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第十六話

 降下ユニットを切り離し地に降り立つ。

 関節のサスペンションが衝撃を逃がしガシャンと音がする。

 各計器に異常なし。

 コンピューターの診断もオールグリーン。

 今回……ようやく制御システムを最新とは言わないが、ここ100年のものに変更できた。

 ジェスター専用は動かせなかったので、それ以外を最新式に交換。

 AIでうまいことエミュレータを作ってジェスター認識のところだけは生かした。

 実弾兵器周りの照準補正プログラムは、古いものを使っている。

 実弾兵器が廃止された世の最新式では逆に使い物にならないのだ。

 物理的な変更点としては近接戦闘に耐えられるようにギアを総入れ替えした。

 装甲は相変わらず盛り盛りではあるが、整備役の生徒の腕が上がったため全体的にもっさり感がなくなった。

 次から次へと兵装やらロボやら重機やらが壊れて泣きながら直すのを繰り返せば腕も上がるか。

 地表をローラーダッシュで移動する。

 すると通信が入った。


「隊長、クレア、近くに着陸したぜ」


 メリッサだ。

 それと同時に声が上がる。


「婿殿! 参上したぞ!!!」


 近衛隊のおっさんどもだ。

 今回近衛隊のおっさんどもも標準機だ。

 標準機などと聞くと弱そうなイメージだが、国軍正式採用の機体だ。

 弱いはずがない。

 ただ兵装が光線兵器に特化しているので、装備を変更。

 今でも使ってるトマホークや薙刀、ウォーハンマーやスレッジハンマーをメインに、サブで機関銃やアサルトライフルを装備してる。

 人型重機よりもどう考えてもアップグレードしてる。

 今回は楽勝だろう。たぶん。

 俺は槍を出す。

 パーツごとになってるので組み立てる。


「ふう」


 俺はため息をついた。

 少し疲れてるらしい。


「なんじゃ。ため息なんかついて」


 嫁ちゃんの通信が入った。

 この機体の会話は嫁に監視されてる。


「疲れてるだけだと思う」


「あー、ジェスターは常時発動の能力っぽいからな。疲れない練習をせねばな」


「常時発動かぁ……ってなんで知ってるの!?」


「いやだって、ゾークの名前知ってたじゃろ?」


 そういや実習でポロッと漏らしたかもしれない。


「つい先ほど、帝国議会でやつらの名前がゾークに決まったぞ。どう言い訳する?」


「えーっと、嫁ちゃん。実は俺には異世界で生きた記憶が……」


「あーはいはい。そういうのいいから。おそらくジェスターの能力じゃろ? 一部の超能力では高度な計算によって未来の予測をするらしい。もちろん未来を知っているわけでも、未来のことがすべて書かれてるとか言われるアカシックレコードが存在するわけでもない。なんでも現在の状況で手に入る情報から分析する能力とのことじゃ」


 信じてもらえなかった。

 しかもそれっぽい解説付き。


「婿殿のも同じ系統の能力じゃろうな。だからメリッサの危機には焦っていた。未来予測できるのなら焦る必要などないからな」


 ジェスターはやはり残念なクラスである。

 一見するとなんでもできるように思えるが、実はなにもできない。

 悲しいものである。

 そんな悲しい宿命を持つ俺が荒野を進んでいくと農村が見えてくる。

 ザイン村だ。

 村の中心には防空システムが見える。

 というか……農協と畑と防空システムしかない村だ。

 俺は安易に近づかない。

 実家の惑星でも領民が味方とは限らない。

 親父が領民に捕らえられてる可能性だってある。

 なので背負った対物ライフルを出す。

 三脚を設置してスコープで防空システムを見る。

 防空システムは空に向けてひたすらビームを放っていた。

 その砲台を狙う。


「補正完了」


 クレアの声と同時に引き金を引く。

 ノイズキャンセラーが轟音を遮断。

 砲台が爆発四散した。

 耳は無事だ。

 一つ壊したので駆逐艦が来ても、もう大丈夫だろう。

 と思ったら駆逐艦はやってきていた。

 俺が砲台を壊すと信じていたのだ。

 嫁ちゃん……過剰評価だよ……。


「カカカカカ! 愚かな住民どもよ! 我が威光にひれ伏すがいいッ!!!」


 完全に悪役のセリフだ。

 悪い女である。

 駆逐艦の主砲が火を噴いた。

 別の場所の砲台が爆発した。

 地図で確認すると無人でリモート管理されてる防空システムだった。

 ちゃんと調べてるんだよなあ。うちの嫁。

 指揮官として勝利の後のことまで考えて動いてる。

 住民を攻撃して敵を増やすマネはしない。

 偉い。

 俺は悠然と村に近づいていく。

 防空システムを壊し、嫁の駆逐艦が来れば勝利だ。

 そもそもサム兄から防空システムを壊すって連絡も来てるはずだ。

 あとは領民代表に挨拶すればいいだろう。


「お、隊長みっけ」


 メリッサと合流する。


「婿殿!」


 近衛隊の暑苦しいおっさんたちも合流した。

 俺はわざと対物ライフルを担いで村に入った。

 住民たちはバリケードを設置してパルスマシンガンをこちらに向けていた。

 さすがにロボ相手にそれは無理だと思う。

 実直なのはいいんだけど、ちゃんと教育しないとなあ。


「レオ・カミシロだ! ヴェロニカ皇女殿下と共に化け物退治に来た!!!」


 するとあちこちから声が聞こえてくる。


「領主様の末っ子の!?」


「あ、あの……バイク盗んで捕まったあいつか!?」


「衛星放送の18禁チャンネルを無料で見るための装置を作って逮捕されたっていう」


 黒歴史を中心に語るのやめや!!!


「帝国警察の署長さんに士官学校へぶち込まれて真人間になったと聞いたが……皇女殿下連れてきたぞ!」


 やめろ。

 地方のヤンキーが軍隊入ったら立派になった話にするのはやめろ。

 士官学校行くの嫌だからバイク盗んだだけなの!


「おい、坊ちゃんが皇女殿下と結婚したってのは本当か?」


「本当らしいぞ」


「どうやったらこんな田舎の末っ子が皇女殿下と結婚できるんだ?」


 俺だってわからん。

 ただ性癖を大事にしただけさ。


「なあ話が嘘くさくねえか?」


 おいやめろ。

 俺が一番そう思ってるからやめろ。


「お前偽物だな!!!」


「ざけんなてめえら!!! ぶち殺すぞ!!!」


「この短気さ……坊ちゃんけ?」


「だからそう言ってるだろが!!!」


 このアホどもが!!!


「お、おい! 坊ちゃんが来たぞ!!!」


「坊ちゃんが嫁さん連れて帰って来たぞー!!!」


「ち・が・う! ゾーク倒してここを拠点にするために帰ってきたの!!!」


「ばんざーい! 一生童貞だと思ってた坊ちゃんがこんなに偉くなって! ばんざーい!!!」


「話を聞け!!!」


 心がガリガリ削れてきた。

 メリッサと近衛隊のおっさんたちは腹を抱えて笑ってる。


「その……なんじゃ、婿殿、慰めてやろうか?」


「少し一人にしてください」


 もう泣きそう。

 でも領民からの人気はそれなりにあったようだ。

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― 新着の感想 ―
前線に出た親父って惑星内だったのね…で、どこいったんだ親父?
なんだかんだ領民から慕われてるじゃないかw
[一言] 本当に万歳三唱(二唱)で迎えられたw
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