第百七十話
大人しく着いていこうとしたら、メリッサとレンがニヤニヤしながら来た。
それどころか男子どもまで。
俺たちは外に出て敷地内のグラウンドに出た。
さらにその男子どもはお神輿みたいに椅子を担いでいた。
その椅子の上には偉そうにふんぞり返った嫁ちゃんが座ってる。
それをどん引きして遠くから見てるのは、まだ純真な心の残ったタチアナである。
「なにその暴君」
俺も嫁ちゃんにツッコミを入れる。
義務ツッコミである。
「みんながやると言うからの! カーカッカッカ!!!」
笑っていると怒鳴られた。
「おい無視すんな!」
完全に無視された形だったからか、連中はイラついていた。
でもさ、俺の都合ガン無視で来たんだから塩対応なの当たり前だよね。
「要件は? ほら、とっとと言え」
「この詐欺師野郎が!」
「ねえねえ、嫁ちゃん。これが騎士団長って、ここの騎士団アホしかいないの?」
「遠征で大多数が戦死したからな。こいつもこの惑星に残された補欠組じゃろ」
あー、あれか。
体育会系部活で一軍選手は素行いいけど、補欠より下の民度が酷すぎる現象。
すると野郎の顔が真っ赤になった。
「てめえ! てめえだって嘘つき野郎だろうが! なにが銃弾を手でつかむだ! できるわけねえだろ!!!」
「それは本当にそう。な、みんな! 普通できるはずねえよな!」
うんうんと全員がうなずいた。
なお、その後の訓練で男子は職種関係なくほぼ全員、女子も戦闘機乗りは全員成功までこぎつけた。
「そうだよ! うちの隊長は常識壊しまくってるよなー!」
「旦那様ですし!」
「婿殿だしな……」
女子は妙に納得し、男子はゲラゲラ笑ってる。
その様子に給湯器団長がオーバーヒートした。
「なめてんじゃねえぞおおおおおおおおッ!」
ぺちん。
俺のローキック、と見せかけてカーフキックが給湯器団長のふくらはぎを捕らえた。
「ぐッ!!!」
そのまま倒れる給湯器。
ぺちん程度でも初めて食らうんじゃ動けないはずだ。
今ごろ力んで余計動けなくなってるところだろう。
「殴り込みに来るんだったら戦闘服くらいは着て来いよ~」
俺は給湯器を見下ろす。
「てめえぶち殺してやる!!!」
涙目で言われてもな~。
それにしてもだらしねえ着こなしだな……こいつ。
ボタンは留めねえわ。
髭は剃らねえわ。
領主を訪問してきたってのに軍帽着用してこねえわ。
剣すら持ってきてねえ。
公爵の近衛騎士だろ?
あ、いいこと思いついた。
「タチアナ~。おいで~」
にっこり。
「げッ! な、なんスか?」
タチアナが来たのでテストの時間。
俺は給湯器の胸倉をつかむ。
「軍の服装規定違反当てゲーム! 今日の回答者はタチアナさんです」
「性格悪ッ!」
「げへへへへへ!」
俺は東南アジアの獅子舞みたいな顔で笑う。
俺の様子からただ事ではないと感じ取ったのか、タチアナは頬をヒクつかせてる。
「えーっと、まずボタンを上まで留めてない」
「正解」
ぱーんっと給湯器の頬にビンタ。
「て、てめ! なにす……」
「はい、次」
「か、階級章が曲がってる!」
「正解」
ぱーん!
「ボタンが取れかかってる!」
「正解」
ぱーん!
三発目で給湯器が白目を剥いた。
「あ、たった三発で気絶しやがった。タチアナ。次は?」
「頭髪とひげ!」
だらしねえんだよな。こいつ。
グーで殴ろうかと思ったがぽいっと捨てる。
「諸君らも挑戦するかい?」
俺は雑魚どもに笑顔を向けた。
「てめええええええええええ!!! こいつらぶち殺せ!!!」
アホどもが襲いかかってきた。
はい失格。
「みなさん! 懲らしめてやりなさい!!!」
「おっしゃ! レオの許しが出たぞ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
男子どもがヒャッハーしながら突っ込んでいった。
いつの間にか神輿を降りてた嫁ちゃんが椅子に座って高みの見物モードに入る。
俺は嫁ちゃんの横に立つ。
レンも乱闘に参加しないで立っていた。
メリッサもゲラゲラ笑ってるだけだった。
「参加しないの?」
「隊長とか俺とかレンが参加したら一方的すぎて面白くねえじゃん。今回は見てるわ」
「旦那様が参戦したら一瞬で終わりますからね」
「婿殿が喧嘩してもおもしろくないのじゃ」
ひでえ言われようである。
「あはは! ほらそこ! パンチパンチ! にしてもバカだね~。あいつら。謝るチャンス棒に振っちゃって」
「なんでだろうねー」
「そこが隊長の一番ヤバいとこなんだよね。すごそうに見えないけど強者の雰囲気あるんだわ。中途半端なやつはそこで脳がバグっちゃう」
「あ、それな。わかるぞ。婿殿は腰が低いからの~」
「で、隊長どうすんの?」
それまでゲラゲラ笑ってたメリッサがいきなり真顔で聞いてくる。
「どうすんのって?」
「あいつらの処遇」
「クビかな? 普通に」
「おや婿殿。斬首にするのか?」
「やだ怖い! 普通に解雇だよ。あれを育てる自信ない」
「だろうな。酷い有様じゃ。……このレベルの連中が自分の頭で考えて殴り込みに来るかの~」
「デスヨネー」
タチアナだけはキョトンとしていた。
「どういう意味っスか?」
「あおったバカがいるって意味」
そこまで答えると喧嘩が終わった。
全員ノックアウトされてた。
我が士官学校生は、ほぼ無傷。
だってゾークよりも弱いもん。
士官学校の男子陣って一人でゾーク一匹相手にできるし。
補欠の騎士じゃ勝てるはずないわけよ。
「……強すぎるだろ」
タチアナはどん引きしてた。
「ようこそジェスター! なあに、そのうちタチアナもこの程度はできるようになるさ!」
「人間やめたくねえ!!!」
「大丈夫、大丈夫。ピゲットのおっさんが来なければ死ぬような訓練ないし」
「え? さらにやべえのがいるの?」
「うん、嫁ちゃんの近衛隊。俺たちの師匠」
「実家に帰らせてもらっていいっスか? あと楽で給料のいい仕事紹介してください」
図々しいなこいつ。
そのまま俺たちは建物の中に入り、執事に警察に通報するように伝える。
騎士たちは警察に逮捕。
俺も事情を聞かれる。
するとすぐに騎士の家のものから謝罪したいと連絡が入る。
嫌でゴザル。
なんて言えないので会うことになったけど、順番は最下位。
面会予定の最後尾だ。
旅行気分だったけど、めんどくさいなこの領地。




