第百七十五話
恐ろしい事に俺たちがボコボコにした連中は奇跡的に一命を取り留めた。
研究者によればジェスターの能力とのことである。
要するにギャグ時空補正である。
つまり俺たちの戦いは虐殺ではなかったし、弱いものいじめですらなかったということになる。
これで俺たちの名声と精神状態は保たれたわけである。
「もしかすると敵が頭悪くなったのかな?」
そう思って執事さんに聞いてみたら、佐藤分家は元からあんな感じだったようだ。
アホの集団というか価値観が数百年前から進化してないそうで。
己の武勇を示す。 → 好待遇。
と本気で信じていたようだ。
俺の知らない価値観である。
そんな連中が革命の動乱で奇跡的に勝ってしまったのだろうか?
歴史を見てもありえる話ではある。
さらに俺たち学生にボコボコにされた話もだ。
やはり帝国皇帝やその側近という身分がやつらを強くしていたのだろう。
そう地位が人を成長させるのだ。
でも俺はまだ【佐】になりたくないでゴザル。
なお、ぜんぜん残念じゃないけど残念なことに佐藤柔道だけ死亡した。
俺たちの攻撃じゃないので死を避けられなかったようである。
さて、現在入院中のアホどもであるが、命は助かったんだけど未来は暗い。
裁判で死刑じゃないかなって思うんだよね。
普通に反逆罪だし。
佐藤柔道殺害犯である佐藤雄留臥は普通に殺人だし。
戦時だからって寝言ほざいてるけど許されるわけがない。
だが俺が関与できる余地は少ない。
そっちは嫁ちゃんに丸投げである。
もちろん、賢い嫁ちゃんはレイモンドさんと皇室専属の弁護士チーム、それに刑法専門の大学教授チームに投げた。
あとは検事や裁判所と【話し合い】という名のゴリゴリの命令が下されるだろう。
で、ここからが問題だった。
緊急招集で食堂に集められた士官学校の連中。
みんな戦闘より疲れた様子で呆けていた。
「お見合い……もうやだ……」
どうやら戦いは全銀河に中継されていたようだ。
俺たちの圧倒的強さに、いままで俺の付属品としてしか世間に認識されてなかった士官学校生が脚光を浴びた。
男子女子問わず写真やプロフィールが出回り、平民であっても侯爵家クラスから見合いの打診が来まくった。
嫁ちゃんフィルターでさんざんそぎ落としたのよ!
すんげえ悩んで選定したのよ!
それでも嫁入りや婿入り先のファイルが山のように積まれていく状態だった。
「やはり軍閥が多いのう」
「そりゃね、求められてるのは兵士としての優秀さだし。ほれ、明日の見合いな」
俺は男子どもにファイルを渡す。
いやー、公爵邸にイベント会場あってよかったね!
「あ、そうそう。議会の承認が出たぞ。士官学校生徒諸君! 今日から皆は伯爵じゃ!」
「ふぁ?」
全員が声をあげた。
そりゃそうなるわ。
士官学校なんかに入れるくらいだから、みんな当主になれない身である。
かつては俺もそう。
貴族でも弟妹……というか末っ子や婚外子が多い。
レンは公爵家のお嬢さまだけど、愛人の娘だし、メリッサは末っ子だ。
ケビンやタチアナに至っては完全に庶民だ。
他のみんなも同じだ。
男子も女子も長子の家臣になるか平民として生きるしかない。
それが今日から伯爵家当主だって言われても困惑するだろう。
「領地はこの辺な」
「ヴェロニカちゃん! それ首都の近くだよ! 公爵領だよ!」
「うむ、切り分けた。議会も今回の件で首都近郊は帝国に忠誠を誓うものたちで領地を分けた方がいいと結論づけた」
要するに大領地を持つ貴族なんかより、忠誠心が高い多くの領主を配置した方がいいという判断になったわけだ。
防衛戦で一度に大軍を動かせないけど、反乱も起こせないという方を選んだ。
ゾーク対策に関してはそれぞれが強いからいいんじゃねと。
納得はできる。
そして俺はほくそ笑んで言い放った。
「上位貴族当主の世界へようこそ!」
「嫌だ! 書類仕事なんてしたくねえ!」
「レオの仕事なんてしたくねえええええええええええッ!!!」
「だ、誰か! 誰か内政能力の高い結婚相手を!!!」
みんな一斉に恐慌を起こした。
普段の俺を見ての反応である。
だって男爵子爵と違って伯爵になると「お殿様」だもん。
領主だけど上位の仕事が求められる。(俺の実家はできてなかった)
「おう、やる気を出したな! 皆の衆! がんばれ!」
嫁ちゃんが邪悪にほほ笑んだ。
この時からみんなの婚活はガチになった。
「実家が事務官を派遣してくれる? よし会うぞ!」
「こっちは人柄が良さそうだ! 騎士の家か! 親は領地経営の経験が豊富だ! ヨシ!」
「ふええ、この人イケメンなんだけど……」
「イケメンとか寝言ほざいてんな! よしアタシはこの男に会うぞ!」
やつらは本気だった。ガチだった。
マッチングアプリ感ゼロ。
政治的必要性と【人柄良ければなんでもいいや。生活が地獄にならなきゃ】というところまで希望が落ちたゆえのガチ。
後ろ盾が皇室しかない伯爵なんてハードモードだもんね。
むしろ頭脳上位陣、特に大学校勢はこの婚活を人脈作りと割り切って行動していた。
すごいよ。婚活なんてしながら提携先の領主増やしてるの!
よさそうな相手がいればさっさと婚約しちゃってるの!
なんであんたらそんなにフットワーク軽いの?
ビビリ散らかしてる高等部生とは違いすぎる……。
これが……頭脳の……差か……。
なお院生は婚期の真っ最中勢が大多数なので最初からガチだった。
今回一番粘土が高かったのは彼らだろう。
で、こういうの感じ悪くないかなって心配してたら、すごく評判がよろしいとお褒めの言葉をもらった。
将来像が固まってて、未来の展望を結婚先の家と共有できる姿が好感を持たれたそうで……。
いや……それ、いきなり伯爵になったからパニックになってるだけ……。
余裕なのは俺と俺の嫁たちだけである。
あとケビンとニーナさん。
ケビンは市民権回復したけど元ゾークということで嫁ちゃん預かりの身だ。
さすがに高リスク案件でみんな様子見だ。
士官学校の連中は【レオの女だからじゃね?】と言ってるが、やめろ。
ニーナさんは実家が海賊から異例の領主任命だ。
これも様子見だろう。
で、頭がゆるくなったところで休み。
みんなハジけた。
「ひゃっほおおおおおおおおお!!!」
海で遊びまくる。
ピゲットたちも疲れたようで海辺でくつろいでる。
今日はめんどうなこと考えずに遊ぼう!
ひゃっほーい!!!




