第百七十一話
軍から派遣されたジェスターの調査チームが領地にやって来た。
俺、アリッサ、それにタチアナの検査をする。
毎月やってるものなので通常の任務の一部である。
血液検査などの各種検査。
身体能力の測定。
そこに今回は聞き取り調査が加わった。
そりゃね、ジェスターの能力なんて威力を測ることなんてできないけどね。
三人とも同じ部屋で椅子を並べて座る。
すると眼鏡をかけた優しそうなおっちゃんが質問してきた。
「ご家族の怪我や病気の話をお聞かせください」
家族の怪我かよ。
まずはアリッサが答えた。
「うちの父ちゃ……父は大工だったんですけど。何度も屋根から落ちたんですけど不思議と大怪我しませんでした」
次はタチアナ。
でもタチアナはクローンなので、今回の話はあまり関係ないだろう。
「アタシは……そういや母親も妹たちも急に怪我しなくなったって聞いたな。治安悪いから生傷絶えないのに」
「大尉は?」
今度は俺かよ。
「そういやうちの領、ピューマっていうか、ちょっと大きいやつ出るんですけど、士官学校入る前に父が襲われましてね」
「その猛獣の大きさは?」
「だいたいライオンの1.5倍くらいですかね」
たまに死骸が見つかって、調査すると体重400キロくらいあるしね。
帝都惑星のヒグマくらいの大きさかな。
「ほぼ怪獣だね。それで」
「必死に逃げたんですけど、護衛に置いてかれて尻を噛まれましてね。猛獣も父を放り投げてズボンだけ盗って満足したみたいで……フルチンで家に帰ってきましたね。一ヵ月くらい不機嫌でうざかったですね」
俺を思い出す前のレオだ。
思い出していくと、俺だけじゃない、家族の数々の黒歴史がある。
うむ、俺とその家族だ。
「他にも上の兄が爆竹尻に挟んで」
「結末が予想できるからもういいかな」
ひどい!
のたうち回るまでがオチなのに!
「うん、わかった。報告させてもらいます」
「これなんの調査なんですか?」
アリッサが聞くと技官のおっさんはほほ笑んだ。
「ジェスターの能力の効果です。君たちは、タチアナ一等兵はつい最近からだが、家族の大怪我や死を回避してたようだね。特に大尉。そのサイズの猛獣に襲われたら普通死ぬよ」
「うちじゃ猛獣に襲われるのは面白ハプニングくらいの扱いだったんですけど」
「おそらくジェスターの能力だろう。これは報告させてもらう」
なんて話をして今度は面会。
怒濤の佐藤ラッシュ。
佐藤家の親戚でみんな佐藤。
なんで役職で判別するしかない。
「惑星佐藤分家Z代官の佐藤さんですね」
「は!」
変形しそうなのが来た。
甘えた天パを鉄拳制裁で育てそうな顔してる。
「こちらが過去数年度の会計資料です」
問答無用で妖精さんに渡す。
「問題ないようです」
「佐藤さん。これからもよろしくお願いします。では次」
鉄拳制裁は頭を下げて会場から去る。
次は転生勇者に酒場で難癖つけて一行で殺される悪党みたいな顔のおっさんだ。
「惑星佐藤分家ZZ代官の佐藤だ。侯爵家の成り上がり如きが偉そうにしおって」
「そんなに死に急がなくても」
「ぐッ! キサマァ!」
「なんでもいいんで資料よこしてください」
資料が送られてきたので妖精さんに投げる。
「海賊と内通してます」
「衛兵、反逆者。連れてって」
「き、きさまあああああああああああッ!!!」
アホが連れて行かれた。
ローカル権力者の増長が激しい。
こういうときに嫁ちゃんがいれば楽なんだけど、今回はソロでやれって。
俺が嫁ちゃんの言いなりって噂があるみたい。
反逆者が連行されていった。
「惑星ν佐藤分家代官の佐藤です」
傾向がわかってきた。
惑星G佐藤分家は確実にある。
こうして佐藤さんに会いまくる。
いまのところゾークなし。
「惑星レディグレイ村長の佐藤です」
こちらはローカル権力者ではない。
官位のない村長のようだ。
「会計に問題あり。……というか問題しかありません。開発がまるでされてないようで常に赤字です」
「なんというか……普通にヤバい惑星って逆に新鮮!」
他の代官やら市長やらは海賊への利益供与に、横領背任麻薬に密輸……生活安定してるのにアホなのかな?
逆にこういう普通に困窮してる惑星は新鮮だ。
「予算つけますんで開発してください」
「あ、ありがとうございます!」
なんか涙ながらに感謝されてしまった。
「はい次」
「佐藤公爵軍北方面司令官の佐藤です」
順番が早いので近衛団長の親とは関係ないようだ。
「我が軍の現状などの報告書になります」
はい悲惨。
トマスの遠征で壊滅状態と。
「予算つけますんで広報活動を強化してください」
「は!」
強制的な徴兵は無意味だ。
佐藤のアホがやらかしまくったので信用されてない。
簡単にできるのは帝都の学校への奨学金くらいか。
「うーん、領内ガタガタ」
「戦中ですからねえ」
妖精さんもため息をついた。
金はあるんだよね。この領地。
でも人材はトマスの遠征でみんな死んじゃったわけである。
公爵会って帝国のガンだったんだな。
滅ぼしたのは正解だった。
ここまでで面会終了。
あんまり大人数に会っても疲れるだけだ。
俺たちが仕事をしてる間もみんなはビーチで遊んでる。
悔しい!!!
あまりにも悔しいので海パンで俺も乗り込む!
「ヒャッハー!!!」
海に飛び込む。
俺も遊びたかったんじゃああああああああああッ!
「あはははは! 隊長が壊れた!」
メリッサが指さして笑う。
スポーツ系のタンクトップだ。
えっちじゃん!!!
男子どもも腹筋バキバキだった。
俺もだけど。
泳ぎまくって、疲れたら男子とビーチ相撲。
疲れたら相撲というのがもはや脳筋を極めた状態と言えるだろう。
さてそんな状態なのに邪魔が入るのだ。
執事さんが走ってきた。
「お、お館様!!! か、海賊がやってきました!!! 近衛騎士団が裏切った模様です!!!」
「……バカなのかな?」
みんな「あ、あいつら死んだわ」って顔してた。




