第百七十四話
惑星級要塞は正面から戦ったら勝ち目がない。
そりゃ誰でもわかる。
サイズが違うし。
嫁ちゃんの戦艦よりもはるかに大きい。
勝ち目ないよね。
普通にやったらね。
でもね、俺らも学生と言えども帝国軍士官。
この手のデカブツ相手の戦略も知識としては学習してるのだ。
そう、難関校入試にありがちな嫌がらせ難問枠としてな!
講義の雑談で必ず語られる伝説の嫌がらせ問題なのだ!!!
だから俺たちも答えを知っていた。
そう……。
「工兵課程履修者は外壁を爆破して侵入経路を確保! 戦闘機班は敵を撃墜!」
できるわけねえだろボケが!!!
そう、こいつが模範解答なのだ。
こんなのさせてくれるはずがない。
当たり前だ。
だってこの大きさの要塞の中にいる兵士の数も惑星級。
そりゃ惑星級要塞が守る側なら、よほど油断してたら侵入できるかもしれない。
攻めてきてるときにそんなのさせてくれるはずないよね!!!
武装した兵士が押し寄せてきてるんだから!
……俺たちじゃなきゃな!!!
「レオ・カミシロ突撃します!!!」
普通種の戦闘機の群れが押し寄せてきた。
直線は向こうが上。
旋回性能はこっちが上だ。
一斉にミサイルを発射した。
普通なら撃墜だ。
だが、あのシミュレーターでは開始一秒の洗礼でしかない!
俺はスラスターを操りミサイルの隙間をかいくぐる。
俺に接近したミサイルが爆発するが、そのときに俺はもうそこにはいない。
その動きにパニックを起こした敵がプラズマ砲を乱射するが、どれも俺を貫くことはなかった。
当たるものと当たらないものをちゃん選定して、最小限の動きで回避する。
ふはははははは!!!
俺は攻撃なんて考えない。
敵集団を引っかき回すだけだ。
そして……。
「着弾! レオ! もっと逃げ回って!!!」
クレアの通信が入る。
俺は敵を挑発しながら逃げ回る。
敵だってバカじゃない。
攻撃を受けてるのがわかれば攻撃してるやつを倒そうとする。
だけど無理だ。
「ドローン支援開始します」
ケビンのスポッター能力はそりゃ恐ろしいほどの水準だ。
100体同時ロックオンからのドローン攻撃。
そのオペレーションを化け物じみたスピードで管理できるのだ。
AIよりも速い。
次々と戦闘機が撃墜されていく。
敵の防衛ラインが薄くなればこっちのもの。
士官大学校生を中心とする工兵班が爆弾を仕掛ける。
ここでようやく焦った敵が人型戦闘機の主力を出す。
判断が遅すぎる!!!
しかも人型戦闘機パイロットはぬくぬく育ったお貴族様だった。
「ふはははは!!! レオ・カミシロ!!! 我は佐藤美談! 正々堂々と一騎打……ぐわあああああああああッ!!!」
一刀両断。
戦斧振り回してたから攻撃していいんだよね。
というか一騎打ちなんて応じる義務なんかねえ!!!
「美談がやられた!!! この人でなし!!!」
「うるせええええええええええッ!!!」
俺は人型戦闘機の群れに突っ込んでいく。
続いてメリッサもクレアも突撃した。
その後ろには男子どもが。
毎回やってるフォーメーションだ。
このフォーメンの素晴らしいところは殲滅スピードだ。
恐ろしい勢いで敵が増えていくシミュレーターにおいて殲滅スピードこそ重要なのだ!
メリッサが敵を切り裂き、クレアのナックルが頭部を破壊する。
男子どももライフルで敵を撃ち抜き、別のものは剣で敵を突き刺した。
さらにはレンのスナイパーで敵が撃ち抜かれていく。
「あ、あああああああああああああ! や、やめ!!! 降参! 降参だあああああああ!!!」
佐藤柔道が泣きながら通信を入れてきた。
知らん。
「我が妻の承諾取ってくださ~い」
「レオ! 侵入経路確保!!!」
「おっしゃ! ぶち殺すぞ!!!」
「もう、やーめーてー!!!」
嫁ちゃんは静観してた。
「嫁ちゃん、どうするよ?」
「武装解除もしてないのに何をほざいておるか! 作戦継続じゃ!!!」
ですよねー!
「ぜ、全軍! ぶ、武装解除!!!」
佐藤柔道が武装解除を命令した。
だけど人生ってのは常にビターだ。
通信に銃声が響いた。
「我は佐藤雄留臥である! たったいま我が総司令官に就任した!!! かかって来いレオ・カミシロ!!!」
あー、うん。死亡確認。
皇帝ブーストがないラスボスの小物感よ。
原作だともうちょっとラスボス感あったぞ。
やはり社会的地位が人を成長させる説は本当なのかもしれない。
工兵が作った進入口から中に入る。
人型戦闘機でも入れる。
やはり大型の要塞は通気口すら大型なのだ。
巨大なファンが回ってるので破壊しながら進む。
入った先は工場区画だった。
「惑星級要塞A地区、生命維持装置停止、酸素濃度低下。隔離壁降ります!」
当たり前だけど区画の防災用シャッターが降りる。
でもさ、中の壁だから外の装甲より断然薄い。
俺は壁を破壊してさらに別の区画に入る。
次の区画は広場のある住居区画だった。
人はいない。
そりゃ要塞として本格的に運用してなければ人を入れる必要はない。
だけど、ここには公爵家の騎士が人型戦闘機に乗って待ち構えていた。
「レオ・カミシロ!!! 一騎打ぎゃあああああああああああああッ!」
アホの子にはセリフさえ最後まで言わせない。
だって弱すぎるだろ! このアホども!!!
メリッサもクレアも男子どもも同じ考えだった。
せっかくの休暇。
南国リゾートでのまったり修学旅行。
それを台無しにされた怒り……じゃなくて、えーっと、義憤?
うん、たぶん義憤。正義の心がバーニングファイアだったのである。
全力でぶっ潰す。
その身に刻め。
レオ・カミシロとハウンド隊の恐怖を!!!
俺たちは公爵軍をボコしてまわった。
そして最奥に到達。出て来たのは……。
フルアーマーのトゲだらけの機体。
それがこれまたトゲ付き鉄球を振り回してた。
「ぐははは! 我こそは正当なる佐藤公爵家当主佐藤雄留臥であぶッ!!!」
クレアの拳が顔面を直撃した。
「もう、うるさい」
いいかげんクレアさんもイラついていたのだろう。
クレアの腕に搭載されたパイルバンカーが火を噴き、杭が雄留臥機を破壊した。
こうしてラスボスを圧倒的な力でねじ伏せ、何にも解決しないエンドを見事回避したのである。




