第百六十話
全力で雑用を終えて帰る。
作業服から芋ジャージに着替えて体育館に行くと、すでに仲間がシミュレーターに陣取っていた。
あ、これ体育館って言ってるけど多機能屋内訓練施設って名前なんだって。どう見ても体育館だけど。
あれからさらに端末は増え、全部で百台設置した。
確実に生産ラインこれだけのとこがあるぞ……。
なお設置は電気工事の国家資格持ちの俺が中心にやってる。
あと工兵課程履修したやつらも強制的に手伝わせてる。嫌とは言わさん!
ゲーセンと化した体育館。端末から出る熱を外に放熱するファンの音が響く。
ケビンは端末に座って複数窓を開いてドローンを操作してた。
どうやらレーダー車から指令を出してるようだ。
今回は前で戦いたがった成績下位メンバーも後方での特殊車両に配備されたようだ。
いや人型戦闘機の成績が下位ってだけで、レーダー兵だったりドローンオペレーション資格だったりみんな特技持ちなのである。
なぜお前ら前に出ようと思った?
ミサイル車が数人。
ニーナさんは戦車や榴弾砲を遠隔操作、さらに通常戦闘機を数台同時に操る。
人型戦闘機勢も前とは違う。
まずは俺を中心とする第一班。
エッジを中心とする第二班。
クレアを中心とする第三班。
メリッサを中心とする第四班に分けた。
近衛隊の伝統芸である盾での強行突破はあきらめ、なるべく回避する方向にした。
【ビーム回避なんてできんのかよ!】
って話ではあるがやるしかない。
人型戦闘機乗りに【レオお前どうやってんだよ!】って詰められたが【気合】としか言いようがない。
でも何度かやったらできるように。
要するに慣れよ、慣れ。
殺気を感じたら死ぬ気で避けつつ、殺気に向かって撃てば攻撃は当たる。
あとは神経を研ぎ澄ませて、位置を確認しながら絶対当たる位置に追い込まれないように……。
これが難しいのよ。
俺の課題である。
位置取りはメリッサの方が上手だ。
だからメリッサも詰められる。
「えー、斬ってくるじゃん。だからサイドか後ろに回り込んで、敵を障害物にして身を守りながら隊列を崩すわけよ。でさー、余裕があれば手首をカッティングしてさー」
やはりボヤッとしてる。
【できるか? それ?】で、ある。
検証したと言ったらその場でやることになった。生身で。
台所でもらってきた業務用樹脂ラップの芯を持ってメリッサを囲む。
するとメリッサは一番前の男子、つうか俺の目の前に出てくる。
俺の剣を受け止めつつ腹に当て身、「うっ」となったところでサイドに回り込む。
俺の首をつかんで横の男子のところに差し出し【俺シールド】でブロック。
男子は容赦なく俺の頭に一撃、地味に痛い。だけど、もうメリッサはそこにはいない。
別の男子が後ろから襲いかかったはずなのに。
と思ったら背後に回ったはずの男子の顔をパコーン。
後ろに回って尻を蹴るとその男子がよろけてきて俺に激突。
きゃいん!
俺は吹っ飛ばされて受け身を取る。
下が固いでゴザル。
「って感じでさ、集団連携の練習してない相手ならここまでできるよ」
「メリッサさん……俺の被害が大きいのですが」
「だって隊長なら、俺の本気受け止めてくれるでしょ♪」
かわいい顔してもだめ。
「これを銃相手にやる♪」
「できるかーい!!!」
「や・る・ん・だ・よ!!!」
という茶番が昨日の夜。
だんだんと【自分……人間辞めてきたな……】と全員が思い始めたのが今日あたりか。
俺が仕事を終えて帰ってきたのでトマス隊との演習がはじまった。
トマスは満面の笑顔だ。
顔がツヤツヤしてる。
「はっはっは! 我が隊も負けないぞ! なにせあの猛攻から一分生き残ったからな」
全員がトマスを見た。
「え? 一分?」と。
俺たちは、敵の半分を始末したところで負ける状態だ。
この辺で敵の増援でリニアブレイザーが来て全滅するのだ。
まあいいや。
とりあえずやろう。
起動して全員が精神統一。
この時間が重要なことを最近みんなが理解した。
「こちらエッジ。第二班、出撃します」
「こちらクレア。第三班、出撃します」
「おいーっすメリッサだよ~。第四班行くよ~」
「みんなのレオくんだぴょん。第一班いくぴょんよ~」
「死ね!」
みんなからのありがたい罵声までがお約束だ。
全員で飛び立つ。
ステージは地上ステージ。
「後方支援班ケビン! ミサイル来たよ!」
ミサイルが来たらケビンがデコイドローンをばら撒く。
ついでに煙幕。
ケビンの支援の中、俺たちはプラズマライフルで敵を狙う。
いた!
「撃て!!!」
銃撃が敵を貫いていく。
だけどキツい!!!
トマス隊の分だけ敵が増えてる!!!
「ヒャッハー!!! 死にゲーは地獄だぜえええええええええッ!!!」
もう壊れたやつが出た。
もーさー。
でも俺たちは敢闘した。
勇猛果敢に戦う。
「ぐお! レオ! 被弾した!!!」
男子に犠牲者が出始めた。
そのときだった。
「トマス隊全滅」
「はやすぎるうううううううううううッ!!!」
そこから一方的だった。
数の暴力で蹂躙された。
だって敵がいつもの倍だもん。
無理よ!!!
だけど俺はあきらめない。
全方向からの攻撃を避けていく。
「きゃん!!! ケビン機、被弾!」
あー、終わった。
だって俺、ケビンのレーダーをメインカメラにしてたんだもん。
肉眼よりもレーダーを信頼してるのだ。
「り、リニアブ……出現……ぐああああああああああああッ!!!」
リアニアブレイザーが来て男子が蹴散らされた。
もうだめだ!!!
と思ったらデスブラスターで蹴散らされて俺も脱落。
「いつものところで終わるか~」
ここから先に行くのが難しい。
全員で反省会。
するとクレアが手をあげた。
「あのさ、思ったんだけど……これクリアじゃないかな。ほらローグライクもので最後に絶対倒せない敵が出て終了のやつあるじゃない」
「妖精さんどうなの?」
「いやだからぁ! 難易度調整してないんですって! 聞けよお前ら!!! まだ終わりじゃないんですけど、そもそも無理ゲーなんだと気づけ!!!」
「でもさー、いけそうな気するじゃん?」
「一分しないでトマス隊が全滅したんですよ! いいですか! 近衛隊ですよ! エリート部隊ですからね!」
「それはそれとして。もうちょっと最適化すればいけるような気がするんだよ」
「それじゃねー!!! これクリアできたら方面軍敵に回しても勝てるって意味ですからね」
「お、おう……最悪敵に回さないといけない数だからな! なあ!」
なんかの間違いで革命ルート入ったらこのくらいの数を相手にすることになるだろう。
そう考えると重要な予行演習である。
「だな! 殿下が失脚したらそうなるわな!」
「か、勝つつもりだ! この連中! ぶ、武力で国に勝つつもりだ……アホだ……アホの集団だ……」
いやさー、いざってときは妖精さんの力借りて国のインフラ使用不能にしてその隙に夜逃げしようと思ってたんだわ。
だけど勝てるなら勝った方がいい。
暴力はボクらの共通言語!
なんて穏やかな日々はサクッと終わるわけだ。
ほら、まだ透明なやつ倒してないし。




