表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】羅刹の銀河 ~取り返しのつかないタイミングで冒頭で死ぬキャラになったので本当に好き放題したら英雄になった~  作者: 藤原ゴンザレス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/537

第百六十五話

 どうやら自分はクローンらしい。

 アタシはタチアナのはずだ。

 デルタ男爵領防衛軍の新兵から帝国軍の二等兵になって、たしか死ぬ前の日に一等兵になった。

 上がみんな死にやがったから特別措置で一等兵だってさ。

 5人姉弟の長女。

 でもそれは本物のタチアナの記憶だ。

 アタシのじゃない。

 社会的には同一人物らしいけどね。

 うちは、もともとどこかの侯爵家のメイドをしてたらしい。

 だけど、こないだ死んだクソババア、祖母が侯爵の当主だか息子だかとヤってガキを作った。

 貴族と結婚してハッピーエンドなんつーのは物語の中にしか存在しない。

 ババアも同じだ。

「ガキだけよこしてお前は出てけ」って言われたから野郎を包丁で刺してコロニーに逃げてきたそうである。

 その後、クソババアはうちのババア……おっと同じじゃわからねえか。

 アタシの母親を育てたらしい。

 でもさ、親のダメな部分って遺伝するんよ。

 母親もコロニーのマフィアのガキを妊娠した。それがアタシだ。

 下っ端マフィアにガキが育てられるはずもなく、母親はアタシを産んだら捨てられた。

 で、その後、男を渡り歩いて次々と父親の違う子を産んだ。

 それが姉弟。女二人に男二人。

 で、アタシもクソ貧乏な中、15歳になった。

 ババアに体でも売れって言われたから地元の軍に入った。

 ババアは死ねばいいと思うけど、妹や弟には罪はない。

 いっちょ働いて生活が安定したら引き取ろうと思ったってわけよ。

 防衛軍なんて海賊でも来なきゃ死ぬことはねえからな。

 ……だけど、ある日ゾークどもがやってきてアタシたちの半分が死んだ。

 アタシはなんとか生き残って戦ってた。

 もうそろそろダメかなって思ったとき帝国軍がやってきた。

 あー、死なないですむわ。

 そう安堵してたら帝国軍に誘われたわけよ。

 いやー、国の金で食うメシうめえわ!

 死んでも金が払われる。

 コロニーの売春婦の一生分くらいの額だ。

 売春婦なんて、40歳まで生きられねからね。

 これがありゃ、妹どもを領都のまともな学校に行かせてやれる。

 ありがたやありがたや。

 さっきまで死ななかったことを喜んでたのに、いまじゃ死ぬことで頭がいっぱいだ。

 要するに無駄に死ぬのが嫌だっただけなのだ。

 はいはいサクッと死んで家族の肥やしになりましょうかね。

 そのはずだったのに!


「てめえクロード! 金返す前に死ぬなボケ!」


 それが復活の第一声だった。

 基地が襲われてサクッと死んだわけだ。

 カニの化け物に頭から食われた。

 頭蓋骨が割れる音は記憶に残ってる。

 同じ部隊のクロードは復活を望まなかったらしい。

 そこにはいなかった。

 昨日貸した500クレジット返せボケ。

 心で罵倒すると私は冷静になった。

 目の前の医師の技官に質問した。


「あー、技官殿。なんでアタシ、復活したんスか? クローン作成を【望まない】に丸つけたんすけど」


「ご家族の意向だ。クローンは君自身ではなくご家族のための処置だからね」


「えーっと、技官殿。軍の弔慰金は?」


「クローン処置に使われたよ」


「クソ! あんのクソババア!!!」


 アホか!

 軍から出る金で妹たちにいい暮らしさせろ!

 ブチ切れたアタシは飛び出して難民キャンプに向かう。

 焼け出された住民が保護されてる場所だ。


「てめえ! ババア!!!」


 アタシがテントに入るとババアと妹たちがいた。


「あ、お姉ちゃん! よかった! お姉ちゃんが殉職したって聞いて。軍からのお金いらないからお姉ちゃんを生き返らせてってちゃんと言ったよ」


 アアアアアアアアアアアッ!!!

 お前か!!!

 それはお前らのための金だ!!!

 ババア! アンタも止めろ!

 するとババアがアタシに泣きついた。


「タチアナ……よがったああああああ! もう無理しないでえええええッ! アタシちゃんと働くからあああああああッ!」


 殴る気も失せた。

 もうアタシは前のアタシとは別人なんだよ。

 そういうのはさ死ぬ前に言ってくれや。

 いたたまれなくなった私は逃げるように基地に帰った。

 そしたらちょうどよく、アタシの超能力検査の結果が出た。

 なんでもレアな能力者らしい。

 そしたら軍の本部への配置換えを命じられた。……助かった!

 こうしてアタシは帝都惑星に配属されることになった。

 検査の数日後に軍の偉い人と面接した。


「その……なんだ。タチアナ一等兵。悪いが事情を説明させてくれ。君は我々が決戦兵器と位置づけてる能力者になった」


「前線に出るんですね。次こそ戦死弔慰金支給してください」


 しゃあねえ。もう一回サクッと死んでくるわ。


「そうじゃない。軍はジェスターを増やしたいと思ってる。たいへん申し訳ないが……君には……同じジェスターであるカミシロ大尉の子どもを産んでほしい」


「嫌ッス。売春したくねえから軍に入ったのに、これじゃ体売るのと同じじゃねえっスか」


「だよねー。私もそう思う。だが……人類の存亡がかかっている……」


「大きく出たっスね。だいたいカミシロ大尉って嫁さん皇族じゃねえですか。いくら命あっても足りねえッスよ」


「それはそうなのだが……ジェスターがいなければゾークに勝てぬのだ……実際、君の故郷も地獄になったはずだ」


「いやね、こちらも好みってのがあるんですわ。自分は喧嘩が強いヤンキータイプが……」


 すると軍の偉い人が写真を送ってきた。

 上半身裸の男子。

 やんちゃそうな顔。

 おっと、軍の広報の写真よりもこっちの方が……。

 すげえ筋肉。

 腹筋ばっきばき。

 好みのゴリマッチョじゃないけどよだれが……。


「……これはこれはすばらしいものを……じゃねえよ! こんな美形! チビでブスで貧乳で性格の悪いアタシなんかじゃ釣り合わねえッスよ!」


「それに関しては安心してくれたまえ。レオ・カミシロ大尉はモデルや女優よりも同じクラスにいそうな、どちらかというと冴えない女性に興奮することがわかっている」


「いま遠回しにアタシのことブスって言いやがりましたか?」


 自分でもびっくりするくらい低い声が出た。


「い、いや、いま自分で……」


「うるせええええええええ! 自分で言うのと他人に言われるんじゃダメージの桁が違うんスよ!!!」


「えー!!!」


「とにかく嫌ッス!」


「出るよ」


「なにが?」


「すごい報酬、出るよ」


 額のサンプルが送られてくる。

 え?

 妹たち全員を帝都の学校行かせても余裕じゃねえか。

 え?

 帝都の市民権もらえる?

 マジっすか?


「……やるっス」


 こうしてアタシはカミシロ大尉を落とすという無理ゲーに望むことになった。死ね。


 後日、アタシは固まった。

 レオ・カミシロに会ってみたら実物の方がイケメンだったから? 違う。

 お坊ちゃん集団の頭ハッピーセットにイラついたから? 違う。

 貴族階級女子どもにいじめられた? 違う。


「なんで……あんたらそんな働き者なんスか?」


 エプロンを着けたレオ・カミシロに廊下で遭遇した。

 男子便所掃除らしい。

 ……あんた大尉だろ? 隊長だろ?


「当番だからな♪」


 この隊はおかしい。

 普通、末端の部隊なんて自由時間は酒飲んだり遊んだりしてるものだろ。

 だけどここじゃ、隙間時間には隊員全員が資格や大学校の受験の勉強をしてる。


「なんでそんな勉強熱心なんスか?」


 ってレオ隊長に聞いてみたら。

 無が貼り付いた表情で「できること増やさないと死ぬから」と言われた。

 なんだこの部隊?

 これが無敵の猟犬部隊?

 筋トレなどの基礎トレーニングにシミュレーターの使用も積極的だ。

 おかしい。

 士官学校のお坊ちゃんより世間を知ってると思ってた。

 だけどアタシはいま……ケビンにアイロンがけを習ってるところだ。


「はい、シワがつかないようにね」


 訓練で全身筋肉痛の手が震える。


「これ週一でやるんスか?」


「毎日だよ♪ 士官学校は服装うるさいからねー♪ がんばろう!」


 なんだよ! 服装うるさすぎだろ! ここさー!!!

 なんだそのでかいおっぱい!

 コロニー民なのに! 野郎みたいな名前なのに!

 クソ! 顔もかわいいし! いいにおいするし!

 アタシじゃ勝てる部分がない!

 なんだよ!

 どう考えてもレオ・カミシロ落とすなんて無理ゲーじゃん!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ジェスター特性って凄いネ!
>レオ・カミシロ大尉はモデルや女優よりも同じクラスにいそうな、どちらかというと冴えない女性に興奮することがわかっている (꒪ཀ꒪*)グフッ べ…別にええやないか…… 恋愛しようにもジェスター能力でギ…
騙されないでw その、オッパイは後から出来たものだから。 一応天然だけどw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ