第百七十二話
さて……うちの嫁ちゃんは【海賊狩りのヴェロニカ】だ。
つまりどういうことかというと……あいつら死んだわ。
嫁ちゃんはソワソワぴょんぴょんしてる。
あーはいはい。
レオ・カミシロ!
出撃します!!!
というわけで宇宙港で出港用意。
バシバシ砲撃が降り注ぐ。
「旦那様。敵は惑星佐藤分家ZZ代官佐藤柔道です」
「うん?」
佐藤柔道。
この名前、記憶にあるぞ。
なんだっけ……えーっと、革命ルートで主人公の前に立ち塞がる……。
ラスボスじゃん!!!
なんだ結局、佐藤家は乗っ取られるんじゃん。
あれ?
でも革命ルートのボスって強かったような記憶が……。
たしか……惑星級要塞だ。
「妖精さん、もしかして佐藤家って惑星級要塞持ってないかな?」
「うん? 調べますね~。ばっちり持ってますね~」
全員に通信。
「あー……みんな、悪いお知らせです。佐藤家は惑星級要塞持ってやがりました。調子こきまくってるのは惑星級要塞持ち出したからだと思われます」
「あー……うん、婿殿。どうする?」
「なあ、婿殿。なぜそんな表情してるのじゃ?」
あー、うん。
俺は本当に無の表情だった。
「だって、シミュレーターより地獄じゃないし。なー、みんな」
「だねー。このくらいじゃ、まだ余裕あるなって感じだよね」
メリッサは本当に余裕だった。
「旦那様、夕飯どうします? 肉料理作りましょうか?」
レンもスナイパーカスタム機の照準のキャリブレーションをしながら余裕の表情だ。
もはや戦いよりも夕飯の心配をしてる。
ケビンですらドローンのテストをしているほど余裕だ。
慣れって怖いよね。
あまりにも余裕こいてたら通信が入った。
嫁ちゃんの軍艦から。ピゲットである。
「……相手は惑星級軍艦を用意してると聞いたが……婿殿、本当に大丈夫か? まだ確認されてないそうだが」
そのときだった。
直感が働いた。
「来ますね」
俺がつぶやくと今度は兵の慌てる声が聞こえた。
通信はカミシロ公爵軍の斥候だ。
「み、未確認の軍艦を確認!!! わ、惑星級!!! う、うわああああああああああ!」
通信途絶。
「悲鳴はわかるんだけどさー。惑星級の軍艦をいままで認識できてなかったっておかしくない?」
「やつらもグル……だろうな」
ピゲットはそう言うと深くため息をついた。
「公爵軍でこれか……前々から思ってたが婿殿は引きは悪いよな!!! 死なないだけで!!!」
嫁ちゃんに怒られた。
そうなんだよね。
俺、運がいいわけじゃないんだよね。
変なもの引き寄せるだけで。
「婿殿。……勝つつもりか?」
「勝てると思う」
「わかった! 出港じゃ!!!」
嫁ちゃんの軍艦が大空に向かう。
空からはプラズマライフルやらプラズマ砲やらの一斉射撃が降り注ぐ。
そのたびに宇宙港の職員が悲鳴をあげた。
でもさー、俺たちには脅しにすらならんのよ。
だって遠すぎて嫁ちゃんの戦艦の装甲を貫けないもの。
だめだよー。本気で殺るなら近づかないと。
そんなんじゃシミュレーターのソロ攻略すら無理だぞ。
「き、貴様ら! なにを考えておる!」
なんか敵から通信が入った。
「なにって、お前らぶちのめしに宇宙へ」
思わず素で答えてしまった。
すると相手は激高した。
「な、なぜだ!!! なぜ恐れぬ!!!」
「いやだってリニアブレイザーに囲まれるよりは危機的じゃないし。おっと宇宙空間に入った。へいへい、いまから殴りに行くね」
通信終了。
俺たちは人型戦闘機で出撃した。
まずはライフル……と思わせて盾と剣もって突撃。
免許持ってないタチアナだけは船で雑用である。
「ふはははははは!!! 見える! 見えるぞー!!!」
シミュレーターではない。
本物の殺気のせいか、ビームだろうがミサイルだろうが当たる気がしない。
というか男子どももシミュレーターだと難しいビームのパリィに挑んでる。
盾でビームを全部受け止める前に角度反らして霧散させる技だ。
上手くやるとビームを跳ね返すことができる。
これみたいに! おりゃ!!!
ボンッとビームを撃った敵の隣にいた人型戦闘機が爆発した。
「あははははは! 俺は盾使わないからできないけど、おもしろそうだよね!!! あはははは! 行くぞ!!!」
本当にちょっと公園で運動してくるってノリでメリッサが前に出た。
公爵軍がメリッサの機体に一斉射撃するが当たらない。
「あはははははははー!!!」
敵は一刀両断にされていく。
俺も行こうっと。
俺は剣と盾の標準装備で突っ込んでいく。
剣はゾーク相手じゃないからプラズマブレードだ。
俺の機体【殺戮の夜】はピーキー性能だ。
なんというか異様なほどの応答性能だ。
というか人類の応答速度の限界近くを突いた性能だ。
つまり考えた速さと同じ速度で操縦できないとまともに動かない。
これ設計したやつバカだろ!
だけど俺にはちょうどいい。
一斉射撃を最低限の動きでよけていく。
公爵軍のアホどもには俺が直進してるように見えるだろう。
「う、うわ、投降ぉ……」
ザシュッとな。
一刀両断された機体が爆発した。
そんなギリギリで言われても止まれないって。
いままでこいつら公爵軍かなって思ってたけど、この弱さ……もしかして海賊か?
俺たちは敵を蹂躙していた。
痛めつけるなんて非道なことはしない。
というか、シミュレーターやってたらそんな余裕はないことを知ってる。
ただ最小限の時間と力で殲滅しただけだ。
敵の戦艦が見えた。
惑星級じゃない。普通の戦艦だ。型が古い。公爵領の型落ち品。……海賊だな。
「ま、待て! 投降する! まいった! やめてくれ!!!」
通信が入ったけどもう遅い。
だって、もうそのとき、レンのスナイパーが発射されちゃったんだもん。
レンのスナイパーライフルは恐ろしく正確だ。
どのくらいかと言うと、戦艦の弱いところを撃ち抜くくらい。
止めようかなどうしようかなと思った瞬間、戦艦は爆発した。あーあ。
「あ、悪魔か貴様らは!!!」
まーた、佐藤柔道のおっさんから通信だ。
だって降参するのが遅いんだもん。
もう撃墜が確定してから命乞いするんだもん。
助けられないよ。




