第百七十六話
みんなにかまけてクレアを様子を見るのを忘れてた。
土下座で謝ろうと思う。
だってクレアだけ婚活も人脈作りもしてない。
かといって俺の嫁というわけでも……そこは棚上げになってる。
まずいなと思って会いに行った。
まずは部屋をノックする。
「あのクレア……進路の話を」
「入って」
「お、おう」
「ん」
中に入るとドサッとファイルを渡された。
「なにこれ?」
「協力者の名簿」
「え?」
「軍部を中心として交易できそうな惑星の領主に会社に非営利団体、こうなるのを予想してみんなで協力していくための構想」
「これ……嫁ちゃんは?」
「一緒に作ったの。私たちはただの学生だから……協力しようって。うちのスーパーも入ってるよ。産直やってるから」
俺たちの領地はだいたい一人一惑星。
公爵が治めてた条件のいいところばかりだ。
ある程度の希望や変更は聞いてもらえた。
レンみたいに差別対象の種族なんかは、もらった領地を自分たちの種族のために使おう計画してる。
中にはわざと普通の人類には過酷な惑星をもらったものまでいる。
クロレラ処置をされた男子だ。
レンも同じで公爵の私的な別荘地で住民がいない惑星をもらった。
あまり大っぴらにやりすぎると、今度は嫉妬を買う。
開発途中で放棄された資源採掘用惑星や公爵の別荘は嫉妬から身を守ってくれるのだ。
だって外には【たいへん不便な惑星です】ですませられるもの。
ケビンは洗脳の解けた人型ゾークを集める方針だ。
だから反乱が起きないように監視する兵士が常駐可能なコロニーを希望した。
だけど嫁ちゃんが「惑星の方がランニングコスト安いのじゃ」という言葉で公爵ランクでは並くらいの惑星をもらった。
そこにゾークの研究所が作られることになった。
で、無罪確定した人たちを移住。
ついでにショックで壊れたウォルターの転地療養先にもなった。
うーん、みんな将来を考えてる。
それに比べて何も考えてない流されるままの俺氏……。
俺と比べてクレアの圧倒的有能感よ!
「で、その……クレアさん自身の進路は?」
「私に言わせる?」
「……そうっすね」
はい、ちゃんと言います!
「嫁に来てください……えっと実は前から気になってました」
俺が目覚める前から、めっちゃエロい目で見てたもん。
俺の女感出してたもん!
さすがに現在の俺になってからは自重してたけど。
そういうヤンキー(童貞)しぐさ……見苦しいぜ。
俺はそういうの卒業して、ヘンタイ(童貞)にクラスチェンジしたのさ。
カッコ内はやくなくならねえかな……。
クレアはほほ笑んで答えてくれた。
「うん、前のレオは嫌なやつだったけど……最初の襲撃であなたは変わった。すごく自然になったね! うん、いまのレオだったら……好きだよ。あなたの妻になる。……でも、ちゃんとヴェロニカちゃんに報告しなさい、ね」
「うっす」
するとクレアの部屋のドアが開いた。
「報告なんてせんでいい。こっちはちゃんと告白するかヒヤヒヤしてたぞ」
嫁ちゃんである。
さては監視してやがったな。
「あのな、妾は最初からクレアを嫁にするつもりだったのじゃ。なのに鈍感のクレアに気を使い過ぎの婿殿……二人とも先延ばしにしおって。もう妾は天然ボケ二人を見てやきもきしておったぞ!」
自分の夫の甘酸っぱい青春の観客に徹する我が嫁。
もうなんてコメントしたらいいかわからないよ!
「これでめでたしめでたしじゃ! カーッカッカッカ!!!」
なぜか本人は勝ち誇ってる。
嫁公認の愛人と言うだけでも異常ではあるが、そもそも国家が俺の子孫を欲しがっているという頭のおかしい展開ではある。
大人になるってたいへんだわ……。
うん、あきらめよう!
その後、さあこれからバカンスを楽しんで。
って思ったら、大量の書類が届いた。
「皆の衆! 家臣候補の書類じゃ!」
公爵家親類縁者で家長が今回の武装蜂起の処分対象だけど本人は思想的に対立してないもの。
公爵家騎士で今回の武装蜂起に関わってないもので、親類が処分されたもの。
その他使用人で解雇対象で思想的に問題なく本人が希望するもの。
などの再就職先としてみんなの領地に推薦した。
帝国士官大学校や帝都の大学を卒業したエリートぞろいだ。
でも領地が広すぎて異常なくらい数が多い。
なので領地を見直すことに。
さらに帝国が所有したり、レンの家や俺の領地で管理しきれない惑星をみんなで分ける。
ここで、シャーアンバーことサイラス兄さんも加わって領地&人材ドラフト会議。
帝国の領地指定や嫁ちゃん案、さらにケビンたちの意見を加えた最新案をさらに修正する。
はっきり言って領地が広すぎるのよ。
領地が広すぎるから官僚組織が腐るし、武装蜂起なんかするわけだ。
というわけで管理しきれない惑星もサイラス兄さん入れて会議……って思ったらあちこちに通達が行って関係者全員での巨大会議になった。
最終的に惑星が余るという結果になったが、俺の領地もスリムになった。
で、俺が仲間に領地を分けたっていうと不満が起こるので、【カミシロ本家と愉快な仲間たち】というくくりにして俺が大公を拝命することになった。
要するに責任者が俺んちと明確にされたわけである。事務仕事で死ぬ。
ほぼ小国家だもんね……。公爵会。
なんでいままで見過ごされてきたんだろう。
新たな公爵会にならないようにしたいけど……数百年後はどうなるかわからんな。
とりあえず大量の伯爵級領主で公爵会の領地を分けて終了したわけである。
で、こうなると当然【カミシロ本家と愉快な仲間たち】が一つの部隊にいるのヤバくね?
って話になるわけだ。
俺もそう思う。
体勢が安定する前に全滅したら戦国時代になる。
というわけで大量の兵士が編入されたのだ。
もはや師団レベル。
で、【大公閣下が大尉ってどうなの?】って疑問があちこちからわく。
わくように仕向けたでしょ嫁ちゃん!!!
というわけで俺もとうとう少佐になってしまった。
俺も抵抗した。
レイモンドさんや関係先各所に泣きついて大佐まで三年の猶予をもらった。
死ぬ。
あと文官や秘書やら専門の事務職員やらをつけてもらった。
そして、そんなギリギリの俺の心を癒すのは、いきなり中間管理職になった部下たちの姿。
泣きながら公爵邸で書類仕事してる!
くそざまぁ!!!
俺の苦労を思い知れ!!!
バカンスってなにそれ?
ふははははははははは!!!
他人の不幸は蜜の味……え? 俺も仕事追加? ガチで?
こうして大公という悪は滅びたのである。
ふええええええええええええん!!!
嫁ちゃん膝枕して!
俺を癒やして!!!
あ、仕事終わせたら、はい……。
後に歴史的成り上がりとして記録されるハウンド隊の英雄譚。
そこには事務という最大の敵と死にそうな顔で戦う英雄たちの姿は、一切! 毛ほどにも! いつの間にか床に転がってるすね毛ほどにも……記録に残らなかったという。




