第百六十八話
俺のクローンを実戦投入して全員死なせたという非人道的な実験の話題が巷を騒がせていた。
首謀者の実験部門の特別職の大佐の供述では「このままでは負けると思ってやった。私は間違ってない」とのことである。
酷い行いであるのは争いはない。
だけど家や生活を奪われた市民の間では、「しかたなくね?」という声もチラホラ。
それとほぼ同時にわいたのが、「オラんとこの殿様になにすんだボケが!!!」というマジギレ勢である。
これは難民受け入れしまくってるカミシロ侯爵領だけではなく、一度も行ったことのないカミシロ公爵領、さらに寄親と名乗った憶えはないけど実質俺の派閥であるメリッサの実家にレンの実家、それに俺と関係のある家が一斉に苦情を申し立てた。
これは予想通り。
だけど予想外だったのは俺と関係のない伯爵、子爵、男爵家、さらに存続した公爵や侯爵家もブチ切れてた。
要するにまともな貴族が全員俺側について大騒ぎしたのである。
そりゃね、俺のクローン許したら次は自分たちの番だもんね。
【領民なんていう下民はクローンで増やして戦いに送り込めばいいよ】
なんて帝国が口を滑らせたら最後、帝国自体が滅ぶだろう。
遅れてその事実に気づいた市民がキレた。
そのまま暴徒と化した市民はもはや様式美とも言える軍研究所への放火を行った。
なんか嫁ちゃんたちが暴徒に食料配ってたのは気にしたら負けだ。
はっはっは! 悪が滅びるところを見るのは愉快愉快!
当面の措置として俺のクローンには無条件で市民権が与えられることになった。
さて、さらに最悪のタイミングで起こってしまった俺への暗殺未遂である。
市民への締め付けでもするのかなと思ったら、研究所焼き討ちはガス抜きだった。
銃弾をつかむ俺の動画はしつこいくらいに繰り返し報道されていた。
凶器は帝都襲撃のどさくさに盗んだ軍用ライフル。
背景がわかってくるにつれ、【レオ・カミシロ人外説】が巷で活発に議論された。
俺の銃弾つかみ芸に興味を示したのが軍である。
調査の結果というか、ジェスターの能力ではなかったことが判明。
なぜならメリッサがやってみたいと言ったので実験したわけだ。
とりあえず素手でつかむと手の皮が悲惨なことになるので戦闘服とバトルグローブ着用で実験した。
メリッサは一度で成功。ドヤ顔してた。
エッジとアリッサも成功。
お調子者の男子が試さないはずもなく、男子のうち5名が成功。
ただコイツらは戦闘服を着てなかった。アホだから。
一人が調子こいてつかみ損ねて弾道が逸れた結果、自分の足に銃弾が突き刺さった。
だから戦闘服着ろとあれほど。
そのまま救急搬送。
ナノマシンの応急措置ですぐに回復したが、俺を含めて男子は大将閣下にどちゃくそ怒られた。
中途半端に止めたから、貫通しないで肉の間に弾がそのまま……。骨も折れてた。
……痛そう。
ところがここまで重傷だったのに、病院ついたときにはすでに治りかけてた。
銃弾の摘出は必要だったけどね。
これは俺が長老からもらった癒しの力っぽいけど真偽不明。
というか使い方がわからぬのである。
いったん棚上げに。
その後、軍人共済の担当者にも怒られた。
だって俺隊長だもんね。
怒られるのが仕事だよね……。
始末書の山の処理で泣きそうである。
中間管理職の悲哀を経験する17歳……。ぴえん。
で、軍は「シミュレーターのせいじゃね?」というアホみたいな結論を出した。
怪我したアホも含めてソロモード攻略した人型戦闘機乗りだったからね。
その結果、アホみたいな数の注文がカミシロ工業に入った。
軍だけじゃない。
各惑星の領主軍の注文が殺到した。
そのためカミシロ工業の従業員数はうなぎ登り。
工場も四つほど増やした。
これ需要なくなったらどうすんだよ……。
ということで日和った俺の提案で初心者向けや重機操作のシミュレーターも販売することになった。
異常なほどの注文が入った。
そりゃ人手足りないから需要あるよね……。
というわけでカミシロ工業はもはや俺の管理できないところまで拡大しまくっているわけである。
……コケたときが怖い。
よし、次は人型戦闘機用の設計ソフトを軍に売り込もうっと。
大野の娘の京子ちゃんが妖精さんと共同開発したんだってさ。
俺たちの戦闘データから、関節部分が強い機体を設計できるんだって。
……ほぼ俺が機体壊したデータじゃねえか。
さらに新しい戦闘機用のOSも売り込むんだって!
あはははは……もはやなにがなんだか。
俺の嫁候補として送り込まれてきたのに、今までほぼほぼ接点がなかったけど……京子ちゃんは機械さえいじれればいいのね。
こうして俺の心の平和は守られ……。
え?
自分の公爵領見てこい?
おおー! そろそろ行かないとなと思ってたんだわ!
「新婚旅行だな!」
嫁ちゃんのテンションがマックスになった。
もう儀式だらけで、さすがの嫁ちゃんも死んだ目になっていたところだ。
俺も自領地の資料を読む。
さんざん帝国を牛耳ってきた公爵会だけあって公爵領はアホみたいに広い。
無駄に惑星も多く、帝国の良い場所を一人占めしてた形である。
その中でも領都の惑星、改名して【惑星カミシロ本家】は素晴らしい。
【風光明媚な水の惑星。高級リゾートとして有名で高級海産物は帝都のホテルで重宝されている】
へー。すげえな。
大トロとかたくさん食べられるのだろうかと、貧相な想像力をめぐらせる。
「皆も連れて行くぞ」
そりゃそうだな。
みんな有名になりすぎて買い食いにもいけない状態だ。
相当不満がたまってる。
ここでガス抜きしてやろう。
院生や大学部の学生の分もホテル取ろうっと。
……え? 俺の所有物? マジで?
ピゲットにも招待状出しとこう。
「兄上も誘っていいかの?」
「どっちの?」
ウォルターは誘わないだろうけどさ。
トマスとサイラスは誘いたいな。
「二人ともじゃ」
嫁ちゃんも同じ考えだった。
「ういー」
双方の近衛隊の分も予約っと。
予約というか、家令に【領地視察するんで~人分の宿確保してね】ってメッセージ送るだけなんだけど。
……権力怖い。
軍に休暇を申請したら【公務扱いでいい】と言われた。
暗殺未遂のお詫びかな?
とにかく楽しもうっと。




