第百六十二話
インフラ破壊した影響は俺の始末書に影響を与えていた。
なぜ近衛隊のエリートが報告書を書けないのか?
それは実に簡単な話だ。
事務がいるのよ! 本来なら!
トマスの部隊は事務専門の職員がいたの!
でも公爵会&裏切者の文官を粛正してしまった影響がこんなところにまで波及していたのだ。
行政の事務職がいないと国って簡単に荒れるよね。はっはっは!
俺も書類仕事が嫌すぎて脱走を考える瞬間があるくらいだ。
なんで世の人たちは事務職になりたがるのだろうか?
というわけで俺が書類を提出。
始末書の山にくじけそうになったが、妖精さんの【逃げたらすぐ通報しますんで】という熱い想いを汲んで踏みとどまった。
で、インフラ破壊はいいんだ。
片付けるのも、直すのも、俺がやるわけじゃない。
報告書と【トマスがごめんちょって言ってました】って始末書書けばいいだけで。
別に俺悪くないし。
ぬはははは! トマスを裁くことなど軍部ではできまい!
でもクーデターだけはかんべんな。
というわけで話は自然と俺たちが捕獲した不可視のゾークになるのだった。
ミサイルで吹っ飛んだゾークは調査で学者がせっせと破片を探していた。
俺たちが捕まえた方は、実験動物になったわけである。
光学迷彩か透明か。
それはわからないけど、ゾークという種に対する貴重な資料である。
なおケビンもゾークだ。
解剖する話も出てたらしいけど、嫁ちゃんが激怒したので話は出てこない。
さすが帝国の科学者! 倫理観ゼロだぜ! いつかぶち殺す!
ただし定期的で徹底的な健康診断は強要された。
月に一度、一泊二日の入院である。
これはしかたない。
嫁ちゃんの権力でも【本人の健康のため】と言われたら阻止できなかった。
【レオ・カミシロを個人的に敵に回すぞ】も効果なかった。
嫁ちゃんがイライラしてると軍部の措置でケビンの市民権は回復。
少尉なのだから市民権あるだろという話である。
あとは人権を盾にすればケビンの解剖はないだろう。いまのところは。
本当にヤバくなったら妖精さんが帝国の全システムをダウンさせて、その隙に夜逃げする予定だ。
とりあえずニーナさんの地元に潜伏すれば追って来られないだろう。
ケビンはいいとして、敵の話だ。
結果から言えば敵は人間だった。
なに言ってるかわからねえと思うが、熊でも猿でもなく人間だった。
DNA鑑定の結果、行方不明の侍従長の仲間だった。
要するに侍従長と愉快な仲間たちなんてゾークにとって実験動物でしかないわけである。
俺の見てないところが地獄みたいなの、本当にやめてほしい。
俺たちはようやく訓練を終え……と思ったら俺とエッジ、それにアリッサは居残り。
特殊部隊の人と訓練だって!
嫌だなとブツブツ文句を言ってたら、座学だった。
講師は40代くらいのおじさんだ。
階級は少佐か。
特別職だと階級からどれくらい偉いかわからないんだよね。
准将くらいになるとその部門のトップ近くだなってわかるけど。
講師が話を始めた。
「エッジくん、君は普通の超能力者だね」
なんかトゲのある言い方だな。
「は! 火炎、念動に才能がありました!」
エッジは元気に答える。
斜に構えるものが多い我が隊では貴重な良い子だ。
「エッジくんと比べて二人は異常だ」
「そりゃねー、サポート能力しかないアタッカーですから」
ジェスターのさだめである。
「大尉、君ね、実戦で大きい炎が作れるのと、攻撃に当たらない能力どっちが強い?」
「攻撃に当たらない方ですかね?」
「それを味方全員に付与できるのだよ。君らは」
「ほう」
知ってはいたが冷静に考えるとアホみたいな能力だ。
どう考えてもRPGじゃなくてSLG向きだよね。
「君ね。例のシミュレーター、君の隊の開発したっていう」
「ああ、アレっすね。リニアブレイザーがわいてから先に進まないんですよー……」
もうちょっとでいけるような気がするんだよ。
そのさー、もうちょっと攻撃当たらないとか、もうちょっと完全な連携をするとか。
「あのね! 平均生存時間30秒のシミュレーターで30分戦ってる異常さに気づこうよ! あれさー! 有用性はわかってるのに誰もマネできないから正式配備できないんだよ!!!」
「教科書通りの戦術で全員が忠実に作戦を実行しながら攻撃に当たらなければ先に進めますよ」
キリッ!!!
やだ! 攻略法教えちゃった!
「できねえっての! トマス殿下の隊ですら一分で全滅だぞ! 私もやったがソロ30秒で死んだぞ!」
「ソロなら人型戦闘機乗りなら全員クリアできますが?」
ソロなら当たらなければどうってことはない。
リニアブレイザーも一体だ。
「それを成し得てるのが君らの能力という結論になった。軍はジェスターを決戦兵器とみなして大型の予算を組んで捜索中だ」
「ほう……」
「だけどジェスター探しは難航している」
「えー、でも養殖施設から逃げ出したザリガニみたいに増えまくってるんじゃないですかね?」
ニジマスとかさー。
そういう感じじゃん。
俺ら。
「……見つからないんだよ。君らの周囲でしか見つからないんだ!」
「なんと! うちの親戚とかは?」
少ないけどいないことはない。
「いなかった!」
「うちの兄貴は? ほらサム兄とか!」
「能力の適正はあったが弱い」
「やだなんで」
ジェスターは生命力強いのに。
「そこで我らは君らが例外なのだと仮定した。そこで数百年計画だ。まずレオ大尉。君にはハーレムを形成してもらう」
「人工授精って言いださないだけマシになりましたね」
「やったら君、帝国のシステム壊して逃げるだろ?」
「まあ否定はしないッスね」
「あのー、講師どの! 私は?」
「君には最低4人は産んでほしい。これはお願いだ」
アリッサはエッジを見ながら「やーん♪」って照れてる。
エッジは涼しい顔をしてる。
うーん、この余裕。お預け食らってる身としては見習いたい。
「あー、男だったら増やすんですね。男から増やす方が楽だから」
野郎は無責任にばらまけるもんねー。
「そういうことだ。あくまで人道的な【お願い】だ。金も出す」
気の長い話だなって思うけど軍部は本気なのね。
こうしてグダグダのまま訓練は終了するのだった……。




