第十七話
はい、軍隊で真人間になったヤンキーです。
ヤンキーじゃねえっての!!!
士官学校の幼年部になじめなくて脱走しようとしたの!
友達いない生活のつらさがわかるか!
一人食堂で食べるメシの味を知っているか!
「はーい、二人一組になれー」
で一人だけ余る苦しみが貴様らにわかるのかー!!!
男子寮で猥談の一つもできず、女子との会話が幼年部通算三分未満のぼっちの苦しみを!
軍隊に入ってもまともに生活できないことが約束されているコミュニケーション能力皆無野郎だぞ!!!
ぶっ殺すぞ!
士官学校高等部で猫被って実家ブースト憶えたら最低限生きられるようになったわ。
その代償として性癖が歪みまくったわけである。
ということでザイン村。
農協の建物がある。
100年前は帝都惑星のショッピングモールがあったらしいが、地元商店街を滅ぼして撤退。
以降、農協しかなくなった。
以降人口は減り続け、若者はサラリーマンを目指し領都へ。
高齢化率もうなぎ登り。
今では他に住めないヤンキーしか地元に残らない。
しかたないので俺んちがある領都【サザンクロスシティ】から移動販売車が派遣されているほどだ。
ジェスター専用機から降りて村へ徒歩で入る。
じいさまたちが出迎える中、ロケットリーゼントの若者が声をかけてくる。
「おい、領主んとこの末っ子!」
いますぐ打ち首にしたいが我慢。
アホの子をアホの子のまま教育の機会を与えなかったのはうちの親父のせいだ。
領民がアホの子で税や制度に疑問を持たない方が統治が楽だと判断したのだ。
俺は理系偏重で「研究者は研究だけやっときゃいんだよ! 税金とか余計なことは国に任せておけ!!!」って社会の方が統治が楽だと思う。
新卒就職率でミスすると革命起こされて死ぬけど。
で、ヤンキーは続ける。
「俺も戦ってやる!」
「……はあ」
ため息が出てしまった。
幸せが逃げてしまいそうだ。
俺は拳を握る。
振りかぶってそのツラに拳をぶち込んだ。
「軍人をなめるなボケが!!!」
態度が悪かったのは教育しなかった俺たち一族のせいだ。
だが軍というこちらの領域に土足で踏み込んだのはこいつが悪い。
別に自分のためじゃない。
ここで殴らなければ、嫁か近衛隊かメリッサか……とにかく誰かがこいつを始末してただろう。
俺が殴ったので許されたのだ。
「あー、そりゃ隊長怒るわー」
メリッサが納得する。
その手は銃に手をかけていた。
やはり俺が殴らなきゃ殺す気だったか。
「いつも隊長体張ってるもんなー。兄ちゃん相手が悪かったな」
メリッサが肩を叩く。
今まで黙ってたクレアも追随する。
「私たちだって怖いのに。勇敢なフリなんかしないで」
クレアから本音が漏れた。
たしかに爆発があちこちで起こる戦場に出るのは毎回恐ろしい。
戦ってる人間がビビリ散らかしてるのに、素人が偉そうに「戦ってやる」なんて言ったらぶち殺したくもなるだろう。
「いつも前線で戦ってる婿殿が激怒するのはしかたない。始末しないのは名君の片鱗だろうな」
近衛のおっさんたちも同意してくれた。
おっさんたちも俺が殴らなきゃ、その場でヤンキーをぶち殺してたことだろう。
殴ってよかった。
「貴様ら領民はさっさと避難しろ!」
俺はそう言って背を向け、嫁の駆逐艦を出迎える。
なぜかジジババたちが俺に熱い視線を送っていた。
「ほえー、坊ちゃんちゃんと軍人さんになったんじゃのう」
「怖いけどかっこいいのう」
なぜか人気が爆上がりしたっぽい。
駆逐艦が荒野に着陸し、装甲車に乗った嫁がやってくる。
「婿殿! 来たぞい!」
「次はどうします?」
「偵察ドローンによると領都はゾークに囲まれておる。補給が終わり次第、解放するぞ」
補給は簡単だ。
捨てるものを捨て、入れる物を入れる。
こういった軍船にはリサイクルシステムがある。
とはいえ惑星の地表の方が各種土壌菌や水の状態はいい。
なので捨てるのは再利用不可能になった汚物やゴミの残りや、各種フィルター、それにバランスの崩れた菌資材である。
そしてフィルター交換や菌資材を補給する。
あとは肥料やら農業用のクエン酸処理した鉄資材やらカルシウム剤やらだ。
これはゴミの再利用で補充できるが、初期は資材で補充した方がいいとされている。
さらに艦内植物栽培用の抗菌剤。
これは菌やその抽出物、それに化学薬品。
で、今栽培してるものは収穫して滅菌と殺虫剤散布。
これをやらないと病気と害虫が発生する。
Gなどの不快害虫はドローンで処理するが、農業害虫はそうはいかない。
この処理をちゃんとやるかやらないかで三割近く航行可能距離が変わる。
食料問題は常に付きまとうものなのだ。
クリーニングに殺虫、滅菌処理が終わり物資搬入。
この間に領都が落とされたら悲しいがしかたない。
これでも全力で急いでいる。
指揮側になった今だからわかる。
私情は捨てるべきだ。
「少しは焦ってもいいんじゃぞ」
嫁が俺を気遣う。
だけど俺はなんでもない風を装う。
「俺が騒いだら作業が進まなくなるっての」
半日ほどで作業は完了。
これで衣食住に困らなくなった。
ここからは輸送車で機体を運ぶ。
陸路で領都に近づいて襲撃する作戦だ。
乗り込む前に嫁が演説する。
「領都サザンクロスシティを解放するぞ! 皆の衆、ここを拠点にして順次皆の故郷も取り戻すのが計画じゃ! 今日我らは勝利を手にする! それはレオのためではない! 自分、個人のためでもある! 行くぞ! 自由のために!」
みんな気づいていた。
特にここから家が遠いものは特に。
自分の故郷が滅んでるかもしれないことに気づいていた。
だけど俺の故郷を救うことを嫌がるものはなかった。
俺は最初に皆のために犠牲になろうとした。
そのことをみんなは俺の何倍も重く考えていたのだ。
その共通認識に俺の嫁が「ここを拠点にして順次皆の故郷を取り戻す」と言ったのだ。
俺が言ったのと同じだ。
俺なら約束を守ると思ったのだろう。
これが指揮官の重圧ってやつなのだろう。
俺、生徒代表で現場指揮官だし。
胃が痛くなる。
だけど俺には逃げることなど許されない。
この領地を開放することは勝利条件だ。
だけど家族の安否は勝利条件に含まれない。
むしろ親父はこのまま死んだ方がいいかもしれないまである。
嫁が耳打ちした。
「婿殿。あのな、ちゃんと家族も救うのじゃ」
「さすが宇宙一のいい女」
「うむ!」
嫁にそう言われちゃがんばらないわけにはいかなくなっちまったな。
さあやるか。
「クレア、行くぞ」
「うん!」
輸送車の扉が閉まった。
俺たちは専用機に乗り込んだ。