさすがに近親相姦は嫁が許さないだろう。
嫁ちゃんの地雷原でタップダンスを踊るようなものだ。
そんな陰謀が進行してたら草の根分けても責任者を抹殺するに違いない。
「よーし、タチアナ。おっぱい見に行くぞ~!」
「おー!!!」
「……あの二人行動がそっくりだよな?」
メリッサがそうつぶやくとレンが高速でうなずいた。
「幼年学校の時のレオみたい……」
クレアも爆弾を投下。
「もしかして! レオくんの子どもですか!!!」
妖精さんが斜め上の結論をぶちかます。
「ねえよ! 俺、タチアナの二個上だぞ! 十月十日換算すると……一歳で孕ませたんか!」
「び、ビースト……」
妖精さんさあ……。
「レオ隊長……野獣すぎる……」
「タチアナまでなに言ってんの!?」
「おらあああああああああああッ!!! おめえら! イチャついてんじゃねえぞ!!!」
男子どもがなぜかキレた。
少佐になってから下からの突き上げが酷すぎると思うのよ。
さて廊下を進んでいく。
機密性が高いのか雨漏りもせず施設はきれいだった。
通風口も苔なんか生えておらず、清掃昨日も生きているみたいだ。
たまに見える部屋には実験器具らしきものが放棄されたときのまま置かれていた。
よく見るとメンテナンス用のドローンが清掃をしていた。
プラズマで微細なゴミを焼く最新式のと違って、回転するブラシでゴミを取るタイプのようだ。
施設内にかすかに響くモーター音はドローンのもののようだ。
ここまで警備ドローンはなし。
おかしいなと思いながら進んでいくと警備ドローンがいた。
電源が入ってない。
段差でコケて動けなくなって充電できずにバッテリーが切れたようだ
「あー! 資料でしか見たことない! まもるくん!」
妖精さんが声をあげた。
「なにそれ?」
「軍の警備ドローンです。ハッキング対策でAIもネット接続ないやつなんです。決まったルートを設定してそこを巡回するんですが……段差に弱いのと軍の備品よりも、まもるくんの方が高価なんで盗難が相次いで生産中止に……」
なぜ作る前に気づかなかった……。
するとクレアは何かを思いつく。
「ってことは施設の年代をかなり狭い範囲で特定できるんじゃない?」
「おおー! さすがクレアちゃん! いま特定しますね。えっと私の時代から100年くらい前……おっと、603年前から605年前ですね」
「そのころは銀河共和国が存在してたの?」
「おそらく。公爵会くらいの規模の小国家かもしれません」
「帝都惑星のこんな近くで?」
公爵会の領地は帝都惑星のすぐ近くだ。
日帰り可能な距離である。
いくら600年前でもその距離はないだろ?
「それもそうですね……なんだろう?」
よくわからないな。
俺たちは裸の美女を目指す。おっぱい。
おっぱいの部屋に着く。
中はやたら広い空間だった。
中に入ると異様な光景が広がっていた。
異常な数のケーブル類が床を伝っていた。
そのケーブルの先には自分を機械化したと思われる白骨死体があった。
だって頭蓋骨の半分が機械になっていたし。
あれ? いつからジャンルがサイバーパンクになった?
そしてドローンで確認した場所に行く。
ケーブル類は謎の死体があった場所より少ない。
通風口の蓋が外れていた。
ケビンのドローンはここから侵入したんだと思う。
裸の美女は……おおう!
「姐さんと同じサイズ!!!」
「タチアナ! ケビンを例に出すな! 賢者になっちゃう!」
スンってした。
一気にえっちな気分はどこかに消えてしまった。
たしかにでかい。
メリッサもレンもクレアもエロスが消えた俺を見ても何も言わなかった。
だってえっちな目で見てないもん。
ふむ……暗いから微妙にわからないけど、おそらく黒髪をロングにした女性。
年齢は俺たちと同じくらいから成人くらい?
タチアナから大学校生くらいかな。
「コントロール装置発見!」
おそらく当時の最新鋭ワークステーション機が置かれていた。
だって思いっきりワークステーションって書いてあるもん。
「うっわ、これまた博物館もの! いじっていいですよね!!! はいそこ! 室内ネットワークに侵入するんでケーブル剥いて端末繋いでください!」
「はいはい」
ナイフでケーブルを剥くと銅合金の線が出てきた。
ポータブル端末を出して電気計器モードにした後、ピンチ型の計測端子をつけて銅線を挟む。
工兵課程修了してるのでできてしまう。
「んじゃ、行ってきまーす!」
「へいへーい。お土産は裸の美女ね」
すぐに部屋の電気がついた……けど暗い。
耐用年数がすぎたどころの話じゃないからな……。
装置の電源がついた。
「コンデンサが死んでないんで普通に動くと思います。生命維持装置も動いてるようです。中の人生きてるっぽいです。蘇生させますね」
「よろー」
装置が動くと中の液体が排出される。
まだ早かったんだってどろっと溶けたらやだなって思ったけど、それもなし。
中の美女は液体が排出されるとへにょっと床に倒れ込んだ。
なぜ横置きにしない。
設計がおかしいだろ。
「筋力がだいぶ落ちてるんで担架お願いします」
「へーい。野郎ども! 美女を運ぶぞ!!!」
「うおおおおおおおおおおお!」
謎のテンション爆上げである。
俺たちは
女性を装置から出す。
ちょっとフタが錆びてて引っかかってたけど、そこはバールでこじ開けた。
薄暗い照明の下で見た女性の髪は濃い緑色だった。
「あったあった! えっと……実験体101……おおう……」
また国家レベルの隠蔽された黒歴史を掘り起こしてしまった。
「みんな……本当に触れちゃいけないものだったら……みんなで夜逃げ……しよ?」
するとレンが優しく後ろから抱きついてきた。
「旦那様……いまの旦那様なら返り討ちできますよ……」
やだ怖い。




